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まるで米軍特殊部隊?アフガン(タリバン)警察特殊部隊"Yarmook 60"とは

表紙画像(https://x.com/AfgGcpsu/status/1671577605684985856?s=20)


はじめに

 21年8月の終わりに対テロ戦争の名の下に始まったアフガニスタン戦争は終結した。同月15日の大統領官邸陥落から米軍撤退まで、カブール空港やその周辺には青色の迷彩を着た奇妙な部隊がNATO軍兵士と対峙していた。
 その部隊の名は "Badri 313" 。内務省傘下のその部隊はよくあるタリバン運動の兵士のイメージからはかけ離れていた。伝統的な衣装にナイキの運動靴を履いたターバン姿の男達の姿はなく、代わりにアフガン軍から鹵獲したM4カービンを持ち、砂漠色の軽量ヘルメットを装着したサングラス姿の兵士達が辺りを警戒していた。外国軍が続々とアフガンから去る中、この西側の装備をまとった部隊は内外から注目を集め、また新生アフガン政府部隊の象徴として運動支持者から親しまれ続けた。

米兵と対峙するBadri 313。真ん中の兵士は新型コロナウイルス対策でマスクをしている。
政権崩壊前のアフガニスタン・イスラム共和国軍の上級部隊。この部隊の装備をBadriは鹵獲し使用していた。

 しかし今日では彼らの注目度は見る影もない。実任務の面でも暫くの間は幹部の護衛、官邸の警備を行っていたが、最近ではあまりその姿も見られなくなった。直近では今年6月8日に同部隊の隊員が確認されたが、その前の確認は22年6月下旬にまで遡る(筆者調べ)。

23年6月8日にバルフ州で行われたシラジュディン内務大臣代理の演説。右側に立つ警備員がBadri の隊員と思われる₁。シラジュディンが政権掌握後初めて素顔を現した際も同部隊が警備を行っていた。

 今、象徴部隊として名を上げているのが同じく内務省所属の Yarmook 60 (Y60)だ。Badriと同じく西側の装備を着用しているがその任務・特徴は異なっており、他の治安部隊とも一線を画している。今回はこの部隊の遍歴、任務、今後の展望等について触れていく。なおこの記事は現アフガニスタン暫定政権が持つ諸問題・人権侵害の恐れがある事象を称賛する意がない事をここに示しておく。

政府部隊に所属する3組織の代表部隊。左側が国防省のコマンド、右側が情報総局(GDI)のQuick Responce Team、そして中央が内務省のY60₂。

Y60誕生から1年までの流れ

発足

 同部隊が初めて公に姿を現したのは22年1月初頭。この際、内務省は200名の特殊部隊員が3か月に渡る訓練を修了したと発表、同時に数十枚に渡る写真を公開した₃。隊員らは前政権でカブールに駐留していた警察特殊部隊(CRU222)が使用していた訓練所を引き継ぎ、空軍ヘリを使った展開、建物への突入、迫撃砲による攻撃、狙撃などの訓練を行っていた。

内務省はヘリを所有しておらず特殊作戦では空軍の支援が欠かせない。これはイスラム共和国の時代でも基本的に同じだった。
M4カービンやマルチカム迷彩は前政府の警察特殊部隊(CRU222)から鹵獲したものか。黒色のコンシャツを多様するのはY60になってから。
迫撃砲の運用は前政権の警察部隊でも行われていた。砲兵はヘルメットが突入部隊と違う所に注目。
狙撃手は頭にスカーフを被っているが、こうした所作は政権掌握後の政府部隊の特徴の1つと言えるだろう。

 その後、1月23日にはY60を管轄する警察特殊部隊総司令部(GCPSU)のTwitterアカウントが初めてツイートを行い₄、以降は内務省のアカウントと合わせ広報活動を行う様になった。

新旧GCPSUの概要

 そもそもGCPSUは前イスラム共和国政権で警察特殊部隊を管轄する組織として機能していた(資料によってはGDPSUという表記も)。GCPSUは各州の緊急事案に対応する州対応中隊(PRC : Tierで言えば各都道府県に配置されている銃器対策部隊に近い)、更に上級部隊の6部隊で構成されていた(上級部隊はSATに近い)。上級部隊はカブール州のCRU222、ロガール州のCF333、カンダハール州のATF444、ヘラート州のATF555、バルフ州のATF888、ナンガルハール州のATF999で、各地でNATOの特殊部隊員から指導を受けながらテロ対応・武装勢力の掃討に従事していた₅。
 現アフガン暫定政権、所謂タリバン政権もこの組織形態の一部または全体を引き継いでおり、現時点でY60(前222)、333、555、888、999が確認され、新たにカブールに近いパルワン州(名称不明)にも部隊を設置している。

イスラム共和国時代のCRU222。カブールは特にダーイッシュ(ISKP)等による攻撃も多くテロ攻撃に対する経験は豊富だった。
現政権の333。現GCPSUではY60の露出が多いがその次に多いのが同部隊。初登場は22年3月₆。
子どもにペンを渡す現888の隊員。パッチで所属の数字を示めすのはY60以外ではこの部隊のみ₇。

 イスラム共和国時代の隊員が現GCPSUに所属しているかどうかは不明だが、軍・警察の中には前政権の兵士が一定数所属している事から、その可能性も完全に否定する事は出来ない。
 話をY60に戻す。22年2月に同部隊の訓練動画が初めて公開された。映像では装備こそ練度の高い部隊に見えるものの、突入時の確認/手順が甘いという状況で、この時点では武装勢力時代と同じ「見せかけの部隊」と評価されても納得できる有様だった。それでも他の治安部隊にはない訓練内容や動きをしていた為(陸軍一般部隊は更に形だけの閉所戦闘を実施している)、ポテンシャル自体はこの時点で高かった。

空砲アタプタを前の隊員の手元に寄せる隊員。この状況で発砲すれば当然怪我のおそれがある₈。
ヘリからの降下。きちんと足でロープを挟み降下する事が出来る隊員は他組織ではそう多くない₈。陸軍の部隊では腕の力だけで降下した結果、降下中に不安定な姿勢になる事もしばしば。

実戦へ

 Y60の実戦は早かった。2月24日前後から3月中旬にかけて、政府部隊はカブールとその周辺で大規模な武器・装備品の摘発を行った。作戦の背景としては、政権掌握前後の混乱で軍用装備が当局の管理から外れ、それを用いた犯罪や転売等が憂慮されたと思われる。一部住民から作戦の強引さが指摘される中₉、最終的には多数の軍用車両や武器が回収された。Y60も摘発作戦に参加しており、内務省が公開した摘発動画の一部やGCPSUの広報にその場面が映っている。ただしこの際は銃撃戦等の抵抗は殆ど見られず、同部隊にとっては比較的安全な船出だったと言えるだろう。

Y60と思われる部隊が乗る柵付き70ランドクルーザー。通常この車両を使うのはGCPSUの部隊₁₀。

 以後もY60は4月29日に摘発を実施₁₁、しかしながらこの時も実戦時の様子は分からず、また露出も公式以外からは殆ど無かった為詳細ははっきりしなかった。
 しかしながら、リスクの高い事案はすぐに起きてしまった。6月30日に暫定政権はカブールに政権幹部・全土の有力者を集め、ロヤ・ジルガホール(会議所)で大規模な集会を行った。そこをISKPが攻撃対象とし付近で銃撃を開始、すぐに治安部隊と撃ち合いとなった。攻撃者はすべて殺害され被害も軽微だったものの、ISKPが暫定政権への忠誠を意味する本会議を阻止し、信頼度低下を狙っていた事は明確だった。この時、公式には認められていないが、Y60も現地に向かい死傷者を出していたと思われる。情報文化省のメンバーであるムハマッド・ジャラルは攻撃直後、現場に急行したY60と血がついたベストを持つ隊員の写真をTwitter(現X)に投稿した。これがY60の対テロ作戦の初陣であり、今までのプロパガンダ部隊とは一線を画す事が明らかとなったのである。
 皮肉な事ではあるが、18年にタリバンがカブールのホテルでテロを行った際、それに対応したのはY60の前任者であるCRU222だった₁₂。加害者側だった組織の部隊が討伐してきた部隊の後釜でテロ対処を行う、この状況を3年前に想像出来た人は一体どれだけいたのだろうか。

ホール付近に展開するY60と見られる部隊。後ろの警察車両はGCPSUがよく使用する迷彩柄のフォードレンジャー₁₃。
血が付着したベストを持つ隊員。実戦時でもヘルメットの上からイヤーマフを装着していた事が分かる₁₃。

 8月上旬にはカブールの住宅街でISKPの掃討が行われ、この際に撮影された動画の一部にも同部隊が映りこんでいた。この様に初登場から半年の時点で創設時に想定された武器摘発、対テロ作戦が実際に起き、それにつれて同部隊の知名度も徐々にSNS上で上がっていった。

動画の冒頭で一瞬だけ映るY60の隊員とハンヴィー₁₄。他の兵士が私服の中でこうした完全武装は目立つ。

練度の上昇

 タリバン運動が政権の座に就いて以来、軍や警察は武装勢力から正規部隊への変化を推し進めてきた。兵士に迷彩服や制服を与た上で訓練も多様化を進め、軍では閉所戦闘・ヘリや装甲車による拠点制圧、内務省は要人警護・重要施設の警備等を各地の育成機関で広めてきた。
 例えば今年1月に行われた軍の演習では、拠点制圧の為にハンヴィーに乗った地上部隊が展開、拠点には軍団の上級部隊がヘリボーンを行うという大規模な訓練が行われた₁₇。

緊急通報の内容をメモする内務省職員(広報動画)₁₆。
訓練でIED攻撃を受ける陸軍の地上部隊。IEDを長年使っていた組織だけあって、この武器への知識は豊富と言える₁₇。
負傷した仲間を引きずり後退する陸軍兵。M16には訓練用の空砲アタプタが装着されている₁₇。

 それでも細かい技能不足は素人目にも分かり、イランやパキスタン国境での小競り合い(=実戦)の様子を見ていても、大半が私服姿でせわしく動き回るという状況で、正規軍・部隊への変革の道のりはまだ長い。
 そういった中でもY60は特殊部隊という事もあるが、我々が想像する「正規」の側面が他部隊よりも圧倒的に強い。22年2月以降、Y60の訓練は公開されていなかったが、同年7月下旬、カタールのメディアであるアルジャジーラが同部隊の訓練を取材した。この時の射撃訓練は以前よりも速さを求めたものとなっており、室内戦闘も2月のそれよりも本格的なものとなっていた。また、射撃訓練では軽機関銃を速射するシーンもあり、旧GCPSUではあまり見られなかった訓練の存在も確認された₁₈。

スライディングをしながらM249軽機関銃を撃つ隊員と観測員₁₈。こうした訓練はCRUはおろか他のGCPSUユニットでもあまり見られなかった。
建物への突入の際、1名の隊員がCZ EVO短機関銃を窓側に向け警戒している。動きが甘い箇所もあるが、こういった点での能力向上は驚異的₁₈。

 以降も練度は上昇し、9月に内務省が公開した映像では車両による急襲からの発砲、閉所でライフルを斜めに構える、突入時に役目を分ける等、従来の政府部隊では到底見られない動きをする様になった。この時点で軍には前政権のANASOCを模したコマンド部隊が発足していたが、Y60の様な柔軟な動きは出来ていなかった。

車両で接近し発砲、その後手榴弾を投擲して離脱。この想定はロシアのミリタリーギア会社(MBC)の広報動画と酷似している₁₉
突入前に室内の標的を射撃し、死角に前進する隊員。視野を広くする為かM4を斜めに構えている₉。

暗視装置を実際に装着する様子は、今の所この時の写真以外では確認されていない₂₀。治安部隊全体でその傾向は高く、武装勢力時代からこの装置を多用していたにも関わらず、装着例が少ないのは何故か。

 ここで疑問になるのは、何故Y60が戦闘技術を僅か1年たらずで上昇させる事が出来たのか、という点だ。既にBadriといった前例があった事で、特殊作戦部隊の育成が早かった可能性もあるが、他にも前政権の特殊部隊員の参入、諸外国の戦闘訓練の模倣、果てにはウイグル人勢力の加入等も推測される。しかしながら、現状確たる証拠を持ったものは何もなく(特にウイグル人の関与は眉唾もの)、GCPSUも具体的な訓練概要を公開していない為、真相は闇の中だ。

アフガン支部と推測されるTIP(ウイグル人勢力)の訓練動画の1コマ。TIPはシリア内戦の経験からタクトレが盛ん。同部隊がY60に何らかの影響を与えたかどうかは不明。
(Twitterアカウントより)

主な任務

 以上の様にY60は露出から1年も経たずして訓練形態を変容させ、複数回実戦を経験した。そして今日までにその任務内容は更に拡大している。イスラム共和国時代から特殊部隊は多くの任務を担い、他部署と任務内容が重なる事も多かったが、タリバン政権のY60もその例に漏れない。ただ、内務省とGDIは任務の共通点が多いものの、後者は農村部の武装勢力摘発にも従事しており、また摘発対象がかなり広い為、その意味では内務省もといY60の性質はGDIと少し違うと言えるかもしれない。
 Y60は主にカブールの市街地・住宅街で活動をしており、同市の守護部隊としての側面を強めつつある。内務省がGCPSU傘下の部隊群を比較的早い内から再建した事もあって、同部隊と他州の部隊を識別しにくいものの、視覚的に分かるものに絞って、関与した作戦から本部隊の任務内容を紐解いていく。

1:テロ対処・武装勢力や武器の摘発

 上記で述べた様にY60の実戦任務で主眼が置かれるのはこの領域である。同部隊が対峙しうる存在としては、ISKPの他に「英雄」アフマド・シャー・マスードの息子であるアフマド・マスードが率いるNRFや、元国軍参謀長のヤシン・ジアが幹部を務めるAFF等の抵抗勢力が挙げられる。ISKPは主に民間人・政府施設・外国関係施設を狙った攻撃を行い、NRF等の元政府系組織は、治安部隊の検問攻撃や山間部でゲリラ戦を行っている。とは言え後者の攻撃は誇張されやすく、散発的な攻撃を行っているのが実態である。      
 10名以上が死亡するテロ事件は今年になって2件(筆者調べ)と 過去と比較しても少ない状況だが、依然として無差別テロが起きるリスクもある。また、NRF等のセーフハウスがカブール近郊にある為₂₁、こちらでも摘発が行われる事が想定される。これらの点において対テロ/武装勢力としての側面が強い同部隊の任務は当分の間変わる事はないだろう。

2:人質救出

 米国による中銀の凍結や物価高騰、邦人の大量流出、気候変動、失業など様々な要因が重なった結果、アフガンの経済状況はお世辞にもよいとは言えない。暫定政権もインフラ整備による雇用機会提供、輸出の促進を行っているものの、それによって全てが解決した訳ではない。この影響で生活苦を理由に犯罪行為を行う者もおり、人質をとって身代金を要求するケースも少なくない。ただし、この手法をギャング・ISKPが行っている可能性もあり、容疑者がどの組織に属するか判別するのが困難である。アフガン情勢に詳しいAfghan Analyst氏も、直近のY60による誘拐摘発を例に、対ISKP戦においては彼らを「誘拐犯」と一括りにし、その名前を伏せているのではないかと分析している₂₂。
 Y60含めたGCPSUユニットはこの作戦にも頻繁に投入されており、作戦後は被害者と抱き合ったり、一緒に「アフガニスタン・イスラム首長国万歳」と唱える等、プロパガンダ的な要素も見せている。またGCPSUも内外への発表を強化する為か、今年4月頃からこうした作戦の簡単な概要を、現地語および英語で公表する様になった₂₃。

救出された人質とY60の隊員。救出者と被害者が一緒に報告するのは、他治安部隊でも同じ₂₄。

3:警備

 テロを未然に防ぐ為には当然の事ながら警備の強化が欠かせない。ISKPはシーア派(ハザラ人)に対して強い敵意を持っており、以前から彼ら・彼女らを狙ったテロ攻撃を繰り返してきた。同組織が発足した15年の翌年、カブールでハザラ人を狙った攻撃が起き80名が死亡₂₅、現政権になってからはハザラ人が多く集まる北部のモスクを爆破し30名以上を殺害している₂₆。暫定政権もこうした事を踏まえシーア派の式典の際には、内務省のY60みならず各部署が部隊を増派し警備を行っている。タリバン運動は90年代のハザラ人への人権侵害からこうした領域への警備は薄い、というイメージがあるかもしれないが、当局としては逆にそこを非難されるのを避ける為にも、警備を強化しているのであろう。しかし、今年7月のムハラム(イスラム教歴の1月)では警備を強化したあまり、治安部隊が一部参加者(規則違反をしていた可能性もあり)を追い回す、Y60が棒で人を叩く等の事案が発生し、シーア派の有力者に非難されるという事件も起きてしまった₂₇。
 Y60はこの時以外でも警備に参加しており、この一か月前に行われていたイードでも市内に派遣されていた。余談だが、アフガンの対テロ部隊が街頭で警備をする事は珍しい事ではなく、前身のCRUでもマスードの命日に支持者らが行進をした際には市内で警備を行っていた₂₈。

ムハラムで街頭に立つY60の隊員。この時、民衆を棒で叩き一部から非難を受けた₂₉。こうした暴力は団体側が正規の手続きを得ず、制限エリアで行進をした事が原因という話もある。
マスード支持者らを取り締まるCRU。支持者らはカブールの街中で暴走や発砲をする等、暴力的な側面も持っていた₂₈

4:プロパガンダ・広報

 暫定政権は武装勢力時代からプロパガンダや広報に対し、強いこだわりを持っていた。いくつものナシード、訓練や攻勢時の映像、地域住民とのふれあい、災害支援、それらをWebやTwitterを用い拡散した。現在は政権の座に就いた事で、国営メディアも掌握し活動は拡大の一途を辿る。現在でも兵士、つまり治安部隊を広報に使う、という原則は変わっておらず、Y60が登場するまでは前述したBadri等がその役割を担っていた。
 今日その役割を継承したGCPSUは独自にTwitter, Youtube, Telegramなどの様々な媒体で活動している。軍団や警察本部ではない個別のユニットがこうした広報を行う事は珍しく、同組織の特徴の1つと言えるだろう※1。最近では広報の一環としてメッセージ動画を英語字幕つきで公開したり、市街地でイスラムについて説いたリーフレットを配る等の活動を行っている。中には高校に同部隊を招待し、生徒と触れ合うというプログラムも存在する₃₀。
 支持者らも同部隊の写真や動画を事あるごとにTwitterへ投稿しており、YouTube上でも公式動画の転載やショート映像が数多く存在する。Y60が政府部隊の象徴と言えるのは、こうした一般ユーザーの拡散とも関係しており、それを示す様にSNS上にある現治安部隊の動画には、同部隊がいなくとも "Yarmook 60" の文言が入れられる事も少なくない。

※1…かつて陸軍のコマンドも専用アカウントを持っていたが削除された。

専属の広報担当者のTwitterアカウントもあり、GCPSUの本垢と同じく英語によるツイートも行っている₃₁。
リーフレットを渡す隊員。"SWAT"と書かれたパッチはCRUからの鹵獲₃₂。
メッセージ動画は随時更新され"Mujahid’s Message"というタイトルが使われ続けている。「聖戦」というキーワードは未だに健在₃₃。

5:災害派遣・人道支援

 4の広報・プロパガンダと重複する所も多いが、Y60は弱者への支援や災害派遣も行っている。アフガンは洪水・大雪・地震などの自然災害に見舞われやすく、22年6月に発生した大地震では1000名以上の命が失われ₃₄、同年8月には洪水で180名以上が死亡した₃₅。Y60は少なくとも今年7月下旬に発生した洪水の被災地に派遣されており、現地で警備を行っていた。
 また、カブールでの物乞い等への支援も部分的に実施している。経済困窮によって物乞いを強いられる、または自発的に行う人は数多く、22年2月の調査では、カブールだけで少なくとも2万8000名の物乞いが確認された₃₆。Y60も広報で彼ら・彼女らへの支援をアピールしているが、これは彼らが「プロパガンダ部隊」の1つとして機能している事に起因していると見られ、あくまでも主要任務としては扱われていない様だ。

災害派遣時でも銃の携帯は欠かさない。治安維持の名目もあるだろうが、そもそも治安部隊は非武装で動きまわる事の方が少ない₃₇。
被災者らの近くで警備を行う隊員。テントに漢字が書いてあるが中国からの支援と思われる₃₈。

 GCPSU全般では、かつて外国軍やイスラム共和国の部隊によって家族を奪われた被害者らへのインタビューも行われているが、これらの現場がカブールよりも遠い農村部で行われている事からも、Y60ではなく各地域のGCPSUユニットが担当していると思われる₃₉。

直近の変化

 Y60は既に発足から1年半以上が経過しているが、同部隊に関する情報は依然として少なく、海外圏も含めたインターネット上でも考察する人間が殆どいない為、詳しい編成・装備・任務を推測する事は難しい。加えて、イスラム共和国時代は米軍およびその関連メディアの報告によって、政府側の特殊部隊の内情をはかり知る事も出来たが、現暫定政権はそういった文書や証言も殆ど公開していない。よって直近の変化は、主に広報動画・画像から読み取り、21・22年度にはあまり見られなかった特徴を示す事にした。

練度

 今年7月に公開された "Mujahid’s Message 9" の中には、射撃訓練と室内戦闘の様子も含まれていたが、後者は依然として不備が確認されながらもそのスムーズさは健在だった。射撃訓練に関しては訓練用の板にある穴から穴へ、素早く銃を移動させるテクニックを見せ、一部隊員の練度はやはり初公開時よりも向上している事が改めて確認できた。

部屋の中のクリアリングをせず、後方の隊員が来る前に入口前を通過する隊員。見る人によっては「甘い」と見なされてもしょうがない₄₀。
こうした射撃訓練では、編集による"ごまかし"をする事もあるが、移動とスピードを両立しているのはY60くらいか₄₀。

 それでも2月に公開された同様の訓練では、穴から穴までの移動を意図的にカット・再編集したり、広報写真でもヘルメットの上にヘッドセットを付ける隊員がいる等、一概に練度問題のすべてが解決したとは言えない。

赤丸で囲んだ兵士は、ヘルメットの上からヘッドセットを装着している。だが、2年前の政府部隊と比べればその割合は減っているのでは₄₁?

実戦時のメディアの増加

 現治安部隊は当初から実戦時の映像等はあまり公開していなかった。唯一そういった活動が盛んだったのは諜報組織のGDIだった。アフガン版FBIのGDIは創設時から武装勢力の摘発やISKP幹部の排除を行っており、その戦術も建物外部から爆発物を投入し制圧するという派手なものだった。

 だが、最近こうした作戦時の映像の公開をGDIは控えており、もっぱら摘発品の展示に重点を置いている。前政権で諜報を行っていた国家保安局(NDS)の手法を模倣しているのかもしれないが、GDIは暴力的な摘発、メディア関係者・女性活動家・前政府関係者の拘束を非難される事も多く、その影響があった可能性も否定できない。GDIの影が薄くなる一方、Y60は一転して前へ前へと乗り出している。8月下旬に「誘拐犯」の拠点を強襲した直後の画像を投稿した事を皮切りに、9月にも同様の内容をツイートする様になった。こうした試みはGCPSUの別ユニットでは確認されていたものの、組織のいわば顔であるY60が、この様な取り組みを始めた点は特筆に値するだろう。

8月の摘発時の様子。引用元のツリーでは射殺された犯人の姿が₄₂。
9月の摘発時の様子。直近ではこれが最新のものとなる(加工は筆者によるもの)₄₃。
バルフ州で人質を救出した直後の様子。この時対応した部隊は同州を管轄する888。なおこの後、後撮りした映像を含めてSNSに再投稿された₄₄。

懸念とまとめ

 かつてアフガンでテロを頻繁に行っていたISKPは戦力の強化に失敗しており、支部のISPPが隣国パキスタンでのテロ攻撃を増加させている。その背景にはGDIによる「暴力的な」摘発があり、同組織の活動は米国からも一定の評価を得ている。米アフガン特使であるトーマス・ウエストは、アフガン暫定政権によって少なくともISKPの幹部が8名以上排除されたとの見解を示し、部分的にではあはるが摘発の成功を認めている₄₅。勿論、GDIが前述の通り人権団体等から非難を受けている事も事実で、今後もその姿勢は変わらないだろう。
 ここで問題になるのが、その体質がGCPSU(Y60)にも及んでいるのではないか、という点である。現時点までにGCPSUやY60が個別に非難を受けた事はないものの、内務省がGDIと同様の行為をした事で国連アフガニスタン支援ミッション(UNAMA)等から非難を受けている事もあり、Y60がこれらの問題・疑惑に関与しているのでは、という疑惑は簡単には無くならないだろう。
 それでも、GCPSUが政府部隊の中でも実戦経験が豊富かつ、練度が高い部隊である事は明らかであり、その中枢にいるY60は同組織の顔であると同時に、治安部隊の顔として成長しつつある事も事実だ。
 かつて旧GCPSUのユニットであったCF333は、21年1月にハザラ系地元民兵とその支持者らの住民と小競り合いを起こし発砲、数十名を死傷者させた₄₆。一方、20年3月にシク教施設がテロリストに襲撃された際は、施設に取り残された被害者の救出に尽力し、勇敢にテロリストに立ち向かった₄₇。
 Y60はGCPSUの明るい点の要素のみを引き継いだのか、それとも暗い要素も引き継いだのか。新生アフガン政府部隊の象徴でもある同部隊の明暗は、まだ白日の下に晒されていない。

文献リスト

₁ https://x.com/ArianaNews_/status/1666766286343503873?s=20
₂ https://x.com/AfgGcpsu/status/1697295078769725617?s=20
₃ https://www.khaama.com/taliban-graduated-200-special-forces-completing-three-month-training-87687/
₄ https://x.com/AfgGcpsu/status/1485132647907176449?s=20
₅ https://www.thecipherbrief.com/the-british-betrayal-of-an-afghan-special-police-commando-force
₆ https://x.com/AfgGcpsu/status/1508873285685161995?s=20
https://x.com/AfgGcpsu/status/1644996006818324483?s=20
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₉ https://tolonews.com/afghanistan-176870
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₁₁ https://x.com/AfgGcpsu/status/1520006808844357632?s=20
₁₂ https://www.nrk.no/urix/forsvaret_-norske-spesialsoldater-bidro-i-aksjon-ved-hotell-i-kabul-1.13877270
₁₃ https://x.com/MJalal0093/status/1542470171624968195?s=20
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₃₈ https://x.com/AfgGcpsu/status/1683204416386498560?s=20
₃₉ https://youtu.be/wrsgEe_4gSA?feature=shared
₄₀ https://www.youtube.com/watch?v=pd6a0P6w2_o
₄₁ https://www.youtube.com/watch?v=xHGXY9zFZHM
₄₂  https://x.com/AfgGcpsu/status/1692987747697414242?s=20
₄₃ https://x.com/AfgGcpsu/status/1701370732750496213?s=20
₄₄ https://x.com/AfgGcpsu60/status/1643576734778814464?s=20
₄₅ https://x.com/TOLOnews/status/1701990075133722661?s=20
₄₆ https://twitter.com/ArianaNews_/status/1358731638054785029
₄₇ https://x.com/Shamshadnetwork/status/1242701168708632578?s=20

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