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所有不明土地の解消に向けた民法・不動産登記法等の改正、相続土地国庫帰属法の制定⑥

今回は、住所変更登記等の申請の義務化と職権登記制度について書いていきます。

都市部では、住所変更登記等の未了も所有者不明土地の主な原因となっています。

住所変更登記等の申請は任意とされており、変更をしなくても特に何らかの問題が直ちに発生することはありません。
また、転居の度に住所変更登記をするのは手続的にも費用的にも負担となります。
このような事情から、必要に応じて(不動産を売却するときなど)まとめて登記した方が手続的にも費用的にも効率的なので、住所変更登記等は登記されず放置されてきました。

そこで、相続登記の申請の義務化と同じく、所有者不明土地の出現を防止するために、住所変更登記等の申請の義務化しました。

具体的には、所有権の登記名義⼈に対し、住所等の変更⽇から2年以内にその変更登記の申請をすることを義務付けました(新法76条の5)。
また、「正当な理由*1」がないのに申請を怠った場合には、5万円以下の過料に処することなりました(新法164条2項)。

*1 相続登記と同様に、「正当な理由」の具体的な類型については通達等で明確化し、過料を科す具体的な⼿続についても省令等に明確に規定する予定です。


公的機関との情報連携・職権による住所等の変更登記

申請義務の実効性を確保するための手段として、⼿続の簡素化・合理化を図る観点から、登記官が他の公的機関から取得した情報に基づき、職権的に変更登記をする制度も導⼊した(新法76条の6)。

ただ、自然人と法人とでは、プライバシー保護の必要性や公的機関の保有する情報が管理されているシステムが異なるので、それぞれ制度設計が異なる。

自然人の場合

自然人の場合、プライバシー保護の必要性が高いので、住民基本台帳制度の趣旨等を踏まえ、本⼈による申出があるときに限定している。

【事前準備】
まず法務局が、所有権の登記名義⼈から、あらかじめ、その⽒名・住所のほか、⽣年⽉⽇等の検索⽤情報の提供を受けて、検索⽤情報をシステム内部に⼊⼒おく。*2 *3

*2 施⾏後に新たに所有権の登記名義⼈となる場合、その登記申請時に検索⽤情報を提供する必要ある。
*3 登記名義⼈の意思確認や検索⽤情報の提供については、インターネット等を活⽤した簡易な⽅法によることを検討する予定である。

【職権による登記の局面】
① 検索⽤情報等を検索キーとして、法務局側で定期的に住基ネットに照会をして、所有権の登記名義⼈の⽒名・住所等の異動情報を取得することにより、住所等の変更の有無を確認する。

② 住所等の変更があったときは、法務局側から所有権の登記名義⼈に対し、住所等の変更登記をすることについて確認を⾏い*3*4、その了解を得たときに、登記官が職権的に変更の登記をする。

これにより、登記申請義務は履⾏済みとなる。

*4 最新の住所を公⽰することに⽀障があるDV被害者等も存在し得ることや、プライバシー保護の観点から住⺠基本台帳を閲覧することができる事由を制限している住⺠基本台帳制度の趣旨等を踏まえ、法務局側から、所有権の登記名義⼈に変更登記をすることについて確認を⾏い、その了解を得た時に、登記官が職権的に変更登記をすることとしている。

法人の場合

自然人の場合と違い、法務省内のシステム間連携により対応が可能なため、定期的な照会は不要である。
法⼈の所在地等に変更が⽣じたときは、商業・法⼈登記のシステムから不動産登記のシステムにその変更情報を通知することにより、所在地等の変更があったことを把握する。

改正法では、ある不動産についてどの法⼈が所有権の登記名義⼈として記録されているのかを厳格に特定し、その真正を確保する観点から、所有権の登記名義⼈が法⼈であるときは、その会社法⼈等番号を登記事項とすることとされている(新法73条の2第1項第1号)。

つまり、法人の住所変更登記等では、法務省内の情報連携において会社法⼈等番号の利⽤を想定している。

以上のとおり、会社法人等番号が重要な登記事項となるので、会社法⼈等番号の登記申請施⾏後に新たに所有権の登記名義⼈となる場合、その登記申請時に会社法⼈等番号も登記事項として申請しなければならない。

施⾏前に既に所有権の登記名義⼈となっている法⼈については、法人からの申出をしてもらい、登記官が職権で会社法⼈等番号を登記することを予定している。

登記官が、取得した法人の情報に基づき、職権的に変更の登記をする(職権で変更登記をすることについて所有権登記名義⼈に意思確認はしない)。

これにより、登記申請義務は履⾏済みとなる。

住所変更登記等の申請の義務化に関する経過措置

施⾏⽇前に住所等変更が発⽣していたケースについても、登記の申請義務は課される(改正法附則5条7項)。
公布後5年以内に施行。→ 令和8年4月1日施行との報道があった(令和5年7月28日)。

申請義務の履⾏期間については、施⾏前からスタートしない。

施⾏⽇とそれぞれの要件を充⾜した⽇のいずれか遅い⽇から法定の期間(2年間)がスタートすることになる。

次回は、外国に居住する所有権の登記名義⼈の国内連絡先の登記について書きます。


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