見出し画像

我的好曲2020

コロナ禍で世界はおかしなことになってしまいましたが、人類それぞれ2020年は特別な年になったのではないかと思います。私も曲をたくさん聴く時間がありましたが、年末に発表されたSpotifyの再生ランキングと好きだったトラックは全く別。ラップを覚えるためにたくさん聴いた曲もあれば、好きな旧譜を懐かしみながら聴いた、ということもありますから。

ということで、年が明けてから少し経ってしまいましたが、個人的に2020年を振り返る上でも形にしておきたく、本記事を作成しました。音楽ライター諸氏のいわゆる年間ベストとはズレてるかもしれませんが、ポップで聴きやすいプレイリストになってますので気軽に楽しんでください。

昨年同様に発表済でもリアルタイムに出会えなかった楽曲があるので、それを考慮し年間ベストという形ではなく「私的な2020年の良かった曲」として11曲を並べていきます。




01.Stickin' (feat. Masego & VanJess) / Sinead Harnett

イギリスのSSWであるシニード・ハーネットが、ナイジェリア系アメリカ人姉妹デュオのヴァンジェス、「トラップ・ハウズ・ジャズ」を標榜するマセーゴを客演に迎えた楽曲。プロデューサーはサニー・ケールマイク・ブレインチャイルドです。

ベースラインはキーG♭で<A♭ - B♭ - E♭ - G♭(Ⅱ - Ⅲ - Ⅵ - Ⅰ)>を繰り返しますが、上部では大きな循環で<B△7 - E♭m7/D♭ - A♭△7/E♭ - G♭/B♭(Ⅵ△7 - Ⅵm7/Ⅴ - Ⅱm7/Ⅵ - Ⅲm7/Ⅰ)>系のコードが鳴っているのがクール。

プリフック(Bメロ)はベースがイントロと同じ進行で素直にルートをなぞって展開を付けてからサビ前に鳴るⅠ7(9)が効いてます。さらにその箇所がヴァンジェスによる2コーラス目は短7度がルートに来た展開形、マセーゴによる3ヴァース目はプリフック自体がカットされブリッジ的な扱い、と展開にもメリハリがあります。歌も言うことなしに素晴らしい。

02. Inside Out / Zedd,Griff

言わずと知れたプロデューサーのゼッドが新作で抜擢したのは、UK出身で中国人とジャマイカ人のミックスである歌手のグリフ。いよいよダイヴァーシティもここに極まれりという感じがしますね。リリックは“I'm gonna love you, love you inside out” と少し狂気も感じる内容。

イントロからゼッド節が聴かれますが、ドロップが8分裏を強調したメロディでできているのが特徴。普通に良い感じのEDMとして聴くと混乱します。何てことないリズムなのですが「牛乳だと思って飲んだら飲むヨーグルトだった」みたいな驚きがありますね。


03.It's A Moot Point / Melanie Faye

インスタグラマーとしても以前から人気者だったギタリストのメラニー・フェイによる楽曲。彼女のジミ・ヘンドリックスみたいな音色で今っぽいR&Bを演奏する、ニュー・オールドスクールなスタイルが好きです。

ですが音源になると、また違う魅力を発揮するのに驚かされます。端的に言うと楽曲にエモラップ的な中二病感があって、それが新しい魅力になっている。この曲は特に「論点」という題名が秀逸。独特な質感のヴォーカルも魅力になっています。ミックスも変わっていて面白い。他にも「Super Sad Always」という中二なタイトリング且つ良い曲があるのでチェックしてみてください。


04.do me right / brb.

シンガポールのR&BユニットのデビューEP中の1曲です。ミックスを含めたサウンドのデザインも曲としても好きでした。昨年プロデューサーのYaffleさんに取材した時”今時のプロデュース作業は5割くらいが音色選びです。グルーヴを左右するのは音符よりも音色”と語っていたことが印象的でしたが、このセンスの良し悪しはとても大事。

昨年アジア人とR&Bについて考えていた時に一番印象的だったのは、Higher Brothers「Flexing So Hard」におけるDZのヴァース“I got melody and RMB”と書いたのですが、これについて1年で理解が深まりました。あのラインは「メロディと人民元(RMB)をゲトったぜ」という意味なんですね。「金を稼ぐ=R&Bを稼ぐ」なんて、ああ中国には勝てねえなと改めて思った次第です。


05.Summer Time / KAHOH feat.KENYA

同じアジアの日本人も負けてない。何とジャパニーズKポップ枠ではなく若手SSW枠からの刺客、19歳のKAHOH。フックの“君じゃなきゃ意味がない”の部分が8分裏に入っているところが技ありだったり、客演のKENYAくんも素敵なのですが、一番はKAHOHのヴァース。切り込み文句の“震えてる君のiPhone無視して”から耳を奪われ、そのまま最後まで聴いてしまう。物語的にも音楽的にも日本語でカッコよく展開させる手腕に脱帽。

彼女をデビューさせてくれたLINE RECORDSさんには今後も頑張っていただきたいです。


06.All My Life - Whereisalex Remix / Louis Futon

オリジナルは昨年の曲なので入れようか迷ったのですが、去年のリストに入れなかったのでこちらに。Louis Futonくんはとてもセンスの良いフィラデルフィア発のプロデューサー。特に管楽器の使い方が素晴らしく、本楽曲のトランペットも最高です。


07.Movin. / Kiana Lede

アリゾナ出身のシンガー / 女優のキアナ・レデ、23歳。90's R&Bやヒップホップがネイティヴな世代って本当にすごいなと思います。自分の生まれた時の音楽の雰囲気を今のサウンド感覚でやっているわけですから、私がこれをやると単にJポップや渋谷系になってしまうよな、と思うと少し物足りない。

彼女のアーティスト名は「Kinky / Independent / Assertive / Natural / Always Late / Emotional / Deep / Energetic」のアクロニムだそう。プロデューサーはアーチャー。この楽曲が収録されているアルバム『KIKI』は全体を通して素晴らしいです。


08.Peppers and Onions / Tierra Whack

2018年にインスタグラムから着想したという全曲が1分の曲でできたアルバム『Whack World』をリリースし、世間を驚かせた米フィラデルフィアのラッパー、ティエラ・ワックの楽曲。音数が少なく、口笛などが入った遊びの効いたビートが面白い。

あとは歌詞。足を引っ張られたり勝手にジャッジされたりすることを拒否しつつフックで、

“I'm only human, yeah
I'm not perfect, just a person
I'm only human, yeah
Sometimes happy, sometimes nervous”

と歌っています。BLMなどに対応した社会派に見えて、どこか諦念を感じさせる様な味わい深い内容でした。


09.Peng Black Girls / ENNY

前掲曲に対して、ジョルジャ・スミスのレーベル・Fammからリリースされたこの曲は「ヤべえブラックガールズ」というタイトルのストレートなUK黒人女性賛歌。プロデューサーはパヤとスリガラ。

全体的に抑揚の少ないクールな質感ながら、ヴァースのところどころに入る3連符やフック結句部の”Alright”でリスナーとしては高揚します。あとカーダシアン一家はUKでも嫌われていることが分かりました(笑)。

ジョルジャ・スミスが客演しているリミックスもありますが、オリジナルの方がビートがカッコいいのでこちらを推しておきます。


10.Levitating (feat.DaBaby) / Dua Lipa

昨年はビルボードチャートのチェックを怠っていて、売れた曲をきちんと把握できておりませんが(ドージャ・キャット「Say So」も良かったです)、この曲は好きでした。デュア・リパは前掲曲と同じくUK出身。チャラい曲ですが、コロナ禍を気にしないかの様な楽し気なノリが良かったです。プロデューサーはコズスチュアート・プライス

フックの"I got you, moonlight, starlight"も相手を月明りとしたところが、以前も書いた平塚らいてうとリンクして感慨深い。雑誌『青踏』(1911年~1916年)のタイトル元は18世紀ロンドンのインテリ女性たちが履いた青い靴下から採られましたから、フェミニズム的なUK×JPの循環とも言えますね。


11.Rise / Lido

友人に教えてもらったノルウェーのプロデューサー・Lidoのこの曲はとても美しかった。ハイハットやスネア、キックで編まれたビート感がほとんどない代わりに、みずみずしいシンセとヴォーカルが広大に響く。アレンジも緻密で、シンプルなコード進行を保ちつつ展開していきます。特に中盤のフック裏のドローンにはやられました。

・・・・・・・・

まとめ

この他にも良い曲はたくさんあったのですが、特にお気に入りだった曲を並べました。

やはりロンドン勢に私が惹かれているのか、音楽のトレンドがそうなっているのかは定かではありませんが、どこかブリティッシュ・インヴェイジョンやセカンド・サマー・オブ・ラブ(それに続く渋谷系まで)を連想させる1年だった気が。

Kポップはリストに入りませんでしたが、引き続き注目しています。NiziUなどのジャパニーズKポップの動向も含め。

サブスク以降の情報量のなかでも鑑賞して批評していくのは大事ですね。2021年の音楽、正直追いきれるとは思いませんが自分なりに楽しみたいと思います。

活動継続のための投げ銭をいただけると幸いです!