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本当は怖いアロマテラピー①残酷な精油の抽出法

香りで私たちの生活を豊かにしてくれるアロマテラピー。しかし、精油(エッセンシャルオイル)の抽出には世にも恐ろしい方法が用いられていることをご存知でしょうか。

あなたが手にしている多くの精油(エッセンシャルオイル)たちは、書くことを躊躇してしまうレベルの過酷な抽出法によって生産されています。私たちが見逃してきた精油たちの抽出法をレポートします。

【おことわり】本記事はアロマテラピーに関するブラックジョークが含まれます。ブラックジョークを解さない方は不快に感じるかもしれないのでこのページをそっと閉じてくださいね。

本当は怖いアロマテラピーの精油抽出法

現在一般的に流通している精油の多くは水蒸気蒸留法、圧搾法、溶剤抽出法のいずれかの抽出法で抽出されています。

このうち現在もっとも多く用いられているのが水蒸気蒸留法です。原料植物によっては熱と水に晒されて成分が破壊されてしまう抽出法であり大変過酷な方法です。

ご家庭で水蒸気蒸留法による精油の抽出ができる蒸留器です。芳香蒸留水もできます。科学実験の好きな方やお子様の夏休みの自由研究に。

 この残酷な水蒸気蒸留法で抽出される精油のひとつにラベンダー精油があります。都内の某アロマ雑貨店で出会うことのできたラベンダー精油が匿名を条件に真実を語ってくれました。皆さんにも水蒸気蒸留法の実態を知ってもらいたいです。(※文中に登場するラベンダーは全て仮名です)


アロマテラピー検定1級「精油のプロフィール」全30精油の解説はこちら

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ラベンダーが語る恐怖の精油抽出法|水蒸気蒸留法の真実

 はじめまして。ラベ子です。私たちは広い広い北の大地で生まれました。ラべ蔵 兄さん、ラべ美 姉さん、見渡す限りのたくさんのラベンダー仲間とともに平和に暮らしていました。

 そして、私たちのお世話をしてくれる親切なニンゲンたち。いつも雨風や害虫から私たちを大切に守ってくれています。ニンゲンというのは本当に親切で役に立つ存在です。

ラベンダーの収穫|悲劇は突然はじまった

 よく晴れた日の朝でした。いつものようにニンゲンたちがやってきました。が、どことなく普段と様子が違います。手には鎌のようなものを握っていました。よく研がれた鋭い刃がギラリと光っているのが見えました。

 最初は雑草を刈りにきたのだと思いました。ニンゲンはとても親切で役に立ちますから。ところが、まさかの出来事が始まりました。ニンゲンたちが私たちラベンダーの仲間たちをバサバサと刈り始めたではないですか。突然のことに何が起きているのか分からず、私はあわあわするばかりでした。

「ラベ蔵 兄さん!!ラべ美 姉さん!!」

 ラベンダーの茎は硬くて丈夫ですが、ニンゲンたちは慣れた手つきで次々と刈っていきます。ラベンダーの私には仲間を助ける術がありません。ニンゲンたちは、過去に何度も同じ作業を繰り返してきたのでしょう。まるでこれが自分たちの仕事なのだといわんばかりの手際のよさでした。

 いよいよ、私の番がやってきました。近づいてきたニンゲンが私の茎を片手で束ねて容赦なくつかみます。私は恐怖に打ち震えました。バサリ。一瞬でした。茎の根元の硬い木質部分から約5cmほど上の部分で無惨に切りとられ、あまりの痛みに私は気を失っていました・・・。

ラベンダーを蒸留窯へ|水蒸気熱風地獄

 気が付くとラベンダーの仲間たちと一緒に大きな部屋に寝かされていました。なんだか温かくて気持ちがよい場所です。少し湿度が高く「サウナみたいで快適。なんて気持ちがよいの」と思いました。このまま根元の傷も癒されそうです。

 ところが、すぐに周囲のラベンダーたちが騒ぎ始めます。「ちょっと温度あげすぎじゃね?」「ていうか熱いっしょ!」

 恐ろしいことに部屋の下から高温の水蒸気がもの凄い勢いで送り込まれてきます。「あちっ!あちちっ!助けて!」あちこちから仲間たちの悲鳴が聞こえてきます。地獄のような光景、いや、地獄そのものでした。後から知りましたが、そこは快適サウナなどではなく「蒸留釜」と呼ばれる恐ろしい装置の中でした。

 押すなよ押すなよと言えば誰かが熱湯に押してくれる世の中です。熱い!助けて!と叫んでも高温の水蒸気が止まる気配などありません。もう限界です。私の中にある精油成分が遊離しそうです。再び意識が遠のいていきました。

精油成分が遊離して気化|幽体離脱

 ふっと私の精油成分が身体から遊離し、気化していくのがわかりました。これがあの幽体離脱・・・?気体となった私の意識は意外にも鮮明で、世界が美しいラベンダー色に見えました。

 あぁ、なんて安からな気分なのでしょう。私たちは水蒸気と一緒になって浮遊しながら蒸留窯の中を上昇していきます。天に召されるかのような幸せな心地でした。

気化した精油成分を冷却する|液体に戻る水と精油

 蒸留窯の天井部分に穴がありました。ようやく蒸留窯から脱出です。細い管を通って気化した仲間たち(精油成分)と一緒にふわふわと移動していきます。くるくると回転しながら冷やされていくのが分かりました。さきほどまでの高温窯から一転、今度は冷却されて液体に戻っていきます。

 私たち精油成分が混ざった水蒸気は、冷却すると気体(水蒸気)から液体(水)に変化します。そして私たち精油成分も気体から液体に変化します。

 冷やされて液体になると、水に溶けない性質を持つとともに水よりも軽いラベンダー精油(エッセンシャルオイル)は、ラベンダー精油と芳香蒸留水の2層に分離して溜まります。

水蒸気蒸留法で抽出された精油たちが今日も店頭に

 こうして私たち精油は取り出され小さな遮光性の瓶に詰められました。精油(エッセンシャルオイル)となった私は仲間たちと一体となり、いま都内にあるアロマ雑貨店の店頭に並んでいます。ニンゲンの生活圏に潜り込んだあとのことを考えながら・・・。

─ 完 ─


最古の精油抽出法=水蒸気蒸留法を生んだ天才科学者

 水蒸気蒸留法はイブン・シーナ(980~1037)というペルシア(現在のイランがある地域)の天才科学者により開発されました。「医学典範」の著者としても有名なイスラム世界の医師です。

 比較的安価な装置で行うことができる「水蒸気蒸留法」は、現在もっともよく用いられる精油の抽出法です。イブン・シーナの活躍した10~11世紀頃に確立しており、歴史の古い精油(エッセンシャルオイル)抽出法でもあります。

イブン・シーナが登場する「千年医師物語」の映画版はこちら。

11世紀のイングランド。炭鉱で重労働に従事していた少年ロブは、不治の病だった虫垂炎によって最愛の母親を亡くし、旅回りの理容外科医のもとに身を寄せた。やがて成長したロブは医学の道を志し、異国ペルシアへと旅立つ。苦難の道のりの果てにようやくたどり着いたロブは、世界最高の医師と呼ばれるイブン・シーナへの弟子入りを果たし、貪欲に医学の知識を吸収していくが、その貪欲さのあまりに禁断の行為に手を染めてしまう...

水蒸気蒸留法の弱点|熱と水に弱い植物は適さない

 水蒸気蒸留法の弱点は、原料となる植物が熱と水に晒されることです。熱や水に反応するデリケートな成分を含む精油は、水蒸気蒸留法で精油(エッセンシャルオイル)の抽出ができません。水蒸気の熱と水に反応して精油成分が壊れてしまうためです。

水蒸気蒸留法がよく分かる動画3選

少し長いですがとても理解が深まる水蒸気蒸留法の動画です。こんなに手間と時間をかけて採れる精油が微量すぎて...ほんと頭が下がります。

自宅でできる水蒸気蒸留法 約8分

本気の水蒸気蒸留装置(本村製作所) 約8分

水蒸気蒸留装置で採れたラベンダー精油と芳香蒸留水(二層に分離しています)約1分


水蒸気蒸留法の副産物|フローラルウォーター

 水蒸気蒸留法で抽出された精油成分から分離された水は、水溶性の芳香成分と微量の精油が混ざって残っているため「芳香蒸留水(フローラルウォーター)」と呼ばれます。

 ラベンダーの芳香蒸留水は、皮脂をおさえお肌のキメを整え清潔にする作用があるため化粧水や手づくり化粧水の基材として、またデオドラントスプレーとしても利用されます。

精油(エッセンシャルオイル)の抽出法

植物から精油(エッセンシャルオイル)を抽出する精油の抽出法はたくさんありますが、現在流通している精油の多くは水蒸気蒸留法、圧搾法、溶剤抽出法のいずれかの抽出法で抽出されています。

参考文献・参考サイト

本当は楽しいアロマテラピー。精油の抽出法や水蒸気蒸留法、精油の化学について、詳しく(正しく)学びたい方は下記の参考文献・参考サイトをご参照ください。

本当は楽しいアロマテラピー。正しいラベンダーの収穫や、正しいエッセンシャルオイル(精油)の生産方法について学びたい方はこちらをご覧ください。


Tea-treeの森 様
エッセンシャルオイル(精油)の生産方法
https://www.t-tree.net/seiyu/b_1_howtoproduce.htm
6種類の代表的な精油生産法をとてもわかりやすく解説してくれます。アロマテラピー検定の公式テキストでは今ひとつ理解できなかった方はぜひ。

ファーム富田 様
ラベンダーオイルのできるまで

https://www.farm-tomita.co.jp/history/oil.asp
北海道・富良野にある絶景観光農園です。「ラベンダーのオイルと蒸留水の香りが蒸留の舎から漂って」くる季節に訪れたい!


アロマテラピー監修:Tomoe Okajima

五感リラクゼーションサロン Natural state主宰
アロマセラピスト・アロマ講師


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