見出し画像

出会いの最大瞬間風速

「発する言葉ってその人を表すと思うんです。」
そう発した瞬間に風が吹いた。自己紹介の一言目でこれは、すごく、うん、好きだ。


物心がついた時にはすでに寝る前の母の読み聞かせが当たり前で、学校の図書館でたくさんの本を漁って誰が読んだ後なんだろうと眺めるのがちょっとした楽しみだった。休みの日に母が市の図書館に行くのについていって、厳選した5冊を選ぶのがワクワクした時間だった。

大学生になってそこまで本に触れなくなったけど、社会人2年目か3年目あたりで、改めて本を読むことがどれだけ楽しいか気付かされた。自分以外の人生をたくさん味わえて、感じたことのない痛みとかドキドキを知れる、その時間はたまらない時間だった。

ふと、本を読むのはそれだけが楽しみだからじゃないなと気づいたタイミングは1年も経っていないと思う。心が震える言葉に、それはもう至極の言葉に、出会いたくて、私はページをめくっているんだなと思った。証拠に、たまに内容がどれだけ気に入っていても、その文章しか記憶に残っていないことがある。


言葉も人も場所も何もかもそうかもしれないけど、出会った瞬間に強く風に吹かれたような気持ちになることがある。ちょっとした刺激が定期で欲しくなるから、昔の私はその瞬間を手放したくなくて掴むのに必死だった。でも何回かその瞬間に巡り合うごとに分かっていって、今では出会った時の最大瞬間風速を大事にして、その一瞬をたっぷり味わうことが尊いと思えるようになった。その時限りのその人との関わりかもしれないし、もう一生こない場所かもしれない。もう二度と思い出さない言葉かもしれない。それでも、その後の私を形作ってくれるものだしなあと。


冒頭のその人とはもう出会うことはないかもしれない。もはやお名前や顔もうろ覚えなのだけど(ほんとにごめんなさい)、それでも大丈夫。あの瞬間に一気に惹き込まれたことも、こんな言葉をさらりと言えるようになりたいと願ったことも全てが存在していたことだから。



ふとした時に日常のとある瞬間の風圧を思い出す。だいぶ落ち込んでいる時に一緒に泣いて怒ってかけてくれた言葉。何気ない会話の中で1ミリも悪気なく発された言葉。あ、この人絶対気が合うみたいな人と出会ったとき。沈みゆく太陽により水平線が赤く照らされる景色。いまにも飲み込まれそうな真っ暗な海。ぜんぶぜんぶかみしめていこう。

ほら、また風が吹く。昔の何かを呼び起こすように、未来の何かを予言するかのように、今を大事にしろというお告げのように。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?