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「あたしは柴犬のアキ」9

 次の日から穴掘りをはじめた。庭の端のほうに外に出るには良さそうな場所があった。

 前足で一生懸命掘ったけど硬くて痛い。肉球の間に泥が詰まった。何度も諦めかけたけど、外へ出たい気持ちがあたしを後押ししてくれた。モモちゃんも応援してくれている。でもあんまり吠えないで。向かいのおばさんに見つかるじゃない。モモちゃんにそう言うと吠えるのをやめて優しい目で見守ってくれた。

 なかなか進まない。そうこうしているうちにお兄ちゃんと小太郎君が帰ってきてボール遊びを始めた。あたしは夢中になってボールを追いかけた。

 夕食の時間になりあたしはいつもの様におこぼれを貰って満足していた。お皿を割ってから、パパのお膝は乗れないことになった。パパは乗せたそうだけどママはダメって言う。残念ね。そんなことではめげない私。システムキッチンのまな板の一番手前なら何とか手が届きそう。料理をしているママの足元にお座りしながらチャンスを待った。パパが「ビールもう一本頂戴」というのでママが冷蔵庫からビールを出しパパに手渡しに行った時、一瞬の空白ができた。チャンス。まな板に何がのっているかは見えないけど、魚なのは臭いでわかった。前足を思いっきりまな板に伸ばす。少し足りない。もう一度ジャンプしてやってみる。やっぱり無理。ウナギなのはわかった。でも取れなくてしょんぼりしているとママが「狙ってたでしょ。そんなことしないでもあげるわよ」と言って少し焦げたウナギの尻尾をあたしにくれた。素直に「ちょうだい、ちょうだい」と吠えれば良かった。ママは優しいね。
 
 そうこうしているうちに雨が降り始めた。すごく降ったので今日の散歩は無しになった。おしっことうんちは軒先で済まし、まだ家族はリビングにいたけど一人で寝室に行き、お姉ちゃんの枕に顎をのせて寝た。

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