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「あたしは柴犬のアキ」26

 朝になって家族が夜中の出来事を話していた。みんなあたしの遠吠えを不思議がっていた。
「最近アキちゃんの様子が変よね。ママそう思わない?」
「ママも少しおかしいと思うよ。やけに甘えてくるし」
「僕もおかしいと思ってたよ。いたずらしてもあんまりのってこないし、ボールを投げても取りに行かないよ」
「パパもなんか変な感じだなと思っていたよ。何か不満があるのかな?お昼にひとりぼっちで寂しいのかな?」
「そうだ今週末、ドッグランに連れて行っていっぱい遊んであげようよ」
お兄ちゃんが提案してくれた。みんな大賛成。嬉しいな。ドッグランも好きだけど、行き帰りのドライブも大好き。窓から少しだけ鼻を出していろんな臭いを嗅ぎながら景色を見るの。楽しみ。

 家族がみんな出て行ってお出かけできる時間になった。あたしはモモちゃんに挨拶もなしにクロのお家に走っていった。

 クロは今日もつかまり立ちをして待っていてくれた。あたしもつかまり立ちして肉球タッチをした。でも今日はそのままの姿勢で肉球を合わせたままクンクンとペロペロしあった。暫くして後ろ足が辛くなってきたので前足をおろした。
「昨日の夜、あたしの家の前で吠えてたでしょ。会いに行けなくてごめんね。夜はお家の中で寝てるから出られないの」
あたしは昨日のことを謝った。
「アキちゃんの遠吠え聞こえていたよ。とっても嬉しかったよ。パパはびっくりしていたけどね」
「あたしの家族も」
あたしもクロも昨日の夜の家族の様子を話して大笑いした。
「僕もいつかお庭を抜け出して、アキちゃんのお家に行きたいな」
「大歓迎よ。もし来たら隣のおばあちゃんにクロの分もおやつをくれるように頼んであげる。隣のおばあちゃんとおじいちゃんはあたしの話すことがわかるのよ」
話が長くなり、もうそろそろ帰らないといけないと思った時、雰囲気を察したクロがフェンスにつかまり立ちをして「バイバイの肉球タッチしよ」と言った。あたしもつかまり立ちをした。

 家に帰ってきた。庭に入る前にモモちゃんに昨日の夜の事と今日の事を話した。
「恋よ」
「モモちゃん恋ってなぁに」
「そうやって会いたくなっていてもたってもいられなくなったり、ずっと一緒にいたくなったりするのよ」
「あたしは今そんな気分よ」
「それを恋って言うの」
恋かぁ。恋って良いものなのね。今まで生きてきて一度も味わったことがなかった気分。クロのおかげね。クロを思い出して胸が苦しくなった。あっこれも恋ね。
あたしは恋をしている。
少し恥ずかしかった。
この日の夜は、ぼーっとして何もする気にならなかった。

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