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フィリピンから国際協力を考える~「貧困学習」の先にあるもの

**以下の文章は、2022年度に「日比NGOネットワーク」によって実施された学習会シリーズ、「現場から学ぶ国際協力~はじめの一歩から行動に移すまで~」(全5回)に寄稿した「感想文」(2023年1月))に手を入れたものです。

 私が初めてフィリピンを訪れたのは大学三年生の時でした。フィリピンの都市の貧困問題に関心を持つようになったのはその時です。時は流れて数十年、依然としてアジア(特にフィリピン)の貧困問題に関心を持って勉強を続けています。
 はじめてフィリピンを訪問した方は、私と同様、ストリート・チルドレンや、劣悪な家屋が集中するスラム地域といった、日本では見ないような「貧困」の存在にショックを受けるかもしれません。そこでまず「貧困」とは何か考えてみたいと思います。


 貧困というものは、その外見から明らかなように、まず低賃金かつ不安定な就業や失業問題という経済的問題であることは明らかです。しかし、「勉強」を続けるうちにわかってくると思いますが、誰が、なぜ貧困に陥るかというと、その背景には、彼らが従事する職業や教育程度、家庭環境といった個人・家庭レベルの問題があります。さらに、居住する地域環境の問題や、極端な貧富の格差をもたらす「歴史的・社会構造的要因」にも気がつくことと思います。要するに、貧困問題というのは、その原因を理解するのはなかなか難しく、また、その背景には複雑に絡み合った要因があるというわけです。

[写真1] 共存する貧困(前景)と繁栄(高層ビル群)
[写真2] 貧しくても我が家

 そのような複雑な問題の実態を理解するためには、本や論文、政府の統計資料も重要ですが、「現場」の声を聞くのが一番です。貧困を一般論として語ることも可能ですが、本当に解決を目指したいなら、個人の置かれた状況や地域の個別具体的状況を踏まえたアプローチが必要だからです。というわけで、全5回の「学習会」の連絡をいただいた時には、願ったりかなったり、これはなんとしても参加せねばと思った次第です。
 今回の5回シリーズのテーマは、「国際協力って何?~パイオニアから学ぶ現場のリアル~」です。最初に、「国際協力のいろは」から始まり、ゴミ山問題、環境問題、ストリート・チルドレン問題、そして最後に国際協力参加の勧めという順序で「学習会」が進みました。各回の詳細は既に報告されているので(https://jphilnet.org/activity/meet/)、詳細はそちらに譲ることにして、全5回全ての学習会に参加した私の感想を以下3つほど、皆さんとシェアしたいと思います。

[写真3] ゴミ処理場で働く子ども

 まず第1に、JICAの「フィリピンNGOダイレクトリー 2019」によると、少なくとも30以上の団体がフィリピン国内に事務所を持ち活動をしていますが、これらの団体の間には横の繋がりが少ないという問題があります。これはフィリピンだけの問題ではありませんが、自分の活動地域の問題解決だけで手一杯なため、多くのNGO団体にとって、他地域で活動する団体との連携や、異なるテーマに手を広げていくのは困難であるのが実態だと思います。そもそも政府の施策と比べ、対象との距離が近いことがNGO活動の特徴なので、対象とする地域に没入することは決して悪いことではありません。しかし、活動がなかなかうまくいかないこともあります。そのような時に、他のNGOの経験が活動のヒントになることもあるでしょう。今回のJPNによる企画は、その意味で、お互いの経験を学びあうよい機会になったのではないでしょうか。
 なお、実際には、膨大な貧困住民が都市部で、そして農村部で、支援の手を待っています。NGO団体の連携は、支援の輪を広げ、より広い地域に支援の手を届けるための重要な第一歩にもなることと思います。その意味で、今回の企画は、日本の国際協力NGOの歴史のなかで、画期的な事件として位置づけられる企画だったと思います。
 次に、日本のNGO団体と若い人達が、国際協力の最前線で頑張っている姿に、今さらながら感動しました。そして、その活動の水準の高いことはうれしい発見でした。しばしば、「やってみました、行ってみました」に終わりがちなボランティア活動ですが、今回報告された方々は、みな地に足のついた活動をしていることが特徴です。そこでは一方的に「与える」活動ではなく、現地のニーズを踏まえ、そこに住民自身がコミットしていることも特徴です。
 活動内容として紹介されたものとして、例えばフェアトレード、奨学金の支援、パソコンを備えたラーニングセンターの設置、コミュニティライブラリーづくり、マングローブ林の植林、日本の不用品をフィリピンに送る「チャリティショップ」、路上の子ども達の就労支援や心理的支援などがあります(これ以外にもいろいろなお話がありました)。これらの活動は、その結論だけ見ると、しごく当然の活動ばかりです。しかし、いずれも地道な活動の中でニーズを発見し、各団体の人的資金的制約や地域事情をふまえ、最も適切な方法で実現していったものばかりです。その意味で、単純な思いつきではなく、国際協力の教科書の単なるコピーでもなく、地域の固有の事情に根差した「根拠」のある活動であったということができます。もし国際協力の教科書を編集するとするならば、国際協力の応用編、上級編として評価され紹介されるべき活動であったと思います。

[写真4] パン作りを学ぶ元路上の子ども達

 第3に、以前から感じていたことですが、フィリピンにおける国際協力の経験は、日本の若者にとってかけがえのない教育の場を提供しているということです。実際のところ、現地でサポートしてくれる日系NGOがたくさん存在し、共通語として英語が通用し、よっぽど僻地でない限りそれなりの医療体制があり、疲れをいやす日本食レストランやショッピング・センターがあるという条件は、他の途上国ではなかなか難しいのが実態です。フィリピンには「国際協力のビギナー」にお勧めできる条件がそろっています。
 より理論的に言うと、今日では「グローバル人材」の育成とSDGs教育が重視されています。それを「アクティブラーング」で学ぶことが強く求められています。しかし、文科省における「グローバル人材」は、結局のところ語学力(特に英語力)を強調するものであり、他方、大学では国際協力の理論を学ぶことができても、実体験の場は提供できないでいます。フィリピンという国は、英語の勉強機会を含め、国際協力の理論と実践を学ぶ貴重な学習の場を提供しているのですが、「大学人」(経営者、教員)の中に、それを十分に理解している方が少ないのはとても残念です。

[写真5] 現地スタッフからフィリピンの貧困事情を聴くー説明は英語で 
[写真6] スラム地域でインタビュー

 ところで、これはフィリピンの貧困を、教育の名のもとに搾取しているだけではないかという批判もあろうかと思います。この点については、紙幅の関係で詳述はできませんが、一言だけ述べると、フィリピン人はとても教育を大切にする国民なので、「遠いところから勉強のために来てくれる」、「私たちの問題の解決に手を貸してくれる」日本の若者に対して、とても暖かく、大きな心で受け入れてくれるということです。さらに、グローバル化時代における社会問題の解決は、(フィリピン政府が自力で解決困難であるということもありますが)、生まれ育ちがどこであるかということではなく、その様な問題に関心をもつ人が、共に手を取り合い、それぞれの知識と経験をもちより貢献することが求められているのが現代です(これがSDGsの精神でもあります)。

[写真7] 貧困家庭を訪問

 最後に、ここまで私の感想をお読みいただいた方に是非お伝えしたいことがあります。それは、フィリピンは、(1)「貧困問題」の代表地域か、(2)観光・リゾート地か、あるいは(3)日系企業の進出先かという三択ではないということです。フィリピンは、豊かな自然は言うまでもなく、日本とは違う歴史と文化を誇る国であり、もっと多面的に学ぶに値する国であるということです。
 例えば、貧困地域だけでなく、是非、美術館・博物館なども訪れてみてください。マニラだけでなく各地に素晴らしい美術館・博物館や文化的史跡があります。付け加えるに、フィリピン経済は急速に発展中ですし(日本にもないような大規模ショッピング・モールに感動したひともいるでしょう)、政治的に見ると、アメリカを介し、日本とフィリピンは「準同盟的」関係にあります。

[写真8] ユネスコ世界遺産~サン・アグスティン教会

 フィリピンは確かに多数の貧困者を抱える国ではありますが、貧困解決という一面的なつきあいにとどまらず、「真の日比友好」のためにも、フィリピンの歴史、文化、政治、経済について多面的に理解を深め、その様な学習を通じて「フィリピン人」を深く理解する日本人が増えることを願っています。

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