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早稲田大学歴史館 & 會津八一記念博物館/分室 & 坪内博士記念演劇博物館 & 国際文学館村上春樹ライブラリー & 早稲田スポーツミュージアム(東京都新宿区・早稲田駅)

早稲田大学はいくつも博物館がある全国でも有数の大学である。その数と種類の多さは東京大学に匹敵するといっても過言ではない。日本の私立大学ではもしかしたら最多のミュージアムの数ではないだろうか。早稲田キャンパスにはそのほとんどのミュージアム施設が揃っている。以前にいくつかのミュージアムを訪問したものの、展示内容の変更があったり、前回おとずれることのできなかった場所を攻略しなくてはという使命感に駆られて訪問することに。

・早稲田大学歴史館
その名の通り早稲田大学の歴史について紹介している博物館である。四つの部屋に分かれており、回廊をぐるりと回るかたちで早稲田の歴史を知ることができるようになっている。

「久遠の理想」エリアでは「学問の独立」を宣言した小野梓をはじめ、創設に尽力した早稲田四尊こと高田早苗、天野為之、坪内逍遥、市島健吉の功績が紹介されている。奥は創設者の大隈重信についての特別室があり、肉声も聞くことができる。
「進取の精神」エリアでは東京タワーを設計した内藤多仲や早稲田式テレビジョンを下初した川原田政太郎、二足歩行ロボットWABOTを開発した加藤一郎をはじめ、スポーツ選手や変遷して行く早稲田を紹介している。
「聳ゆる甍」エリアでは、校友や関係者の人物像を、政治・経済をはじめ、学術・文化・芸能・スポーツといったあらゆる分野から掘り下げ、朝河貫一(日本人初のイェール大学教授)、ソニーの井深大、戦火のユダヤを救った杉原千畝、石原湛山(OB初の総理大臣)、吉永小百合などを紹介している。また特別展示として出身漫画家も紹介、東海林さだお、園山俊二、福地泡介というレジェンドから弘兼憲史、わたせせいぞう、けらえいこ、すがやみつる、岸大武郎、ラズウェル細木に至るまで紹介している。
「企画展」エリアでは早稲田の女学生たちにスポットを当てた展示を行なっている。トイレがなかったり、女性に学問は向かないと侮られたり、男子生徒が戦地へ赴く中で後ろめたさを感じたりと、男尊女卑が強い風潮だった黎明期の女学生たちの苦労が偲ばれる。トイレはウォシュレット式。

やや注目度が低いが早稲田の歴史を知るならここ

・會津八一記念博物館
大学に博物館を作るべき、と生涯に渡り訴え続けた會津八一。その死後に念願かない、それを記念して名を冠してつけられた博物館である。圧巻なのは階段室に飾られている横山大観と下村観山の共同作業による巨大な日本画『明暗』で、これを見るだけでも価値があるのに展示室が1階には3つ、2階にもフロア全てを使った展示室が1つあり、ここだけでも長時間いられること請け合い。

會津八一といえば瓦である。美術評論もしていた八一は屋根の瓦に美術的価値を見出し、病的とも言えるほどに瓦を集めた。1階の會津八一コレクション室ではそんな八一の瓦コレクションをはじめとして様々な美術的価値のあるコレクションを展示している。
近代美術展示室では西洋美術を教えていた坂崎坦と乙郎の親子によるコレクションとして絵画を中心に展示している。林武や和田三造、ポール・フジノといった画家と、個人的に好みな鴨居玲の自画像も展示されている。坂崎親子は美術評論家としても活動し、彼らの評論も一緒に資料展示されている。
日本重化学工業株式会社の創業者であった富岡重憲コレクション展示室では、生前に長きに渡って収集した美術品の中から今回は仏教に関する坐像や立像、それに仏画などを古今東西から集めた美術品を展示している。中でも二枚ある法華経絵はしれっと重要美術品だったりする。
2階のグランドギャラリーでは早稲田建築の草創期を担った建築家や建築教育者に焦点をあててその設計図や建築模型を一挙に展示している。内藤多仲の東京タワー、岡田信一郎の明治生命館、今井兼次の早稲田大学図書館、佐藤功一の大隈記念講堂、村野藤吾の戸山キャンパス、吉阪隆正のヴィラ・クゥクゥ、武基雄の第二学生会館など建築模型が一堂に会する様は圧巻。トイレはウォシュレット式。

やっぱ建築模型っすよ

・早稲田大学125記念室(會津八一記念館分室)
會津八一記念博物館の分室機能として、大隈記念講堂の目の前にある大隈記念タワーの10階、125記念室と呼ばれる部屋に考古学・民族資料の常設展示室がある。この125記念室とは部屋の番号ではなく、創立者の大隈重信が唱えた人生125歳説によるもの。

考古学や民族に関する資料が大量に展示されている。こちらでも瓦は健在。瓦の八一とはよく言ったもの(言われてない)。山内清男や西村正衛の縄文土器、土佐林義雄のアイヌ民族資料、吉村作治のエジプト考古学品などがバラエティ豊かに展示されている。八一記念博物館と違いこちらは撮影自由になっているため瓦も撮り放題である。こちらもトイレはウォシュレット式。

瓦の聖地

・坪内博士記念演劇博物館
日本の演劇を切り開いたといっても過言ではない坪内逍遥の名を冠した演劇をテーマにした博物館である。イギリスのフォーチュン座を模して建てられた建物は正面舞台にある張り出しの部分がそのまま舞台として使用でき、関連イベントで演劇が催されることもあるという。

1階にある京マチ子記念室、2階にある坪内逍遥記念室の常設展示を経て企画展示室では浄瑠璃作者の近松半二を特集している。浄瑠璃。はっきり言って全く未知の分野である。歌舞伎でもなく能・狂言でもない。どんな舞台装置でどういった配役でどう演じられるのか、情報がない。かろうじて彼の師匠筋にあたる近松門左衛門の名前を知るのみ。半二に至ってはその存在すら知らなかったという中で戸惑いつつも展示内容を見てみると生涯で六十作以上の作品を残している上、その多くが名作として親しまれているのだという。そんな人物にも関わらず今までに特集をされたことがない謂わば知る人ぞ知る作者ということで、今回は初めてメインとなる企画展として開催したのだという。やはり浄瑠璃の知名度では近松門左衛門の一強が続いているらしく、ここから半二の逆襲が始まる。かもしれない。

この荘厳な構えは見事である

3階は再び常設展示として古代・中世、近世・近代、近代から現代、そして世界の演劇という4つのテーマに分けてそれぞれの紹介を行なっている。以前に訪れた時に比べてだいぶ展示内容とレイアウトが入れ替わっており、だいぶ新鮮な気持ちで見ることができた。さらに1階に降りれば特別展示として新収蔵品展を行なっており、舞台衣装や図面、上演資料など変わったところでは六代目中村歌右衛門の描いた日本画などが新たにコレクションとして加わっている。トイレは洋式なのは変わらず。ただし図書閲覧室側はウォシュレット式。

募金すると面白いよ

・国際文学館 村上春樹ライブラリー
新たに建設されたことで話題になった村上春樹を記念したライブラリー。国際文学館という名がついているのは村上春樹の作品が海外でも評価を得ていることや彼自身が海外作品を翻訳していることなどによるのだろう。博物館機能だけでなくカフェやラジオブースも併設されており、文化交流の場としての要素を押し出している。

特徴的なファサードを抜けると両側に本棚を備えた下へ降りる階段がある。最初にスタッフの方から注意事項があるように、この階段は本棚から本を自由に取り出して読むためのスペースとしても開放されており、左右で段差が違うため躓きやすくなっている点に注意。転んだら下まで一気に転落しそうな怖さがあるが、通行側の階段には手すりが付いている。 

上ばっか見てると足元をすくわれますわよ

1階は村上春樹が愛好しているジャズを全面に押し出したオーディオルームになっていて、彼の敬愛しているジャズが流れている。運営していたジャズ喫茶「ピーター・キャット」の所蔵品も展示されている。ギャラリーラウンジでは村上春樹の本を読める。

カフェーっぽい造り

階段で2階へ上がるとスタジオとラボ。ワークショップを行ったり、ラジオブースになっているスタジオからは世界への発信もできる仕様になっている。ところどころに村上作品に登場するキャラクタが壁に描かれていてそれを見つけるのも面白いかもしれない。

あッ!おまえは・・・

メインとなる展示室ではジャズと文学、という展示を行なっている。村上作品に限らず色々な文学作品に登場するジャズナンバーを中心に紹介している。文化の拠点としてのジャズ喫茶という観点から文学と音楽の味わい方をそれとなくレクチャーしている。この辺りのオシャレ感は村上春樹作品らしい。そもそも小説を書こうと思った理由が「神宮球場の外野席でビールを飲みながら野球を感染していた時に先頭バッターのデイブ・ヒルトンがバットに快音を立ててレフト線へヒットを打って素早く一塁ベースを回り易々と二塁へ到達した瞬間」だっていうからね。

展示室は展示品よりもスペースの広さを楽しめ

中央階段を降りた地下には「ピーター・キャット」で使われていたピアノや、舞台で使用された舞台装置が展示してあるほか、ラウンジで喫食しながら音楽に耳を傾けて村上作品を読むのである。トイレはウォシュレット式。ちょっと男女がわかりにくい。性別を間違えて入っちゃいそう。

・早稲田スポーツミュージアム
早稲田スポーツミュージアムは他の博物館の入っている早稲田キャンパスから少し離れた戸山キャンパスの中にある。とはいえ早稲田キャンパスも戸山キャンパスも道一本へだてているだけの近距離にあるので、そこまで遠い感覚でもない。

スポーツミュージアムも割と近年になってからできたもので、まだ3年ほどの新しいミュージアムである。スペースとしては他の博物館に比べると決して広くはないものの、伝統の早稲田ならではの長い歴史の中で培われきたスポーツの歴史を紹介している。実はこのミュージアムの入っている早稲田アリーナができるまでは記念会堂があり、前々回の東京オリンピック会場になっている。
早稲田スポーツは大隈重信や日本野球の父と呼ばれた安部磯雄らによって脈々と受け継がれ、現在も多くの人材を生み出しているのである。トイレはウォシュレット式。

右手が展示室 奥の回廊はちょっと好き


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