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遊就館(東京都千代田区・九段下駅)

正月休みにずっと家にいても酒に飲まれてばかりになってしまうことは明白なので、どこか外に出てリフレッシュしなくてはと自らを奮い立たせ、年末年始に開館しているミュージアムはないかと出かけることに。基本的にミュージアムはほとんどが年末年始には閉館しているものだけれど、探してみるとまれに開館している場所がある。その中で未訪問だった場所に絞ってみたところ、こちらの遊就館を発見。幸いにして周辺にも未訪問のミュージアムがあるのもあって、朝から開館しているこちらをまずは年初に選択。せっかく新年だし最初くらいは日本人らしく和の心を持ってみようかとね。おほほ。

遊就館は靖國神社の境内にあるミュージアムなので最寄りである九段下駅から向かう。昭和館や日本武道館へ訪れる以外に普段は降りる用事のない駅で靖國神社も訪れるのは2回目くらいである。九段下駅を出て坂道を上った先にある靖国神社へ向かう道すがら、妙に警官の数が多いことに気づく。確か以前も警官がいた気がするけれどこんなには多くなかったような、それに年末年始なのに散歩している人が妙に多いな、なんて呑気なことを考えながら靖國神社の入り口にある巨大な鳥居へと辿り着いてさっそく後悔する。

この辺りから人がちらほらいて嫌な予感

初詣である。年末年始といえばこのビッグイベントがあるのを忘れていた。初詣なんていつ行ったっていいんだからわざわざ寒い時期に人混みにまみれて行く年始の初詣に意味を見出せない自分としては(個人的な意見です)、正月の初詣なんてまず念頭になく、むしろ年始なんて街は空いてるだろ、なんて高を括りまくっていた。そもそも遊就館のあるのは靖國神社である。初詣の神社には人が集まるということすら忘れていた。とんだ不敬である。

大村益次郎にも叱られちゃう

初詣の人混みあふれる靖国神社の中で、参拝せずにミュージアム訪問だけを目的に来ている人間は自分だけかもしれない。だって人混み嫌いだし。初詣するのは金山神社と決めている。まあ、そんなことはさておき遊就館である。博物館であり、ある意味では国が関与しているようなミュージアムであるにも関わらず意外と入館料は強気な設定。ただそれを裏付けるほどの展示室の多さは自信のあらわれと言えるかもしれない。いくつかの展示室にスタンプがあるのだけれど、そのスタンプ帳を配布ではなく販売しているミュージアムは初めて。それでも実施する人がいるということなのだろう。

こちらが入口 お金かかってる感

入口の無料スペースには零戦やカノン砲などの砲台、鉄道が実物展示されている。これだけでもかなりの手間がかかっている。休憩所も兼ねてカフェーも併設されており、こちらは大賑わい。ショップもある上、無料の展示室もいくつかあるので初詣で懐が寂しくなったらこちらだけでも楽しめるようになっている。2階からが有料エリアになっており、エスカレータで上がった正面には兵士の像がお出迎え。またロビーには著名な彫刻家の作品が展示されているなど、かなり力を入れていることが窺える。シアターでも靖国神社の紹介がされており、参拝だけでなく境内に点在している施設のいくつかを見学する手助けになっている。相撲場があるとか知らなかった。

靖国神社の奥の方に相撲場がある

展示室1では歴代の天皇が戦時中に陸軍・海軍の大将のうち30人に元帥の称号を授けて下賜した元帥刀が紹介されている。四隅には宗良親王、本居宣長、三井甲之、大伴家持を中心にいくつかの和歌と共に日本を守ろうとした精神を紹介するというテーマの展示がされている。隣接する展示室2でも古代の七星剣からはじまり中世の甲冑や刀剣など日本古来の武具について紹介している。しれっと重要文化財の大太刀正家や、青江(金象嵌)藤原清則といった刀剣や織田信長所有と伝わる金箔押八間南蛮帽型兜鉢や小早川秀秋所有と伝わる紫糸縅具足などもある。

館内の撮影不可なので代わりに境内の能楽堂をお楽しみください

隣の展示室3からが明治維新に至る歴史を紹介。幕末から戊辰戦争、明治政府内での内紛である西南戦争他の混沌とした時代がわかるようになっている。特別陳列室では皇室ゆかりの神宝や文書が紹介されている。明治天皇ほかの肖像画もある中で、神武天皇の肖像画が明治天皇そっくりに描かれているのも印象的。政府の運営において徳川将軍の影響を払拭させる意味でも天皇の神格化がより一層もとめられたのかもしれない。そのほか2階にある展示室では海外の列強国に追いつくために軍事国家へとなっていった過程が日清戦争、日露戦争、満州・支那事変といった流れで戦没者の遺品や事件と共に紹介されている。

公開展示室ではおじさん達が映り込まないように写すのが大変

1階に降りると大展示室があり、人間魚雷「回天」や特攻機「桜花」、爆撃機「彗星」や戦車・戦艦の砲台などが展示されている。基本的に館内は撮影できないのだけれどこちらの展示室は撮影スポットに定められている。戦没者の遺品が多く収められているのもこちらの展示室。多くの戦没者の屍の上に成り立っている現代のことが学べるようになっている。

人間魚雷 なに考えてんだ

続いての展示室からは大東亜戦争を中心にした展示。海軍による真珠湾攻撃や陸軍によるマレー半島上陸など太平洋戦争序盤の流れを当時の地図と共に詳しく紹介している。短期決戦で有利な条件で講和するという本来の理想から次第に戦争継続を免れない状況へと陥り、ミッドウェー海戦など攻防の転換期から次第に守勢へと追い込まれて行く悲壮感が見え隠れしてくる。悪名として知られることが多いインパール作戦なども紹介されている。やがて硫黄島、沖縄、本土防空戦を経て降伏、ポツダム宣言後にもソビエト軍の侵攻があったことやそれに連なるシベリア抑留、アジア諸国の独立などについても紹介されている。

最後は戦争に従事した特攻隊員、従軍女性、スポーツ選手など多くの戦没者についてを紹介しているエリア。企画展示でも沈没艦船に関わる戦没者の遺書や遺品を展示しながら、今でも海に沈んだままの艦船の写真を紹介している。この最後のエリアと企画展示室は戦争に赴いた人が死んでいるというリアルが特に浮き彫りにされ伝わる展示室となっているといえるかもしれない。特別展として現代刀匠が打ち上げた新作刀剣の展示も開催している。トイレは和式と洋式はウォシュレット式。

庭園は人がいなくて快適

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