ウィンタージャム


 

 関東地方では記録的な大雪となった2月8日から3日後の11日。まだ溶けきっていない雪だるまが残る寒い中、ライムベリーのニューシングル「ウィンタージャム」が発売された。

 ライムベリーはMIRI、HIME、YUKAの3MCと、DJのHIKARUによるアイドルラップユニット。プロデューサーのE TICKET PRODUCTIONによる楽曲は90年代の日本語ラップやテクノに対するリスペクトがふんだんに盛り込まれており、この「ウィンタージャム」もスチャダラパーの「サマージャム'95」へのオマージュが捧げられたものとなっている。

 ライヴでは初期から歌われているお馴染みのナンバーで、当初ライヴで使われていたトラックは今とは違う打ち込み系のものだった。電気グルーヴの「新幹線」がサンプリングされたアンビエント・テクノに三人のラップがかぶさるもので、こんな曲をアイドルが歌っているってどういうことだ? というのがライムベリーに対する最初の驚きだった。

 シングルカットされた現在のバージョンは、ジャズ調にアレンジされており、ボーカルが全面に出たものとなっている。歌詞にあるように、部屋の中でこたつに入って、友達と『マリオカート』で遊んでいるかのような微温感のあるぽかぽかとしたテイストで、スチャダラパーが当時歌っていたような「心地よい気だるさ」が歌われている。四人が感情をこめずに歌っている感じ、特にHIKARUの「誰のせい、それはあれだ」の部分が楽曲とマッチしていて、少し突き放した距離感が、歌詞の中にあるせつな明るい感じを際立たせている。

 日々の暮らしの中で漠然と抱いているぼんやりとした不安と、春になれば全てが変わるというかすかな希望。「ウィンタージャム」や「Ich liebe dich」を筆頭に、10代の少女が、ふとした瞬間に感じるけど、うまく言葉にできずに、ふわっと消えていってしまう切ない気持ちを掴まえるのが、E TICKET PRODUCTIONは抜群にうまい。

それはCDジャケットのアートワークにも強く現れている。冬の海にたたずむライムベリーの四人。しかし、四人の姿はイラストで、それぞれのイメージカラーが塗られたパーカー以外は線画となっていて、今にも消えかけているかのような透明の身体が描かれている。

 空には大胆なフォントの白文字でWJと書かれており、冬の透明感が出ているが、同時に生身の彼女たちの不在を強く印象づけ、彼女たちとファンの心象風景を現在進行形で表現したものとなっている。

「テレビの中ではお祭り騒ぎ あたしは広い部屋に一人」という歌詞は、盛り上がりを見せるアイドルシーンにライムベリーがいない物足りなさを歌っているかのようで、「昨日より少し成長した? 大丈夫 愛してるみんな」というリフレインも、いつもより切実に響いてくる。

 カップリングは「R.O.D.(2013 LIVE TAPE @ WWW)」

 昨年夏におこなわれた渋谷WWWでの1stワンマンライブのオープニングを飾った「R.O.D.」のライヴバージョンで、こちらは「ウィンタージャム」とは正反対の熱い一曲。ボーカルも含めて、録音状況は決して良くないが、その音質の悪さがプラスに働き、観客の歓声も含めて、笑っちゃうくらいハイテンションの一曲となっている。当日は今と違って猛暑だったけど、ライヴも負けず劣らず熱かったなぁと思い出させる。もしも他のライヴ音源もソフト化されるのなら、是非とも聴いてみたいところだ。

2013年、夏の1stワンマンライブ以降、ライムベリーは活動休止中で、10月にアナログレコード「フロム東京」を10月に発売し、12月には所属レーベルによるコンサート「T-Palette Records感謝祭2013」で、つかの間の復活を果たしたものの、いまだ活動再開のアナウンスは発表されていない。

 まだまだ寒い日が続きそうな2014年の2月だが、このCDを聴きながら、やがて訪れる春を待ちたいと思う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?