やさしさってなんだろう?

急に、こんなテーマですいません。
私のピンチを救って下さった方が今年ご勇退されると伺い、「おもひでぽろぽろ」のように、いろんな記憶がよみがえってきて、少しセンチメンタルになっております。

早すぎる挫折

私が就活した年は、氷河期でした。
その年は採用された人数も少なく、たぶん採用時にある程度配属先の部署も決まっていたと思います。
海外駐在希望であった私は、入社後、全く希望していなかった管理部門に配属となりました。
海外駐在など望むべくもない部署で、行けたとしても40歳過ぎてからってところでしたので、少なかならずショックを受けました。

更に、しばらく新入社員も入っていなかった部署だったので、即中堅社員の後任として、かなりハードな仕事をこなさなければならず、月100時間残業も当たり前でした。
1年ほど経つと、心に変調が現れました。会社に行くのがとにかく憂鬱で、遅刻をしたり、イージーミスも増えて、上司や先輩から叱られることも多くなりました。
その頃は、終電が無くなっては、会社近くに住んでいた、留年した大学の友達の家に泊めてもらっていたんですが、自由な学生生活を垣間見て、更に気持ちは沈んで行きました。

先輩からミスをこっぴどく叱責された日、しばらく非常階段で考え込むと、このままでは自分が本当にダメになると思い、呆気なく会社を辞めることを決意しました。
その日はサクっと定時退社して、友達の家に泊まり、翌日朝、上司ヘ会社を休むことを伝えると、辞表の準備を始めました。

すると、会社の番号から着信があって、恐る恐る出ると、常務からでした。
同じフロアで働いていたものの、ほとんど話したこともない雲の上の存在だったので、頭がまっしろになりました。
正直に、体調は悪くないこと、友達の家に居ることを伝えると、友達の家の最寄り駅でランチを一緒に食べることになりました。

あの日

何故かあの日のことは、20年近く経った今でも鮮明に覚えています。
待ち合わせた駅で、「何処か美味しい店ある?」と聞かれて、何故か1キロも離れた焼肉屋を言ってしまい、長い道中ずっと無言で俯きながらテクテク歩いたこと。
お店に入り、「何でも好きなもの注文して良いよ」と言われて、ひと通り注文も終えて、常務と向き合ったまま、しばらく沈黙が続いたこと。

あぁ、説教されて、首根っこ掴まれて、会社に送り返されるんだろうなぁと身構えていると、温かい微笑みを浮かべながら、「苦しかったなぁ」とぽつり。
入社前に思っていた希望は早々に打ち砕かれて、仕事も全くこなせず、上司や先輩に迷惑ばかり掛けて、誰からも必要とされてないはずの私のことを、気に掛けてくれていた人がいたんだと思うと、みるみるうちに常務の顔がぼやけて見えなくなって、手元にあったタレの皿を見ながら、涙と鼻垂らして嗚咽していました。

同じフロアで私の変調に気付いていたこと、私が辞めそうだと聞いて午後のスケジュールをキャンセルして来てくれたこと、御自身の新入社員時代の失敗談や苛酷な状況から立ち直った話しをしてくれて、「この不況の最中に、次の会社も決めずに辞めるべきではない。前途ある若者の未来を閉ざすようなことはしたくない、今の部署ではやりづらいだろうから、場所を変えてもう一度やってはどうか、君なら大丈夫だ、絶対やり直せる。」と他の部署への異動を提案してくれました。

やさしさってなんだろう?

その2ヶ月後に私は他の部署へ異動することとなり、なんとか立ち直ることが出来たわけですが、アラフォーになった今思い返すと、やさしさって、「人の気持ちに寄り添えること」だなとつくづく思います。
人は、自分の当たり前や価値観を、自分勝手な善意を、ついつい人に押し付つけてしまいがちですが、相手の気持ちを想像して、寄り添って、行動できたとき、それが「やさしさ」なんだろうなと思います。