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(連載1)人類の来た道、行く道

1. プロローグ

現在(2021年)、世界の人口は78億人である。地球が養うことができる人口は、農業技術などの進歩により300億人までという試算もあるようだが、その前に資源が枯渇するかも知れないし、今年のように予想しない感染病が流行したり、あるいは核戦争さえ起らないとはいえない。地球温暖化がどのような影響をもたらすかも分からない。いずれにしてもこの数字の根拠をもう一度検討する必要がある。
 開口健に「チンパンジーは笑う」というエッセイがある。600万年前にチンパンジーの先祖と別れたわれわれの先祖は2足歩行になり、空いた手で石を握って他の哺乳類、ときどきは同族まで殺戮する力を身につけた。そして今は、地球全体を破滅させるような道具まで手に入れてしまった。このような人類の進化が本当に幸せだったのかということを人類に進化しなかったチンパンジーが笑っているという皮肉である。
 いずれにしても、今や人類が地球の主役を占めているという認識であり、すべて人類本位でものごとが進んでおり、人類も地球の自然の一部であるという謙虚な考え方はどこかに消えてしまった。本連載では、人類と地球の未来について、現在知られているいろいろなデータから分析してみたい。進化の過程で認知革命が今の人類を生みだしたというなら、その認知機能をフルに活用して人類の未来を占うことも進化の一部であろう。

2.地球の歴史

 地球ができてたのは約50億年前といわれている。月もまったく同時代に形成されている。宇宙が開闢して150億年とされているから、宇宙の始まりから100億年経てから地球が誕生したことになる。宇宙の生成、ビッグバン、そして太陽系と太陽系の惑星である地球の誕生に至る過程については物理学者などが詳しく考察推定しているので、ここでは改めて繰り返さない。
 何十億年前、何千万前といわれても言葉としては理解できるが、感覚としてはあまりピンとこないのが普通である。人間の寿命が100年を超えることは少ないので、これより昔のことは実感がない。そのために、地球カレンダーというのが工夫されており、地球誕生以来現在までを1年間365日として地球の歴史を表している。これによれば、1月元旦に地球が誕生し、最初の原始生命が地球上に生命が発生したのは2月25日(39億年前)であり、以来生命は進化と絶滅を繰り返しながら、12月31日の除夜の鐘がなるまで続いてきている。なんと私たちの大先祖がチンパンジーの先祖と袂を分けたのは12月31日の午前10時ごろといわれ、現在のホモサピエンスが現れてくるのは午後11時37分頃であるとされている。紅白歌合戦でいえば、まもなく大トリの時間帯である。今は、地球上で我が物顔をしている人間は本当に新参者なのである。
 さて、地球カレンダーではなく、現在をゴールポストとして、宇宙開闢の時を150メートル先にするとどうなるか。1メートル約1億年とする。地球の誕生は約50億年前であるから50メートル先である。原始生命が生まれたのは39メートル先である。25メートル先で原始生命は当時の海のなかで多細胞生物に進化した。生物は長い時間をかけて繁栄するが、地球規模の環境の変化で突然にあらゆる種が大量絶滅する。5メートル手前から現在まで5回の大量絶滅があったことが知られている。一番手前は65センチ前の隕石衝突による恐竜の終焉である。大量絶滅があるごごとに、わずかに生き延びた生物種が2~3千万年かけて環境に適応した進化をとげて再び繁栄する。魚類や両性類がでてきたり、海から陸で生きる生物が出てきたりするのはこの大量絶滅が機会になっている。恐竜が絶滅した後には哺乳類が地球上に跋扈するようになる。先代人類が現れたのは約ゴールより6センチ前ということになり、ホモサピエンスの出現となると0.2センチ前となる。さてゴールより後ろは20~30メートル先で太陽系が終焉すると予想されているが、人類が数センチ後まで生き延びることができるかどうかについては誰にも分からない。ただ、種の大量絶滅はいつでも簡単な環境の変化で簡単に起きることは忘れてならない。たとえば、大きな火山の噴火で火山灰が地球を数年覆うようなことで、数百年から数千年かかって生物種が衰退していくことがあっても、地質学的な歴史のなかでは瞬間で生じた大量絶滅といわれるようなる。

3.人類の歴史

 現代人のホモサピエンスはゴールの僅か0.2センチ前(約20万年前)にアフリカで生まれたとされる。ミトコンドリア・イブとよばれる科学的な追跡の結果である。一方、類人猿類の発祥は約600万年前であるとされている。いわゆる、チンパンジーやゴリラなどの先祖の猿との別離である。600万年以来、幾多に分かれた先代人類は数100万年から数10万年の間生きた後に絶滅しているが、これらの先代人類の枝から分かれて、さらに分かれて今のホモサピエンスにつながっている。先代人類がなぜ絶滅したかについては、地球規模の地殻大変動や気候変化などが関係していると思われるが、種として遺伝学的な意味で衰退して消えたのかも知れないし、その理由はよく分かっていない。氷河期には同じ先代人類の枝から出現してネアンデルタール人は氷河期をくぐり抜け30~40万年生きてきたが3万年前には絶滅した。ホモサピエンスもこの寒冷期をくぐりぬけて現在まで生き延びてきた。その差にはなにがあったのか。頑丈で体躯も大きなネアンデルタール人が絶滅したのは、ホモサピエンスとの食料争奪戦に負けたことが原因かも知れないが、その理由はよく分かっていない。遺伝子を調べるとネアンデルタール人由来のDNAが僅かに混じっているということから、必ずしも全部が排他的であったわけではなく一部には交雑があったともいわれている。
 栗本慎一郎は1981年に「人間はパンツをはいた猿である」という著書を出している。人間の性(さが)の80%は動物であるということで、人類の社会や経済活動を生物学的に分析したものである。後になって「人間は携帯を持った猿」などとパロディ化されるなど結構評判になった本である。実は、猿がパンツをはけるようになったということは素晴しいことであり、ホモサピエンスが生き残った理由もここにある。ホモサピエンスが出現して以来、人類は地球の温暖期は現代を含めても2回しか経験していない。ほとんどの生活が氷河期における狩人生活であった。狩人の集団は血縁関係にある、多くても20~30人を超えない数であったといわれる。しかも、集団同士が互いに出会うこともなく、それぞれ勝手に食料となる動物を追いながら旅をしていた。何世代もかかりながらシベリアから陸続きのベーリング海峡を渡り、アラスカ、カナダ、アメリカ、南米にまでも到達している。アメリカへ到達した年代にはいろいろ議論があるが、氷河時代前ということが定説になってきている。少なくても2万年以上前である。オーストラリアに渡ったのはさらに古く5万年前とされている。このように、アフリカから出た現代人は世界各地に散っていった。もちろん、狩人としての獲物を求めての結果と思うが、この旅を支えたのは、石器以外の道具では針と糸の発明である。これによって毛皮を縫い合わせ寒さを防ぐことができた、もちろん、火も燃やすこともできた。必要なときは洞窟で寒さをしのぐことができた。ネアンデルタール人は氷河時代にあって、頑丈な体躯で生きてきたが、このような避寒対策が出来なかったことでホモサピエンスに対して負けたのではないかと思っている。パンツがをはくことがこれこそ動物や先代人類から進歩を成し遂げたホモサピエンスが現代に続く象徴なのである。
 いずれにしても、氷河時代が1万5000年前に終わり、温暖化の進行とともに農耕や家畜を飼うことが効率が良いことをホモサピエンスは知った。かつては出会うことさえ少なかったホモサピエンスの群れは、定住し大集団での共同生活を覚えた。村から町へ、そして都市へとその生活集団は次第に大きくなった。気候変動で農耕ができなくなればその都市を捨てまた新たな地で暮らすということを繰り返しながら、いわゆる私たちが知っている歴史時代に入り、科学や技術の発展をもとに結局現代文明に行き着いたわけである。
 20万年まえにアフリカに出現したミトコンドリア・イブは他の先行する前人類から分岐したわけではない。詳細は不明であるが、ある日、突然変異した種が出現してその遺伝子が細々と伝わっていき、さらに6~8万年前にさらに突然変異による進化が生じ、世界の各地に散って行って各民族の始祖となった。この進化は認知機能の進化であって、言語の使用や抽象思考と関係するものとされている。
 かつて、日本船舶協会の会長であった故笹川良平氏は「人類はみな兄弟」とテレビコマーシャルを流していたが、まさしくその通りなのである。ナチスの誤った社会ダーウィニズム、米国にはやる黒人やアジア人に対するヘイトクライム、日本における韓国や他のアジア人に対するヘイトスピーチなどはまったく人類史に無知な人々に兄弟、姉妹に対する迫害なのである。(以下 連載2へ)

人類史 (2)













人間は「パンツをはいた猿である」といった。ホモサピエンスの本性は猿と変わらないと言いたかったのであろうが、パンツをはけるようになったというのが、実はホモサピエンスが生き残った理由なのである。ホモサピエンスが出現して以来温暖期は現代を含めても2回しか経験していない。ほとんどの生活が氷河期における狩人生活である。狩人の集団は血縁関係にある、多くても20~30人を超えない数であったといわれる。しかも、集団同士が互いに出会うこともなく、それぞれ勝手に食料となる動物を追いながら旅をしていた。





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