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(連載3)ポストコロナ時代の大学選び

3 日本の大学を取り巻く状況

3.1日本の大学数は多いのか
 このままでは、日本の大学は駄目になるということを客観的に分析し、だめにならないようにするためにはどうすればいいのかということを提言したいが、まず、ここでは、日本の大学が直面している現況について見てみます。図3.1に示すのが1965年(昭和40年)から2017年(平成29年)までの日本における大学・短大の数の変遷を示したものであります。

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高等教育を担う大学・短大の数は2001(平成13年)に1228校と最大となったもののその後は徐々に減少し、2017年(平成29年】には1117校となっています。これは主に短大が廃止あるいは改組されて4年制大学へ移行したことによるものであり、むしろ、4年制の大学数は2001年(平成13年)の667校から2017年(平成29年)には780校と増えています。図にはまだ表示されていませんが、2018年(平成30年)には五大学が新設され、2019年(平成31年)には17大学が開設されました。したがって、今では大学数は800校以上となっています。もっとも、この数は文科省の学校基本調査に基づくものであり、2017年(平成29年)には780校と集計されていますが、実際に学生募集を行った大学は764校であり、経営不振で新入生募集を止めたがまだ在校生のいる大学も学校基本調査には含まれていることによるものです。800校を超える日本の大学数が国際的にみて多いかあるいは少ないかという議論はあまり簡単ではないようです。理由は教育制度がそれぞれの国で異なることによるもので、国際的な統計もありません。「諸外国の教育の教育統計」という資料が2018年(平成30年)文科省から発表されています。そのなかでは米国、英国、ドイツ、フランス、中国、韓国の教育統計が出ております。学位を出すことのできる4年制大学、あるいは学位を出さない4年制高等教育機関などを拾いあげてみますと、表3.1のようになっています。合わせ

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て人口も参考までに示しています。18歳だけの人口統計はありませんので、15歳以下の若年者の人口を参考までに示しています。将来、大学まで進学するかも知れない人々です。この表からみると、日本と米国は人口に対して大学数が群を抜いて多いことが分かります。短期大学に相当するカレッジは入れていませんが、米国ではこのカレッジが1300校程度ありますから高等教育の機会は世界一といってもいいかも知れません。しかし、先進国や発展途上国などでは経済的に大きな差がありますから人口当たりの大学数だけを比較するのではあまりにも大雑把な推計になり過ぎるかも知れませんのでもう少し別の見方をしてみます。例えば、範囲を狭めて25歳―34歳の人口に対して大学卒業者の割合を先進主要国について比較したものを図3.2に示します。残念ながら中国とインドのデータは見つからりませんで

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したが、韓国、カナダ、ロシア、日本では大学卒業者が同年代人口に占める比率が大きく、,かなりの高学歴社会になっていることが分かります。すなわち、大学の大衆化(ユニバーサル化)が生じている国ということになり、したがって高等教育を行う大学数も十分な状況にあって飽和に近い状況とみてよい国ではないでしょうか。また、世界を見渡すとこのような統計の算出ができない国が半数以上を占め、統計数値はでてきているものの発展途上国といわれるインドネシア(16%)、ブラジル(20%)、南アフリカ(6%)などはようやく高等教育を受けるための経済的な基盤が出来つつあり、いずれ大学がもっと数多く必要になる国と判断できます。 
 もっとも大学の必要性の有無をこの大学卒業者の同世代人口比率だけで判断できない国もあります。アイドルスターも大学卒業でないと社会的に認められない韓国のような国もあれば、ドイツのように、初等、中等教育における技能教育がしっかりしていて、大学入学志望者とはこの段階で分かれており、かりに大学に進学しなくても安定した収入で生活を営むことができる社会であることを示しています。EU諸国が一般にそうですが、むしろ大学に進学するのは学問を志したいなどそれなりの明確な志望理由があることによるもので、あとで述べますが大学卒業生の高い大学院進学率でみることができます。とりあえず、大学だけは出ないとか、あるいは出さなければという国とはまったく異なる社会意識があります。いずれにしても大学の必要性は当然経済発展と社会の考え方と深くかかわっています。

3.2 日本の18歳人口と進学率の将来
 国際的にみて日本は高学歴社会であり、大学が大衆化(ユニバーサル化)していることがよく分かりました。本来ならば、高等教育を受けたい希望者に対して、高等教育を提供する大学が十分に備わっている状況ということは大学の教育の質の問題は別にしても非常に恵まれた国であるといってもいいでしょう。2001年(平成13年)の小泉政権によって聖域なき構造改革として本格化した規制緩和の流れのなかで、高等教育は国家が責任を持つという従来の方針から大学経営も自由競争で市場化(ビジネス化)しました。「米百俵の精神」を強調したご本人が教育を市場に託したわけです。後で詳しくみるように、今のところ日本の大学は18歳人口と進学率の関係で見る限りは、成長市場ではないがまずまず良好な需給関係にあるともいえるようです。
 そのような状況でありながら、なぜ「危ない大学、消える大学」、「大学崩壊ーリストラされる国立大、見捨てられる私立大」、「危機に立つ国立大学」、「危機の大学論ー日本の大学に未来はあるのか?」などのいわゆる大学危機本が相次いで出版されるのでしょうか。大学の経営の危機なのか、大学の存在そのものが否定される危機なのか、あるいはこの両者の危機なのかよく分からない点があります。経営危機であれば、需要側(志望学生と保護者)の選別が厳しくなったためなのか、あるいは需要側のコストパフォーマンスに合わない大学が増えためなのか、大学の存在意義の否定であれば、卒業生を受け入れる経済界から学生の学力に不満がでているのか、さらには大学が政府や文科省が求める大学改革期待に背いているからなのかなどさまざまな疑問が出てきます。大学だけに責任のある問題なのか、政府(中曽根内閣時の臨時教育審議会から安倍内閣の教育再生実行会議まで歴代内閣の教育政策とそれを受けた審議会の答申)や文科省(かつての大学審議会、現在の中教審の大学分科会)の方針に問題があるのか、あるいは高学歴を志向する社会全体に問題があるのかを明らかにする必要があります。
 まず、市場化された大学の経営危機という立場から今後の18歳人口や進学率の将来についてみてみましょう。
 大学入学時期にあたる18歳人口は1992年(平成27年)に206万人というピークを示したのちにその後は右肩下がりとなり、大学・短大数がピークに達した2001年(平成13年)には151万人と約25%も急激に減少しています。人口の将来推計は他の統計推定と比較して予想確度が高いのですが。とくに、18歳人口に関しては初等・中等教育における各学年の生徒数を調べて補正することができますからさらに確度が上がることになります。例えば小学1年生の在校生人数を調べれば、13年後の18歳人口は積極的な移民政策でも導入しないかぎり減ることあっても増えることはまずありません。いずれにしてもこの推計によれば2019年(令和元年)には117万人と半減し、さらに2030年(令和11年)には101万となり100万人を割る寸前にまで減ることが確実であります。
 大学・短大の志願者は、留学生や社会人学生の入学もありますが、この18歳人口と進学率によってほぼ決まります。しかし、この進学率(現役)も2008年(平成20年)頃に60%に達した後にほぼ横這い状態で移行しています。ちなみに大学・短大・高専・専門学校を含む高等教育機関への進学率となると2010年(平成22年)頃より現在まで80%という、5人に54人は高校卒業後さらに高等教育あるいは専門教育を受けるために進学するという状況になっています。現在の日本では大学卒業者の同年代人口比率で見た以上に専門学校、短大、4年制大学を含む高等教育の大衆化(ユニバーサル化)が進んでいます。(図3.3参照)

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3.3 大学の経営危機
2008年(平成15年)頃から大学・短大の収容力を見ると志願者の90%を上回り、志願者を均等に振り分ければ全員入学が可能といわれるようになってきており、ほぼ飽和状態に近くなってきています。また、すでに見たように18歳人口も今後確実に減少し、市場でいえば斜陽分野なのに4年制大学の新設が引きも切らないというのはなぜなのでしょうか。
 18歳人口の絶対数は減っても高等教育に対する社会の要請が高まれば進学率が上昇して志願者が増えることも予想できます。確かに、図3.4に示

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すように、1993年(平成5年)以来男子の大学進学率と比べると女子の大学進学率が急激に増加してきています。教養系の中途半端なキャリアしか提供できない女子短大の志望者が減ったこと、専門学校より四年制大学の方が社会に出てから有利になるかも知れないということで、短大や専門学校から大学への転換にしたことが私立、公立の4年制大学新設が増えたことの大きな要因であります。結局、顧客が減ったので廃止するというより、リニュアルして新しい顧客に対応したことになります。また、一方では後で詳しく検証するように大学設置基準の規制が緩和され、学校法人ではなく株式会社でも大学を開設できるというように規制緩和が進み、大学という市場への参入が容易になったということも大きく影響しています。しかし、その女子の進学率も今では男子進学率にかなり近づいており、そろそろ限界に近いところにきています。この状況を物語るかのように、2018年(平成30年)において私立大学の36%が定員不足に陥っています。これでもその前の数年間は40%の大学が定員不足であったのが、文科省の入学定員に対する厳しい規制がかかりいわゆる難関私立大学が定員順守をしたために改善されたとされていますが。それでも定員が50%に満たない私立大学が11校あり、地方にある小規模大学が経営難にあえいでいるようです。新型コロナ禍の米国の今年の状況をみると、日本でも来年以降はさらに深刻になるのではないでしょうか。私立大学は図3.5(a)に見るように歳入の77%を学生の

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納付金(受験料、入学金、授業料)で賄っていまする。定員不足でも破産しないのは、大学を学校法人がとして経営しているために、図3.5(b)示すように併設する高校、中学などの経営により大学以外からの収入があるためといわれています。しかし、年少児童も減少しているなかでどれだけ我慢比べを続けていけるのか疑問なところです。このような状況のなかでさらに22校が開設するということは、いくら新しい建学の方向を目指してとはいうものの、無理がある状況ではではないでしょうか。 

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