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美しくなくとも笑っていいらしい――『Twitter終了合同』に寄せて

ここのところ、Twitterの終焉がかなり現実味を帯びて眼前に迫ってきている。伊坂幸太郎の『終末のフール』みたいな感覚をリスクなく(実際にそうなってしまった場合、失うものは確実にあるのだけれど)味わえるので、滅びの渦中にいることの高揚、開き直りによるお祭り感、潜在的な破滅願望の表れといった具合の心持ちで、存外心情におけるネガティブの割合は低い。それはそうと、各章のタイトルを統一すべく生み出されたであろう「天体のヨール」のことはまだ許してないからな。

周央サンゴもこう言っている。控え目に言って天才の所業だ。「村会合」の体を、それをそれとして共有できてしまうことそのものが、Twitterであるが故に。「懐かしいのう!懐かしいのう!」と言い続けながら共に沈もう。

さて、Twitterの終了がまことしやかに囁かれる段になって思い出したのが『Twitter終了合同』だった。告知ツイートを「いいね」だけして、「後でちゃんと詳細を見よう」と思っていたのを忘れていた。詳細を覗きにいった勢いそのままに、「今これに触れないでどうする」と購入ボタンを押した。それもまた「村会合」さながらに、どこかの誰かと終末を共有したかったのかもしれない。

どの物語からも個々の「Twitter観」が見えてとても楽しめたのだけれど、その結果として、私にとってのTwitterとは一体何だったのだろう、と考えを巡らせることになった。

自分の中で大きな特徴として挙げられそうなのは、「低次元キャラクタークリエイト」と「存在することを許される広大な教室」といったところだろうか。

「終了してしまうなら」とこれまでのツイートを一括で取得してみたのだけれど(公式にそういう機能がある)、遡って読み返してみるに、今現在なら検閲で弾かれる投稿が散見された。ラジオ活動を始めて以降だんだん「ラジオ人格」が形成された、という話は何度かしているけれど、それと時を同じくして、ツイートの内容もその人格に沿うように徐々に矯正されていったのだと思われる。逆に言うと、ツイートの連なりによって人格を形成できるということでもあり、ある種の「キャラクタークリエイト」を文字で行なうことができる、という点が性に合っていたのかもしれない。以前どこかで触れたように、VTuberが我々と同レベルで存在できるのはそういったTwitterの特性が大きく寄与していて、他ではちょっと考えにくい。非アクティブなアカウントが削除されるという話になったとき、故人のアカウントを守りたい遺族の意見を見かけることがあった。それはもう、ほとんど存在そのものであり、アカウントの削除によって不在が確定してしまう。『Twitter終了合同』の「耳元で囁く」はその辺りを扱う話だった。個人的な話で言えば、ラジオを続ける限りこの人格は存在することはできるけれど、Twitterが爆発四散してしまった場合、文字によって吹き込んだ魂が流れ出てしまった結果、どこかみすぼらしくしぼんでしまいそうな気がする。だから、これは「書く」側の話だ。

一方で、「読む」側の特徴も大きい。言うなればそれが、「教室で存在を許される」ことに近い。あまり輝かしい学生生活を送ってきてはいないので、「教室」に居場所を見出すのには随分と苦労していた。聞き役に徹することで集団に混ざっているように装ってみても、会話に参加していない人間に向けて話をする人などいないので、結局希薄なつながりが浮き彫りになるだけだった。Twitterは銘々が虚空に向かってつぶやくことがベースになっているので、聞き役に徹していてもあまり違和感がない。ゆるい連帯の中で誰かの話に耳を傾けることで、なんとなく人となりを知ることができる。『げんしけん』的なコミュニティの在り方には永遠の憧れがあって、それはどこまで行っても手中に収めることのできない理想みたいなものだから、自分の身をどこに置こうともたぶん決して満足することはないのだけれど、Twitterという空間は、そこに漸近できそうな気がしていて、だから居心地がよかったのかもしれない。まぁ、今は天国がメチャ燃えていて、真顔で火の粉かわすゲームになっているからそうも言っていられないのだけれど。レギュレーションが毎日少し違うけど、まだ遊べるかな。


いつからか「インターネット」という言葉が指すものが「≒Twitter」になっているような気がしていて、未来で問われる「あなたのインターネットはどこから?」への回答として、既にある種のノスタルジーさえ帯びている。(Twitterによって再び脚光を浴びることとなった「インターネットやめろ」というワードは、そのまま「Twitterやめろ」に置き換えることができる。)

終末と郷愁をくれたのならばもう十分だろ、ということで、あとはまた『煩悩事変』でも見ながら凍結を待つとしましょうか。これからも現世をよろしくお願いします。

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