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【映画感想32】大いなる遺産/マイク・ニューウェル(2012)



この間みたオリバーツイストのディケンズが原作とのことでみてみました。
舞台も同じく19世紀イギリスです。

監督はハリーポッターと炎のゴブレットのマイク・ニューウェル!
(余談ですがモノクロ映画を見た後で最近のカラー映画を見るとすごく疲れます。面白くないわけじゃないんだけど、温野菜を食べたあとにジャンクフードを食べるような胃もたれする感じ。)


感想




★原作者ディケンズについて
ディケンズはヴィクトリア朝に生きた作家で、
労働者層の描写に定評があり当時の民衆に人気が高かったとのこと。

特にこの作品は自身の人生が反映されているらしく、系歴を踏まえてみると面白いです↓



〈ディケンズが作家になるまで〉
・貧乏で学校にもほとんど通わせてもらえず、
12歳から町工場で働く
・19世紀前半のイギリスは繁栄の裏に恐ろしい貧困と子供の過酷な労働があった
・独学で勉強しながら15歳で弁護士事務所の下働き、翌年裁判所の速記者となる
・やがて新聞記者となって議会の記事や、風俗の見聞スケッチを書く。
・雑誌の投稿がきっかけで24歳でデビュー


オリバー•ツイストのように「表面上はハッピーエンドだけどよくよく考えると格差社会のエグさがボディーブローのように効いてくる」感じとは違って、
大いなる遺産は格差社会に対する見解がハッキリ出てるように感じました。
この辺りの感想は最後の方にまとめてみます。


★ハヴィシャム夫人について 

揺るぎない存在感があったのがヘレナ・ボナム=カーター演じるミス・ハヴィシャム。
(出演作見たらこの間見たファイトクラブのマーラ役の方でした。苦労と狂気が滲んだ役がすごいハマる方なんだな……)

ハヴィシャムは結婚式当日に男に裏切られて以降、時計を止めた荒れ放題の屋敷に住む女性。
ウェディングドレスを着たまま日の光の入らない部屋に何年も閉じこもっているという一回見たら忘れられないビジュアルでした。
しかもお祝いのケーキや食器は当時のまま埃を被っているのがさらに狂気を醸し出している。

要約すると「結婚詐欺にあって病んで引きこもった女性」で、現代人の感覚だと「気持ちはわかるけどなんとか立ち直れないんか??」って思っちゃうんだけど、

当時のイギリス社会では女性の職業は住み込みの家庭教師くらいしかなく、女性はほぼ男性に追従する生き方をするしかない。
どれだけ商才があっても1人で商売はできないし外食すらできない。

さらに、最近見たゴッホ展で顔を覆った女性の素描があって「帰る家と夫を亡くした時、女性は死ぬのだ」という言葉が書いてあった。
(確かゴッホが誰かの本から引用した言葉のようだったんだけど忘れてしまった)

というわけで、当時の感覚だと女性にとっての結婚の失敗って人生終わったくらいの衝撃なのかもしれません。

辛い人生を送ったなら子どもに辛く当たっても仕方ないなんてことは絶対にないんだけど、
「じゃあどうしたらよかったのか(どうしようもない)」という問いは無視してはいけないと思う。

「それはいけないことですよ!」という正しいだけでは解決しないもの、今の日本にもあるし自分の生活の中にもある。

あと気になったのが引き取って育てたヒロイン・エステラとの関係性。
エステラは「ハヴィシャムに育てられたことによって歪んでしまった」と言う。

具体的にどう育てたかの描写がないので判断しかねるんだけど、設定から想像するに彼女はエステラにとっていわゆる「毒親」で、
(子供の情緒が確実に歪む環境ではある)

でもハヴィシャムはどうするべきだったのか?というと、正直どうしようも無い気がするし、

あえていうなら引き取らないか手放すかしかないけど、引き取らなかった場合、子供の過酷な労働が当たり前の産業革命時代のイギリスで孤児になるということはまともに育つか以前に命が危うい。

終盤でエステラがクズ役満の男と結婚しようとした時は止めようとしていたので、
確かに愛情はあったんだと思う。

ただ、心の空洞を埋めたさがメインというかなんだかgiveよりwantよりの感情の気がする。
愛してくれる誰かが欲しいみたいな。

ところで今のところどの映画でも「あなたが欲しい」的な執着の先にあるのは不幸しかかったけど、じゃあ無償の愛ってなんなんだろう。

他人と関わりたい気持ちってどうしたって寂しさがベースにあり、となると他人を求める感情を消さなければいけないんだけどこれはもう悟りを目指すしかない?

★印象に残ったシーン&まとめ
なんとなく印象にのこったのが、
主人公ピップが都会に会いにきてくれた義兄のマナーをレストランでうるさく注意してしまうシーン。
あれは相手が恥をかいてしまうんじゃなくて「自分が恥ずかしいから」注意したんだな〜っていうのが伝わったんだろうな……

そういえば漫画の「岸辺露伴は動かない」で、

「マナーの本質とは相手を不快にさせない思いやる気持ちにあるんだ !全てのマナーにおいて最大のマナー違反はマナー違反をその場で指摘することだツ!!」

なんて台詞があったけど、
義兄は恥ずかしいというより悲しくて帰っちゃったんじゃないかな。

階級の埋められない格差って、
単純に服装の豪華やマナーの違いでできるのではなくて、それによって発生する
「あいつと俺は違う」
という無意識の見下しの積み重ねのような気もする。


ディケンズ自身貧乏から成り上がった人なので、金や見た目で手のひらを返される虚しさとを身をもって知ってるのかもしれません。

オリバー・ツイストではハッピーエンドの裏に透けて見える貧困と富の二重構造の醜悪さが生々しかったですが、大いなる遺産は「それより大事なものがある」という明確な主張を感じました。 

豪華でぼろぼろのウェディングドレスと質素だけど笑顔花嫁が着るドレス、大きな宝石のついた指輪と鉄の輪っかの結婚指輪。

田舎の結婚式のカットはちょっとわざとらしかったけど、幸福は物質ではないと言いたいような気がする。

この映画も何度か映像化されてるようなので、
他監督の描写も見てみたいです。



★参考


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