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メインバザールへ向かえ!(インド①)

成田からバンコク経由で約12時間のロングフライト,「光の海」には程遠い夜景を眼下に機体はインドの首都デリー(正確にはニューデリーが首都)はインディラ・ガンディー空港に轟音と共に滑り込んだ.平成15年2月9日,インド時間午後8時50分,少し生暖かい2月の風が私を迎えた. 出国前,私は一人旅のバイブル「地球の歩き方」から,デリーにこの時間に到着して宿に無事に辿り着くまでのノウハウを随分と得ていた.長時間のフライトで判断力の鈍った旅行者達がしばしば空港から宿に向かうタクシーで遭遇したトラブルの話は,「地球の歩き方」ですぐに見つけることができる.
一人旅で夜中に空港からタクシーで街に向かうのは非常に危険であり,空港内で夜を明かすか,それが嫌なら日本から送迎付きのホテルを予約しておくべき.というのが,同書の提言でもあったのだった.

空港で入国審査が終り,手荷物を受け取り税関を抜けると両替の為の銀行が2つある.トーマスクックとstate bank of india,トーマスクックにしか人が並ばないのは「歩き方」の情報を皆が得てるからだろうか.
さて,ここを出ればいよいよ外である.多くのインド人達がこちらを見て「客」を待っている.同じ心境の日本人単独旅行者3人がここでタクシーに相乗りし,安宿街で知られるニューデリーのメインバザールに向かおうと考えるのに時間がかからなかった.こうして,トクナガ,カマタの両君と私は「歩き方」では善作とされているプリペイドタクシーを選択する.

プリペイドタクシーはその名の通り先に料金を払い,バウチャーを運転手に渡す.チップや追加料金は無い.というのが原則である.プリペイドタクシーのブース(店舗)の写真を念のため撮るトクナガ君は非常にトラブルに対して慎重であった.タクシーが配車されるやいなやナンバープレートをデジカメで撮影するといった徹底ぶり,すぐにドライバーはじめ周りのインド人に取り囲まれて「それはダメだ」と言われ(トラブルを恐れ)しかたなくデータを消すといった悶着があった.

<タクシーの中へ>
のっけから警戒態勢の日本人3人を乗せたタクシーは空港を後にした.ドライバーの名は「リル」と言うらしい.仲間内ではそう呼ばれているようだ.このリル,動き出して数分もしないうちに”基本情報”の収集をはじめた.

”基本情報”とは何か.簡単である,インドに来たのはfirst timeか!?ということ.

こういう場合,「いやいや,2回目だ」とかなんとかいって慣れた素振りをしてしまえば良いのだろうが,こういう緊張状態でサラリとは出ないものだ.大体,日本のタクシーに同じ状況で乗った場合,初めてここへ来たということで会話が弾んだりすることを考えるとあまりに警戒するのもおかしな話である.リルは楽しそうにしているのだ.

「yes」.助手席のトクナガ君が低い声で答えた.するとリルは嬉しそうにペラペラとなまりのある英語で喋り始めた.チップをくれ,ショップはどうだ?などなど,良くあるパターンだ.こちらとしても,きたかという感じである.「We alrady paid」などとかわすが,時にはチップをくれないと目的地に行かないぞ!などと言ってくる.あまりにリルが喋るのでトクナガ君が「シャラップ!」と見えないナイフを構える.犯人を連行するかのような雰囲気が流れた.しかし,悪徳旅行代理店など違う場所に連れて行かれたり,下ろされて(ドライバーの)仲間に囲まれて身包み剥がされるなど,あくまで気は許せないという背景は3人とも認識していた.夜のインド,どこに向かっているか,知っているのはリルだけなのである.

インドの夜は暗い.とにかく,暗い.街灯は日本のトンネルでよく目にするオレンジの光である.タクシーは暗い夜道を勢い良く飛ばす.タクシーから見えるのは・・・なんと沿道の人・人・人!ものすごい数である.辺りの様子からして郊外の幹線道路を走っているはずなのに,道路沿いに人が列をなして歩いている!皆,歩いている.これが日本で花火が終った後の駅に向かう行列というのならありえるのだが,闇とオレンジの光,その下でどこまでも列をなして歩く人々・・・.率直に,不気味である.もちろん,これは慣れていないからはあるが.

安宿街のあるニューデリーのメインバザールに行ってくれと言うのに,リルは「オーケー! オールドデリー!」などという調子.不安なタクシーは街中を走り,やがて大きな交差点の手前で道路脇に停車した.

タクシーに乗る時,荷物をトランクに入れようとしたリルを遮って皆車内にリュックを持ち込んでいた.降り際に追加料金を請求された時,トランクに荷物があると面倒と私が2人に提案していたのである.案の定,リルは追加料金(チップと言っていたが)を要求してきた.いくらかは言わなかったが,ここがメインバザールの近くであることは分かったのでトクナガ君が(無事に着いたお礼に)3ルピー手渡すと,私達はそれぞれがドアを開けて外に出た.当然3ルピーでリルが満足するはずが無いと思ったからである.リルは大声で何やら叫んでいたが私達はタクシーを後にして小走りでメインバザールの入口へ向かった.


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