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これがインドカレー!?定食ターリーに舌鼓(インド旅⑤)

インド一人旅二日目.昼の活気で騒がしいここメインバザールの人ごみの中に,少し疑心暗鬼な日本人がいた.あの旅行代理店での一件は私には少々堪えていた.始めにあのようなことがあるとこの先の旅が思いやられるというものだ.

さらに,宿に戻る途中には財布をすられそうになった.メインバザールの人ごみはしばしば牛がのらりくらりと歩くので”牛渋滞”が起こり,時として押し合うことになる.そのドサクサに紛れて私のズボンのポケットから財布を抜いた者がいた.私はすぐにその手をつかんで握力で握り締めたが,なんと中学生くらいの少年であった.財布が地面に落ち,「なんだよ」と言った風に少年は走り去っていったのだった.

これでますます私はインドを渡り歩く余裕をなくしてしまった.これではまるでカモではないか・・・.

やっとのことで部屋に戻り,『歩き方』を見て計画を練っていると,掃除に来たというインド人(20歳くらい)を部屋に入れることになった.15分ほど,彼は掃除をしているのだが,その手さばきは非常に悪く,同じ箇所を何度も拭いてはこちらをチラチラ見ているのだ.チップかなと思い1ルピー渡した.部屋から出て行くように彼を促し,私は戸を締めようとしたが,私から視線をそらさない彼に一瞬引く手を止めると,彼は申し訳なさそうな顔で「バクシーシ」と小さく言うではないか.

バクシーシ・・・.インドを旅してこの言葉を耳にしない日はない.バクシーシ(喜捨)は物乞いへの「お恵み」からチップまで比較的広い意味で使われると聞いていたが,チップをもらってなおバクシーシという彼の表情からは,ほんの少しでいいから恵んでもらえないかというすがるような気持さえ感じた.自分とさほど歳の変わらない彼の発言に私は驚いたが,その気持に応えることはできず,その考え方(文化なのか)の違いに呆然とするしかなかった.



沈んだ気分を晴らすには食事をして腹を満たすことである.宿を出て,昨夜,出前をしてもらった向かいの食堂の陳列棚には揚げたてのサモサやプーリーが大量に盛られており,見るからに美味しそうであった.早速店にはいると,私はインドの定食といわれる「ターリー」とバナナラッシー(バナナヨーグルト飲料)をオーダーした.ターリーは”大皿”という意味らしく,金属のトレイにご飯,チャパティー,カレー,ダール(ヨーグルト)が盛られて25ルピー(約63円)であり,お替りは基本的に自由である.味はまろやかで美味しく,空腹の私はあっという間に食べてしまった.

ターリーはインドの定食だ

インドに来ると旅人はすぐに腹をこわすという.激辛インドカレーなど香辛料の効いた料理が原因だと想像してはいたが,このターリーは拍子抜けするほど違和感がなく,美味しい料理だった.
陳列棚の揚げたてサモサを食後に追加注文すると,小さな皿に2つ盛られてきた.ジャガイモを小麦粉の皮で三角形に包んで揚げたサモサにケチャップをつけて食べるとインドのお家芸的スパイス”マサラ”の辛さとジャガイモの甘さのハーモニーが口一杯に広がる.なんと美味しいのだ.値段は10ルピーと安く,この先の旅で出会うだろうインド料理が実に楽しみになってきた.

メインバザールの本通には料理店が少ないためか,または安宿が集中しているからなのか,一度に15名程度しか入らないこの店の半数は日本人や欧米人の旅行客である.ウエイターの少年はおそらくこの店の子供なのだろう.メインバザールにいたわずかの間,私は何度もこの店にお世話になったが,アットホームなこの店は時間の流れが遅く,店の前の通りに大きな牛が通るのを眺めたり,少年や店長と話したりといつの間にか楽しい場所となっていたのである.

さて,この先はどこへ向かうか.一ヶ月でのインド一周には鉄道の予約がネック・・・.旅行代理店でのおじさんの言葉は現実的な問題であった.とにかく,ニューデリーの駅に行ってみないことには何も分からない.『歩き方』を食堂で確認後,私は人ごみの中を駅に向かって歩いた.駅は昨夜クシーを降りた場所から容易に確認できるほどの距離にあった.

駅構内はメインバザールにもまして人ばかりであった.駅を出発する電車の時刻などを記した大きなボードが掲げられ,20はある窓口にはインド人達の人だかりが出来ており,ヒンディー語の放送が鳴り響く.標識には英語が併記されているので意味は分かるが,システムをまるで知らない私にとっての列車予約の困難さは容易に想像できるほどであった.

しかし,『歩き方』をよく読めば外国人ツーリスト専用の列車予約窓口が用意されている.私は駅員の案内に従い駅2階のForeign Tourist Reservationと表示のある部屋へ入った. 列車の予約はまるで簡単であった.しかも,旅行者の便宜を図るため列車の予約枠には始めから外国人ツーリスト専用枠があったのだ.アーグラー行き・・・と言いたかったが,早めに距離を稼ぐ意味もあり,私はインドの聖地バラナシへの夜行を予約した.予約の際には車両階級だけでなく2等寝台の場合など,下・中・上のベッドの指定まで可能であった.

バラナシまでの夜行は毎日あったが,ガンジス河の眺めを想像するとすぐにでも行きたくなるのだった.私は明日,早くもデリーを発つことに決めた.


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