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コケモモジャム

 深緑色の硬いふたを開くと、ほのかな紅を宿した闇が詰まっていました。少しひるんでしまい、気持ちを落ち着けてから、改めてビンをのぞきます。
 目を凝らすと、暗がりにはおもちゃのビーズに似た薔薇色のコケモモが、いくつも輝いていました。
 甘味の少ない酸っぱいジャムで、本場フィンランドではミートボールに添えるソースに使われるそうです。日本では「リンゴンベリー」と呼び、輸入食品店で手軽に買えます。
 コケモモジャムが食べたくなったのは、映画館通りで映画「TOVEトーベ」のポスターに出合い、久しぶりに「ムーミン」を読んだからでした。
 「ムーミン」はフィンランドの女流作家であるトーベ・ヤンソンのファンタジー小説。9作品が刊行されていて、ジャムは6作目の「ムーミン谷の冬」に登場します。国際アンデルセン賞作家賞授賞につながった作品です。
 先祖からの慣わしで11月から4月まで冬眠をするムーミン一家ですが、ある年、主人公のムーミントロールだけが目覚めます。
 初めて経験する冬を、気ままな仲間たちに翻弄されて、孤独を抱えつつも乗り越える冒険譚です。
 厳しい寒さを逃れ、屋敷に集まる人たちはママお手製のジャムが目当て。コケモモジャムが振る舞われます。
 けれどこのジャムは、春になって一家が目覚めたときのために備蓄されたもの。どんどん減っていくジャムに気が気ではありません。
 その他にも気がかりは山ほどあります。知らない人がたくさんいる屋敷。床も汚れています。冬眠中に家を温めるため蓄えた泥炭は盗まれてしまうし、一人の迷惑な訪問者を追い出せと周りに責められます。
 それらの危機を乗り越えた春。
 屋敷を去る人たちの手には小さなジャムのビンが握られています。それはムーミントロールの成長の証しでもありました。
 「ムーミン」の魅力は闇や孤独を大切なものとする物語。闇を克服するのではなく、闇に親しみ、共存することが、心を豊かにするのだと教えてくれるところです。

2021年11月14日提出

テーマは「映画」でした。
とはいっても、映画の感想文を書く度胸がなく、ちょっと逃げ腰です。
ムーミンは大好きな作品なので800字なりに紹介文を書けて、教室で数名から「読んでみたい」と感想をいただけたのが、すごくうれしかったです。

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