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千文小説 その901:相方

 こんにちは、上村元です。よろしくお願いします。

 配信ライブの件だけど。

 iPhoneで、視聴するなら、チケット、買ってもいいよ。

 どうする?

 …はい?

 いよいよ、明日に迫っても、まだ、迷っている。

 いったんは、買わない、と決めたものの。

 もったいないよ…。

 観たいよ…。

 でも、でも、でも。

 応援しているバンドの、一世一代の晴れ舞台に、部屋にいながらにして、参加できるというのに。

 どうしても、購入に踏み切れず、苦悩する耳元に。

 いきなり、のんきな声が、そこかい、という角度から、打開策を提示してきました。

 ぴーぷす、ぴーぷす。

 ぽわ。ぽわ。

 …そこかい。

 よりによって、最も小型のデバイスに、三時間ものインターネット接続を。

 なんで?

 iPadやMacBookじゃ、駄目なの?

 駄目なの。

 iPhoneでなければ、観てはいけない。

 …そこまで?

 そうだよ。

 これまで、気づいていなかったかもしれないけど。

 君は、何より、iPhoneが、好きなんだ。

 iPhoneの方も、まんざらではない。

 つまり、向いている。

 今後、開拓すべき方向は、いかにして、iPhoneと付き合うか。

 中毒を避け、酷使も控え、それでも、いつでも、ともにある。

 試練の端緒が、今回の、配信ライブなんだ。

 ぴーぷす、ぴーぷす。

 ぽわ。ぽわ。

 引きこもりの君が、自ら、実会場に出向く、と決意することは、まず、ないだろう。

 推しのバンドのメンバーは、いつだって、機器の中の影。

 物語の登場人物と同様、架空の存在に等しい。

 だが。

 物書きとして、架空の存在を、なめてはいけない。

 ある意味で、彼らは、現実の存在より、はるかに強い影響を、君に及ぼす。

 どのデバイスで、彼らと接するか。

 なんでもいいや、というわけにはいかない。

 選んで、決める。

 どれにするの?

 …愚問だね。

 この流れで、iPhone、と答えなかったら、阿呆でしょう。

 阿呆なのは、認めるが、阿呆に殉じた『人間失格』の主人公に倣おうなんて、恐れ多いにも、ほどがある。

 潔く、中途半端な阿呆を目指すことにして、さて。

 どうなの?

 iPhoneで、観たい?

 …確かに。

 その方が、楽です。

 なぜか、大画面になるほど落ち着かない、という性癖で、スクリーンは、スマホサイズが、限度。

 加えて、大音声も苦手で、スピーカーの精度が上がるほど、居ても立っても居られなくなる。

 ここは、三時間、iPhoneを、ネットに、繫ぎっぱなしにする。

 音量も、照度も、できるだけ下げて。

 背面リングをスタンドにして、炬燵の上に、置いておいて。

 充電が危なくなったら、いつでも、補充できるようにして。

 なんとなく、風景として、そこにあるだけ、という形でなら、長時間のライブ配信にも、耐えられる気がする。

 ぴーぷす、ぴーぷす。

 ぽわ。ぽわ。

 床の上、古びた洗面器に詰まって爆睡の愛猫の、はだけた毛布を、掛け直して差し上げつつ。

 天井を仰いで、ため息をつきます。

 まさかな…。

 こんな形で、長わずらいした電子機器問題に、決着がつくとは。

 iPhoneではやりたくないな、と思ってしまう作業は、極力、控えるべし。

 iPhoneでできないことはするな、という意味ではない。

 例えば、noteの原稿を、できるなら、iPhoneで、最初から最後まで、仕上げたい。

 実際、一年ほど、そうしていた。

 できなくはない。

 しかし、やはり、できない。

 身体にも、負荷がかかるし、iPhoneも、くたびれてくる。

 仕方ないので、投稿と、枠組みは、iPhoneで固めて、キーボード付きのiPadを、補助的に、使わせていただく。

 これは、決して、いいとこどり、ではない。

 むしろ、いやまして、iPhoneの重要性が高まったと言える。

 iPadはもちろん、MacBookも。

 iPhoneの補佐以上には、今後も、なり得ないことが、はっきりしたのだから。

 ぴーぷす、ぴーぷす。

 ぽわ。ぽわ。

 同時に、ファンであるところのバンドへの思い入れの度合いも、明確になった。

 ぜひともiPhoneで、と望むのは、相当、愛が深い証。

 おそらく、生涯、僕は、彼らのファンであり続ける。

 どのような形で?

 iPhoneを通して。

 Blu-rayだけは、iPhoneでは、再生できないので、MacBookに、肩代わりしていただくとして。

 それ以外の、彼らとの接点は、iPhoneに、特化する。

 つまり、生身の彼らとの接触はもちろん、リアルライブや、フェス等は、基本的に、スルー。

 グッズを集めまくったりも、NG。

 音楽を聴き、配信を楽しみ、SNSをのぞく。

 それが、僕と彼らの、適正距離。

 ぴーぷす、ぴーぷす。

 ぽわ。ぽわ。

 よろしくね、iPhone。

 誰がどう言おうと、君が、僕のバディーです。それでは、また。

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