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千文小説 その936:錬磨

 こんにちは、上村元です。よろしくお願いします。

 無印の第九世代から、第五世代に引き継ぐ。

 最終的に、iPadに下した結論は、それでした。

 ぴーぷす、ぴーぷす。

 ぽわ。ぽわ。

 逆でしょ?

 第五世代から第九世代、なのでは?

 その通り。

 いったんは、確かに、そのようにしたのです。

 つまり、元々の第五世代は、第九世代に譲って、リセットされた。

 初代から、二代目へ、穏当な流れ。

 しかし、二代目と僕の相性が、よろしくなかった。

 シルバーの256GB、スペースグレイの64GB。

 購入店舗すら変えて、二台、試しましたが。

 いずれも、保たなかった。

 もちろん、シルバーの64GB、スペースグレイの256GB、さらなる実験の余地は、残されている。

 …いや、もはや、無理でしょう。

 お金も無駄だし、機体にも悪い。

 無印の第九世代は、潔く、あきらめることに。

 ぴーぷす、ぴーぷす。

 ぽわ。ぽわ。

 しかし、ここで、iPadというデバイス自体を、あきらめるかと問われたら。

 それは、できない。

 僕には、iPadが必要だ。

 ぜひとも、三代目を、お迎えしたい。

 しかし、第九世代を二台も買った後で、さらに新台導入では、懐に厳しい。

 というか、買えない。

 なぜなら、第五世代が、きちんと設定されたうえ、炬燵に乗っているから。

 …そうなのです。

 既に、三代目は、いたのです。

 気づかなかったのは、僕だけ。

 初代の亡霊が、いつまでも、つきまとっているものとばかり思っていて。

 諸々、不明を恥じて、改めて、三代目の誕生式を、挙行することに。

 ぴーぷす、ぴーぷす。

 ぽわ。ぽわ。

 初代と三代目は、全く同一の機体。

 では、何が、違うのか?

 二台の二代目を挟んだ意味は、どこにある?

 それには、外見に関するものと、使い方に関するもの、二点が挙げられる。

 まずは、外見。

 初代は、もっぱら、縦向きで、使用していた。

 しかし、二代目で、横向きに変えた。

 その方が、持ちやすく、何より、MacBookとの親和性が高い。

 iPadは、やはり、パソコン。

 iPhoneと同じOSを、MacBookの代わりに使用できるというのが、メインの存在意義。

 なので、縦設定になっていた、第五世代のホーム画面を、第九世代に合わせて、横設定に変えました。

 残念ながら、Apple純正のカバーは、もう、手に入らない。

 ここは、むき出しを貫くことで、初代を踏襲することに。

 ぴーぷす、ぴーぷす。

 ぽわ。ぽわ。

 さて、ここからが、難関。

 初代の用途は、YouTubeの視聴。

 それも、特定のアーティストに対象をしぼった、いわゆる、追っかけの、デジタルバージョン。

 初代を思い出すと、自動的に、その人が浮かんでくるほどの、重度の入れ込みぶりだった。

 が、今や、僕は、押しも押されもせぬ、King Gnuファン。

 公式ファンクラブに入会して、規定の料金を払い、相応のサービスを受ける。

 正当な金銭取引に基づいた、まっとうな契約者。

 もちろん、彼らを、心から、愛しています。

 しかし、それとこれとは、別。

 生涯にわたって、ファン契約を結び続ける覚悟で、自分の生活を守りつつ、最大限の支援をしている関係。

 三代目では、その辺り、きれいにしておかなければならない。

 具体的には、元々ファンであったアーティストと、きっちり、別れ切ること。

 何が、僕をして、ファンとしての態度に、180度の大転換を引き起こした?

 ぴーぷす、ぴーぷす。

 ぽわ。ぽわ。

 床の上、古びた洗面器に詰まって爆睡の愛猫に、時折、西武ライオンズのバスタオルを、掛け直して差し上げつつ。

 新生iPadで、件のアーティストの、公式YouTubeチャンネルを、熟読します。

 …多分、その人の、見た目が、好きだったんだな。

 年齢も近かったので、自分もこうなりたいという、ロールモデルとして、憧れていた。

 特別に気に入っていたミュージック・ビデオも、サムネイルながら、久々に、お目にかかり。

 懐かしいな…。

 この頃が、入れ込みの、ピークだったよな。

 しみじみと、振り返りつつ、二作だけ、視聴することにして。

 イヤホンを繫いで、そして、…ここだ。

 生と死の分岐点、これ以上は憧れきれない部分を、ようやく、把握して。

 さっぱりと、さよならを告げ、同時に、第九世代もリセットしました。

 ぴーぷす、ぴーぷす。

 ぽわ。ぽわ。

 無印の第五世代、ゴールド、32GB。

 三代目iPadが、無事に、カメラレオンの仲間入り。

 King Gnuのアルバムツアー完走の直後に、愛機の全貌が確定したことに、ささやかながら、運命を感じざるを得ない。

 メンバーの皆様、関係者の方々、五大ドームとアジア公演、無事の終了、おめでとうございます。

 生ある限り、百戦錬磨の表現者を目指して、ともに浮世を戦って参りましょう。それでは、また。

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