小説:藤風高校オカルト研究部

本編

松田は悩んでいた。
高校の生徒会誌『藤風』に載せる記事について。

生徒会活動、委員会活動、学校行事については代表者にインタビューするとして、部活動は本当にこれでいいのか。それが問題だ。

毎年、最も輝かしい形跡を残した部活は、紙面見開き2ページに渡るインタビュー記事として掲載される。藤風の伝統だ。だいたい吹奏楽部や野球、陸上部(個人)が多い。

今年、その最も活躍した部活として推薦されたのが「オカルト研究部(通称オカ研)」だった。

数分後、松田は噂通りごちゃごちゃしたオカルト研究部の部室に案内されていた。棚の中には本や雑誌、DVDがぎちぎちに詰まっており、床上にはいくつか段ボールが置いてある。申し訳程度に片付けられたテーブルの上にあるのはお菓子とオカルト雑誌。窓から光が入って明るいことが、唯一のイメージ違いだった。

3人が椅子に座り、松田がボイスレコーダーの録音ボタンを押した。

「生徒会誌『藤風』編集長の松田です。藤風高校オカルト研究部のみなさん、今日はよろしくお願いします」

「ようこそ我がオカルト研究部へ。部長の館と申します」
「いや勝手に入部さすな。副部長代理の塚谷ですー」

館は浅く礼をしてからちらちらとカンペを見ている。塚谷はにこやかに松田のほうを向きながらも一切目を合わせない。松田はそれについてあまり気にとめず、部活の概要から質問していった。

 藤風高校オカルト研究部は、6人の部員で毎週木曜日16:30から18:00まで活動している。主な活動内容はホラー映画鑑賞、ホラーゲームRTA、巡礼の旅、怪談会、そして年に1度実施される全国大会への論文作成。最近は文化祭のお化け屋敷も担当している。松田には本当か嘘かわからないが、SF小説家や心霊研究家になったOBがたまに遊びに来るらしい。

「あー巡礼の旅ってのは、近場でホラーっぽい場所を見に行くんだよね。廃墟とか怖い展示とかお化け屋敷とかさ」

 塚谷の補足を皮切りに、「先月は怪談の講座を見に行った」とか「ゲーム制作者のOBからホラーゲームをテストプレイさせてもらった」とオカ研2人で盛り上がり始めた。たまに友人とゲームをする松田としては気になる内容だが、インタビューを先に進めなければならない。

「えー、そっちも聞きたいんすけど。活動内容にもあったように、オカ研のみなさんは今年度全国大会で優勝されました。どんな研究をされてたんですか」

 館が引き出しから紙束を取り出した。松田がそれをぺらぺらめくると、びっしりと研究報告が綴られていた。

「要約すると、『取り憑いてる幽霊と取り憑かれている人間の関連性』です。そうだな、松田編集長の肩に女の人の霊が取り憑いているとしましょう。その人間は松田編集長とどのような関係にあるのか。恋人か、親戚か、はたまた見ず知らずの人間か調査するといったところでしょうか」

 このうさんくさい調査は「(オカ研内の)そういうものが見える人」が学校関係者の中で「憑かれている人」をリストアップする。あとは会話の中でさりげなく家族関係を尋ねるか、調査ということを話して協力してもらうという方法で実施されたらしい。この学校は生徒だけで1000人以上いるはずなのだが、標本になってくれた生徒はたった20人という。いや、20人もというべきか。

「この調査をするうえで大変だったことはありますか」
 
「オカ研の調査とか怪しいからよく断られるってのが大変よほんと。部活で全員招集されるときって、だいたい論文内容の会議か・・・・・・誰か交番に通報されたときだからね。ははは」
「とはいえ、この研究は究明しがいのあるものだと思っています。ぜひ来年も引き継いでいただきたいですね」

 その後もインタビューは続いた。だが松田は、自分の言葉ひとつひとつに違和感を覚えながら質問して相づちをうっていた。とはいえなんとか終わりの流れになってきた。
「最後に、『藤風』を見ているみなさんに一言どうぞ」

「本日は貴重なお時間を割いていただきありがとうございました。オカルト研究部員ともども来年度も精進しますので、成長を見守っていただけたら幸いです」
「入部希望者募集中! 青鬼とかぴえんの最速クリアタイム勝負しようや」
「ありがとうございましたー」

 松田はボイスレコーダーを止めた。初対面ではやばそうな組織だったが、意外に話せるし、いろいろ新鮮でおもしろかった。編集長としても、オリジナリティある記事がかけるのではないか。松田は残っていた水を一気に飲み干した。





オフレコ
「あの、これオフレコなんですけど、部費って何に使ってるんですか」

「お化け屋敷は学校から費用出るし、全国大会は会場から出してくれるから、一番使われてるのは・・・・・・」

「お祓いですね」

「え」

「いやぁ、UFO呼んだり廃墟ツアーとかこっくりさんの後に行くんだよね。お祓い。じゃないと体調崩しちゃう人とか普通に出るからさ」

「授業を1回休むと、学習がかなり遅れてしまいますので」

「へえー、今日はありがとうございました」


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