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“マッスルクロック”=筋肉に発現する時計遺伝子とは?〈3〉

ッスルクロックは継続的でリズミカルな動きに最もよく反応する傾向があるため、レジスタンストレーニングのプログラムを組み立てる際には、マッスルクロックを反応させるためのきっかけを与えるように慎重に行う必要があります。

 

■プログラムを作成する際に考慮すべきこと

 

筋肉と体のシステムの同期は、巧みに計画された運動をプログラミングすることにより可能となります。マッスルクロックを正しく機能させるには、運動を含む毎日の日課のタイミングや環境がきっかけとなります。運動のプログラムが自然な体の周期にうまく同調しているほど、それはより効果的になります。

 

マッスルクロックが反応するきっかけは、エクササイズの時間帯、エクササイズのタイプ、および活動時間と休息時間の長さです。これらの3つの主要な要素を巧みに計画し取り入れることが、現在までに分かってきたマッスルクロックに関する知識に基づいた効果を最大化するための鍵となります。

 

■心血管トレーニングの最適な時間帯とは?

 

運動を行う時間帯が、その運動の効果を得るために非常に重要であることは先述しました。Tanakaらの研究では、有酸素運動は行う時間帯によって、それぞれ異なった影響をマッスルクロックに与えます。1種類の時計タンパク質(BMAL1)の活性は、朝に行う運動、午後に行う運動、どちらも高めることが示されていますが、2種類の主要タンパク質(BMAL1とCRY1)の両方の活性を促進させるには、朝の運動の方が好ましいと結論付けられています。

 

このことは、朝の時間帯の方が、運動によって活動した筋肉が他の体のシステムとより効果的に同期することを示しています。研究から得られたデータは、健康や一般的なフィットネスやスポーツの目標については、少なくとも有酸素運動、より具体的にはサイクリングでは、朝に行う方がより良い選択であることを示しています。

 

しかしながら、運動するのに「最適な」時間とはそれほど単純なものではありません。酸素や運動のパフォーマンスに関連する他の代謝物など、24時間周期で変動する基質を考慮すると、運動する時間帯と運動の効果の関係はより複雑になります。たとえば、1日を通して体がどのように酸素を消費するか、また今日と明日ではどう変わるか、などです。

 

酸素摂取量を考慮する場合は、1日の遅い時間帯に運動を行った方が良いパフォーマンス結果が得られるでしょう。ある研究によると、12人の被験者が1日のさまざまな時間帯で、低〜中程度の強度でジョギングをした時、夕方に行った人の方が酸素の摂取はより効率的でした。

 

また別の研究では、午前の遅い時間帯に脂肪燃焼を含む代謝活動が活性する可能性があることを示しました。これは、減量が目的である場合、午前中に行う方がより効果的である可能性があることを示しています。ただし、この研究はマウスで行ったため、より正確な結果を得るためにはヒトによる研究が求められます。

 

運動に最適な時間帯についてはまだまだ分かっていないことがたくさんあります。しかし、現時点までにわかっていること、そして概日リズムに関する研究の方向を考えると、朝の時間帯の心血管トレーニングは、代謝および他の体のシステムと同期する観点で捉えると適しているといえるかもしれません。ただし、これは他の時間帯の運動の価値を損なうものではなく、また目標を達成するための効果的な方法として、レジスタンストレーニングなどの追加の運動を軽視するというわけではないことに注意してください。

 

■レジスタンストレーニングはいつ行うのがよいか?

 

前述のように、マッスルクロックは、ジョギング、トレーニング、サイクリングなどの有酸素運動に関連するリズミカルな動きによく反応するようです。しかし、レジスタンストレーニングでも、タイミングに関するきっかけをマッスルクロックに与えることができます。

 

レジスタンストレーニング中も、心血管運動中と同じようにミオカインが放出され、運動が行われていることを体の他の部分に知らせます。テストステロン、ヒト成長ホルモン、コルチゾール、ラクテートなどの主要なホルモンも、このタイプのトレーニング中に放出されます。これらのホルモンはすべて、局所的に筋肉周囲に影響を与え、行っている運動の情報をマッスルクロックや他の体のシステムに知らせます。

 

マッスルクロックは継続的なリズミカルな動きに最も反応する傾向があるため、レジスタンストレーニングをプログラムする際は、マッスルクロックが反応するためのきっかけづくりを慎重に行う必要があります。推奨される方法は、生体力学的な類似性に基づいた2つの似たエクササイズを行うことです。トレーニングで動かす主要な関節と筋肉で同じエクササイズを行うことによって、その運動に固有のきっかけがマッスルクロックに提供されます。

 

たとえば、仰向けでのグルートブリッジとデッドリフトはどちらも股関節の伸展を伴い、同じ筋肉と関節の動きになります。もう1つの例は、レッグプレスとバックスクワットです。どちらも大腿四頭筋、ハムストリングス、大殿筋が主動筋として使われます。この2つの例では同じ関節と筋肉を使用し、生体力学的に類似しているといえるのです。

 

おすすめのプラクティスは、レジスタンストレーニングセッション内で生体力学的に類似したエクササイズを実行することです。同じ筋肉グループ(たとえば、股関節外転筋や内転筋など)を使用するトレーニング、またはペアとなる関節(肩関節と肩帯の関節など)の周辺のトレーニングをプログラミングするとよいでしょう。

 

レジスタンストレーニングを行う推奨時刻は、特にトレーニングの目的が筋力とパワーを発達させることである場合、有酸素運動の場合とは異なることにも注意してください。体温のピーク、そして筋肉の柔軟性が高まるのは午後4時頃です。この時刻はまた、1日のテストステロンのピークの終わりを示します。レジスタンストレーニングはこの時間帯に実行するとよいでしょう。

 

■休息と回復のための時間

 

すべての体のシステムと同様に、マッスルクロックも一貫した24時間周期のオン・オフスケジュールに依存しています。脳の中枢時計は主に昼夜の光の刺激、目覚めと睡眠のサイクルに反応しますが、マッスルクロックは24時間周期で活動―休息のサイクルを監視します。このため、運動と休息のスケジュールは24時間周期に合わせる必要があります。

 

1週間サイクルでの休息のタイミングを指すインターミッテント・レスト=断続的休息は、休息や回復の時間を24時間周期のマッスルクロックに合わせて行います。インターミッテント・レストの概念は、食事をしてよい時間枠と食事をしない時間枠(断食)を設定するインターミッテント・ファスティング=断続的断食の概念からきています。たとえば、24時間を10時間の食事をしてよい時間と断食する14時間という2つの時間枠に分けます。 (ここでは時間枠の長さは重要ではありません。概念自体を説明することを目的としています。)

 

インターミッテント・レストでは、運動と非運動(休息)を交互に設定することを前提とします。インターミッテント・ファスティングは通常時間で表しますが、インターミッテント・レスト・トレーニングは1週間周期に基づき、週に5日間のトレーニングの間に2日間の休息日を設定することを提案しています。

 

このスケジュールは、平日トレーニングを行い、週末を休むという一般的なアプローチとは違うことに注意しましょう。断続的に休息日を設定する理論的根拠は、脳内の中枢時計がすべての末梢時計を24時間周期に同期し、これが24時間ごとにリセットされるからです。

 

週末に休みとして設定すると、金曜日の夜のトレーニング後から月曜日の夜まで長期間トレーニングを行わないことになり、体の24時間周期が乱れやすくなります。実際に、長期的な休暇によって同期する機能が低下する可能性があります。

 

■時間が重要である理由

 

マッスルクロックの発見以来、綿密にタイミングを合わせたプログラミングによる、筋肉と他の生物学的システムに同期させる機能が、フィットネスの専門家やアスリートにとって強力なツールとなりました。これは比較的新しい研究分野ですが、クライアントを成功へと導くためにも、ここで説明した研究結果をぜひ取り入れてみてはいかがでしょうか。

 

時間に基づいたトレーニングに関する既存の知識を活用することで運動に最適な時間を特定し、生体力学的類似性やインターミッテント・レストなどの概念を活用し、筋肉の働きを自然に発生する毎日のサイクルに同期させることによって、クライアントがそれぞれのフィットネスとウェルネスの目標の達成に一歩近づくのを助けることができるのです。

 

NASMブログより

https://blog.nasm.org/muscle-clocks-and-the-value-of-synchronized-training

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