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“マッスルクロック”=筋肉に発現する時計遺伝子とは?〈2〉

■トレーニングの時間帯によってマッスルクロックは変化するのか?

 

2020年に発表されたTanakaらによる小規模の研究では、運動が時計遺伝子の発現に与える影響を調べるため、筋肉の代謝を調節する重要なタンパク質を発現させる血球の一つ、白血球に注目しました。

 

この研究では、20〜30歳の若い男性11人を、①朝に運動するグループ、②午後に運動するグループ、③運動をしないグループの3つに分け、運動するグループはそれぞれ、午前7時または午後4時に、自転車エルゴメーターを使用してVO2maxの60%で1時間の運動を行いました。被験者は皆健康的な若者ですが、習慣的な運動をするアスリートではありません。

 

すべてのグループにおいて、運動の当日の午前6時、午前9時、正午、午後3時、午後6時、午後9時、午後11時と7回の採血を行いました。最後の8回目の採血はマッスルクロックの遺伝子発現の24時間の変化を調べるため、翌日の午前6時に行いました。具体的には、研究者は、BMAL1とCRY1という体内時計と概日リズム(体内時計=約24時間周期で変動する生理現象)に関連する2つのタンパク質のレベルを調べました。

 

運動をしないグループの被験者は、タンパク質のパターンに変化を示しませんでした。しかし、運動をするグループは、運動中の行動を変化させるタンパク質の一般的な傾向を示し、運動がマッスルクロックの機能に影響を与えることを示唆しています。これは、げっ歯類においての予定された運動に対するマッスルクロックの反応に関する以前の研究と一致しています。

 

また、運動をする朝のグループと午後のグループの両方で、運動後にBMAL1が増加することが分かりました。 BMAL1はマッスルクロックを調節し、 BMAL1が無効になると、マッスルクロックの自然なリズムもノックアウトされます。このデータが示しているのは、タンパク質が運動を認識して反応するということです。運動中にBMAL1が活性化されるという発見は、マッスルクロックが毎日、運動がいつ起こるかを学習していることを示しています。

 

もう1つのタンパク質CRY1については、朝の運動で増加したが、午後の運動では増加しなかったことが分かりました。この発見は、筋肉は午後よりも朝に行う運動の方が影響を受けやすいということを示しています。午前7時の運動後では、BMAL1とCRY1の両方が高くなったため、マッスルクロックが定期的にスケジュールされた朝の運動ルーティンに反応して適応する可能性が高いことが分かりました。

 

さらに、トレーニングをする時間がBMAL1のサイクルのピークにどのように影響するかについては、当然のことながら、BMAL1レベルは、午前7時の運動グループでは早朝にピークに達し、午後4時の運動グループでは午後遅くにピークに達しました。これは、運動する時間に合わせてタンパク質の放出のタイミングをシフトさせたことを示しています。マッスルクロックやその他の体内時計は常にコミュニケーションをとっているため、これは運動する時間が概日時計、そして体全体に影響を与えることを意味します。

 

■一定のスケジュールでトレーニングを繰り返すことで、どのような変化が起こるか?

 

Tanakaらの研究では議論されていませんが、Chaix and Pandaは、毎日同じ時間に運動を繰り返し行うことは、マッスルクロックに強い影響を与え、そして全身システムの同期により良い効果があると理論付けました。

 

つまり、定期的にスケジュールされた運動プログラムをこなすことは、フィットネスやスポーツの結果のさらなる改善、ならびに全身の健康と病気の予防効果につながる可能性があります。

 

運動を繰り返すことに対しての特定の効果を説明するために、マーフィーらは、一定のスケジュールでトレーニングされた競走馬の筋肉が、今後のトレーニングを予測する能力を調べました。これは、ATPのエネルギーへの合成に重要な因子である脱共役タンパク質3(UCP3)を測定することによって行われました。このタンパク質は、マッスルクロックと筋肉機能の間のギャップを埋める概日リズムを持っていることも知られています。

 

マーフィーらは、馬が定期的なスケジュールでトレーニングを行う前に、UCP3を繰り返し測定しました。その結果、UCP3の発現のピークはトレーニングに先行していることが分かりました。このことは、馬の筋肉が一定のスケジュールでトレーニングを繰り返したことで、トレーニングを予測することを学び、結果として、馬は体内で素早くさらなるUCP3を生成することにより、運動への十分な準備を始めたことを示しています。

 

以上の研究は、筋肉が時間帯に基づいて運動の予測を学習することを立証しています。簡単に言えば、設定したスケジュールで運動を繰り返し行うと、筋肉はそれを予期し、その結果、予期されるトレーニングの約30分前に、体は筋肉のパフォーマンスに関連する生理学的プロセスのスイッチを「オン」にします。定期的な運動のスケジュールを遂行することによって、筋肉に大きな効果を生み出し、それが同期することで全身にも恩恵をもたらすのです。

(3 プログラムを作成する際に考慮すべきこと に続く)

 

 

NASMブログより

https://blog.nasm.org/muscle-clocks-and-the-value-of-synchronized-training

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