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eスポーツ関連企業の決算資料を見てみよう~ゲーム会社編 2019年8月版

企業の業績や将来性を知るのに最も手っ取り早いのが、売上や事業状況が記載された決算資料を確認することです。

何らかの形でeスポーツに取り組む企業において、eスポーツにどれほど投資し、eスポーツがどれくらい業績に貢献しているかを知りたければ、やはり決算資料を見るべきだと言えるでしょう。

今回は、eスポーツ業界には強い関心がありつつも「決算資料とeスポーツってどんな関係があるの?」「企業(他社)の決算なんて気にしたことがない」「財務諸表とは何ぞや」という人に向けて、今後の日本の業界動向を読み解くうえで決算資料を見るという選択肢を増やしてもらうべく、eスポーツ関連企業国内6社の決算資料を簡単に味わってみることにします。

その6社とは、自社でeスポーツタイトルを開発し運営しているカプコンミクシィセガゲームスの3社と、大会を主催したりプロチームを運営したりしているサイバーエージェント(CyberZ、Cygamesなど)GameWithカヤック(ウェルプレイド)の3社です。決算資料の細かい数字を読むのではなく、eスポーツにどれくらい言及されているかをチェックします。

この記事【ゲーム会社編】ではその名のとおり、まずカプコン、ミクシィ、セガゲームスの決算資料を取り上げます。時期的にも2020年3月期第1四半期(2019年4月~6月)の決算短信が出るので、ちょうどいいですね。ちなみに、ミクシィの決算短信は8月9日に発表予定です(発表されたので追記しました)。

さっそく見ていきたいところですが、最初に決算資料がどういうもので、それを見ると何が分かるのか、どんないいことがあるのかといった基本的なところを大雑把に説明します。専門用語を説明するとキリがないので、不明な言葉は適宜調べてください。知っている人は読み飛ばしてね。

決算資料の読み方を解説した本は、下掲のものが分かりやすくて面白いです。

決算資料で企業の業績や注力分野が分かる

決算資料が何を指すかは定義があるわけではないですが、一般には財務諸表が記載された有価証券報告書、半期報告書、四半期報告書、決算短信、それらの説明資料などを指すことが多いようです。この記事でもそれらを含めてざっくりと「企業決算に関する資料全般」のことを決算資料と呼びます。決算書や決算報告書と呼ぶこともあります。

決算資料は企業が1年間、あるいは四半期などの一定期間にどれだけの売上があったか、経費や利益はどれくらいか、投資した人にはどの程度のリターンがあるのか、といった業績や事業に関する数字・説明を記載したものです。

僕たちも企業のサイトで自由に決算資料を見られますが、すべての企業が公開しているわけではありません。原則として証券取引所に株式公開している=上場している(株式を自由に売買できるようにしている)企業が、自社のサイトで詳細な決算資料を掲載しています。これは投資してくれそうな人や投資してくれた人(投資家・株主)に対して、いただいたお金の使い道やその結果について説明する義務があるからです。

つまり、決算資料を見ればその企業にどれくらいの売上や利益があり、将来的にどれくらい成長しそうなのかを知ることができるわけです。当然ながら、投資家は明るい情報があるかどうかを投資の大きな判断材料とします。なので、企業としてもいいニュースがあれば積極的に取り上げますし、注力して成長させようとしている事業や取り組みがあれば強調します。

ということは、決算資料にeスポーツのことが記載されていればどう解釈できるでしょうか。その企業はeスポーツに注力していることをアピールし、投資家に知ってもらいたいと考えていると推察できます。数多くの記載されない事柄がある中では、たった1ページ、あるいは一言でも言及されているかどうかが重要です。

※余談ですが、企業の所有者は株主で、所有する株式の割合に応じて経営に対する決定権を持ちます(よって多数決を支配できる50%超過を持つことが重要)。社長はあくまで株主の代わりに企業を経営しているにすぎず、企業の所有者=大元の意思決定者ではありません。「会社は社員のもの」という言われ方をすることもありますが、あくまでそう考えて経営するほうが事業を成長させられるだけで法的な事実ではありません。

※上場すると何がいいのかというと、株式を発行しやすくなって融資(借金)以外の資金調達が多様化し、企業としての信頼性も増します。それはより事業にお金を投じて成長するためなので、上場は新しいスタートラインに立つことに等しいと言えます。

上場しているeスポーツ関連企業は少ない

日本ではどれくらいの数のeスポーツ関連企業が上場しているのかというと、これは本当に少ないのが実情です。特に、本格的にeスポーツ事業に取り組んでいる企業は両手で数えられるくらいだと思います。大会などへの協賛や広告の出稿をしたことのある企業を含めれば数えきれませんが、事業ではないのでそうした情報は決算資料にはほとんど記載されません(多大な影響を与えているなら別です)。

言ってしまえば、現状僕たちはeスポーツ関連企業の業績やeスポーツが売上にもたらした貢献について直接的にはほぼ知ることができません。それもあって、eスポーツ周辺の(公開されている)データはあまりにも不足しています。

とはいえ、決算資料を見られないことと業界・市場の将来性はあまり関係がないと言えます。また、世の中には決算資料以外のデータも多々存在するので、そうしたものと合わせて判断していくのが賢いやり方。だからこそ、業界に注目する際に市場規模や賞金拠出額、大会の視聴者数といったデータや第三者による調査レポートが重視されるわけです。

もちろん上場している企業もあり、先に挙げた6社はいずれもサイトで決算資料を公開していてサイトに行けばすぐに閲覧できます。下記では企業の業績を知るという本来の決算資料の読み方はせず、eスポーツだけに注目して要点をまとめていきます

【今回取り上げる企業一覧】
カプコン
ミクシィ
セガゲームス

カプコン eスポーツ事業を力強くアピール

最初に見るのはカプコンの決算資料です。8月1日に2020年3月期第1四半期連結業績(2019年4月1日~2019年6月30日)の決算短信が公開され、業績好調のためこの日は15%近く株価が上昇しました。株式を持っていれば利益に対してリターンがもらえますから、将来性への期待に対して株式の購入が進んだわけです。

カプコンのeスポーツといえば「ストリートファイター」シリーズを始めとする格闘ゲームの開発と運営です。7月にはeスポーツ事業の取り組みについて説明する「eスポーツ記者説明会」を実施するなど、昨年以上に力を入れている様子がうかがえます。

カプコンはほかの格闘ゲームに先んじてカプコンカップを頂点とする全世界規模のツアー大会を開催してきましたが、日本では特に2018年から独自リーグを主催し、2018年末からはストリートファイターリーグと称する一連の大会が始まっています。2019年、2020年以降もこの勢いが継続されることが予想されます。

ここまで大々的な取り組みとなったeスポーツ事業ですが、決算資料には記載があるのでしょうか。決算短信には「将来の成長が期待されるeスポーツ事業に資金や人材を投入」とあり、13ページにわたる説明会資料では事業セグメント別概況(その他)のページ半分にストリートファイターリーグのことが記載されています。

2020年3月期 第1四半期 決算カンファレンスコール資料(2020)」より引用。

目を引くのは上の表「2019/6」の売上高10億円と営業利益6億円……ではなく、「2020/3」の売上高30億円と営業利益-4億円です。(これはeスポーツだけの数字ではないと思いますが)この赤字は、おそらく2019年から2020年にかけてeスポーツに多額の投資をするという意味ではないかと思われます。

5月に公開された2019年3月期の有価証券報告書(2018年から2019年にかけての業績発表)でも、中長期的な会社の経営戦略の項目で3番目にeスポーツ事業が挙げられています。

eスポーツ事業の取り組み
eスポーツの競技人口は全世界で1億人超となっていますが、国内でも昨年からプロスポーツチームが参加するリーグの立ち上げや大手企業等がスポンサーになる動きが広がるなど、業界の垣根を超えた異業種からの参入等により、急速に盛り上がっております。当社は、長年にわたり米国現地法人を通じて「CAPCOM Pro Tour(カプコンプロツアー)」を開催するなど、eスポーツに関する豊富な経験や運営ノウハウを蓄積しております。このような環境のもと、今年2月に開幕した「ストリートファイターリーグ powered by RAGE」を皮切りに、米国でも4月に「STREETFIGHTER LEAGUE:Pro-US」(ストリートファイターリーグ)を開幕するなど、経営資源の集中により新規事業の開拓に向けて、中長期的な視点から収益モデルを構築してまいります。

こうした決算資料を見るまでもなく、カプコンにおけるeスポーツの取り組みは活発化しているのは自明だったかもしれません。でも、それが投資家に対しても強くアピールできる材料だと判断していることが決算資料を見て分かりました。おそらく今後も決算資料にはeスポーツのことが記載されると考えられるので、チェックしていきましょう。

ミクシィ 業績は厳しくもeスポーツには注力

次は『モンスターストライク』を展開するミクシィの決算資料です。6月27日に2019年3月期の有価証券報告書と通期事業報告書、決算説明会資料が公開されているので、これを見ていきます(1年間の業績)。また、カレンダーによると8月9日に2020年3月期 第1四半期決算の決算短信が発表されるので(2019年4月から6月の業績)、のちほど追記しますが皆さんも要チェック!

そもそもミクシィが『モンスターストライク』のeスポーツ化に取り組み始めたのは2015年頃です。2018年にはJeSUの立ち上げとともにライセンス認定タイトルとなるなど、XFLAG PARKという大型エンタメイベントと並行・継続して投資がなされてきました。『モンスト』の大会は同接視聴者数がぐんぐん伸びていて、国内ではほかのeスポーツタイトルを差し置いて最多を誇っています

上掲はXFLAG PARKの責任者で、ライブエンターテイメント事業部の部長である比奈本真さんのツイートです。比奈本さんは同作のeスポーツ展開を推進してきた、明確な哲学やビジョンを持つ稀有な人物。ミクシィはユーザー同士のコミュニケーション活性化をミッションにしており、eスポーツはそれを実現する手段の1つで、XFLAG PARKも同様だそうです。ですから、eスポーツはそれ単体で見るよりも、『モンスト』をリバイブするための方法という文脈で見たほうがより正確です。

リバイブはキーワードです。実はミクシィは同決算において、前年と比べて大幅な減収減益を発表。売上高は23.8%減(1440億円)、営業利益は43.3%減(410億円)、純利益は43.5%減(410億円)でした。

今期の見通しとしても、売上高は1000億円、営業利益はなんと50億円、純利益は30億円になると見込んでいます(決算説明会資料より。ちなみに2016年の純利益は610億円)。この衝撃的な数字を受けて、株価は1日で10%ほど急落しました。

大きな要因が『モンスト』の落ち込みです。決算短信には「MAUの規模は依然大きいものの、業績回復のためのテコ入れが必要な状態」と書かれており、ARPU(ユーザー1人当たりの平均売上金額)が非常に低下しているとのこと。相当に苦しい状況がうかがえます(その他資料でも言及あり)。そこでリバイブが必要で、XFLAG PARKやeスポーツ展開を推進しているということです。

2019年3月期 通期事業報告書」より引用(PDF)。

ただ、決算資料においてeスポーツという言葉がたくさん登場しているわけではありません。節々に出てきているのでそれなりに強いアピールポイントのようですが、おそらくまだ売上に対してインパクトは小さいのかもしれません。

eスポーツはライブエクスペリエンスの一環として注力されていると見るのがいいでしょう。国内最多級のプレイヤー数、同接視聴者数の『モンスト』がどのようにリバイブしていくのか、楽しみにしておきたいところです。

※2019年8月10日、以下追記。

8月9日にミクシィの2020年3月期第1四半期に関する決算資料が公開されました。業績は想定どおり厳しいものですが、『モンスト』のMAUが昨年の水準に回復したことや、セガゲームスから『共闘ことばRPGコトダマン』の運営譲渡による期待、映画『プロメア』の好評に伴う新規IPの展開力への評価などもあってか、株価は4%ほど上昇しています。

特に6周年企画やXFLAG PARK開催による『モンスト』のMAU回復が強調されているようで、短期的なリバイブ施策が功を奏したようです。今後は『モンスト』を軸とした新規IPも予定されており、中長期的なブランディングに注力していくとのこと。『モンスト』の動向次第といったところもありますが、持ち直してきているのはさすがですね。

また、支援している千葉ジェッツ、FC東京、東京ヤクルトスワローズといったスポーツ事業にも言及されていて、おそらく今後ライブエンタメの両巨頭であるゲームとスポーツのノウハウが組み合わされていくのではと思われます。

セガゲームス 『ぷよぷよeスポーツ』はいずこ

最後はセガゲームスの決算資料です。同社はセガサミーホールディングスの子会社で、上場はしていません。そのため、決算資料としては上場しているセガサミーホールディングスのほうが豊富です。

ホールディングスというのは持株会社のことで、傘下の子会社の株式を支配することで迅速な意思決定や乗っ取り買収のようなリスクを避けることができます。ホールディングス自体が事業を行なっている場合と行なっていない場合がありますが、それは今回は特に関係ありません。

セガゲームスは詳しい決算情報を公開していませんが、決算公告は行なっています。つまり、会社法に従って貸借対照表(BS、Balance Sheet)と損益計算書(PL、Profit and Loss Statement)を開示しているわけです。このBSとPLは決算を読み解くうえで最も重要ですが、今回はスルーしましょう。

さて、セガゲームスのeスポーツといえば『ぷよぷよeスポーツ』。紆余曲折を経て2018年4月にJeSUのライセンス認定タイトルとなり、これまで多くの公式大会が開催されてきました。国体種目にも採用され、最近では韓国でリーグが始まっています。ライセンスプロゲーマーも多数誕生、中には事務所に所属する選手も出てきていますが、まだスポンサードという点では事例が少ない状況です。

僕たちゲーマーにとっても「ぷよぷよ」シリーズは印象深いゲームの1つ。『ぷよぷよeスポーツ』は2018年10月に発売され、コンソール版のほかにSteam版も販売が開始されました。通常2000円のところが500円になるセールが何度か行なわれたのも記憶に残っています(Free to Playという選択肢はいまのところなさそうですね)。

それでは、セガゲームスの決算公告を見ましょう。……が、決算資料にはeスポーツの文字はなく、あくまで公開すべき最低限の情報しか記載されていません。いちおう、2018年から2019年の1年間の売上が約684億円、純利益が約60億円であることが分かります(なお、カプコンは売上約1000億円、純利益約126億円)。

また、ゲームセンターなどアミューズメント事業はかつて家庭用ゲームと同様にセガが行なっていましたが、サミーとの経営統合によってセガサミーホールディングスが誕生し、セガゲームスとセガ・インタラクティブが分離しました。セガ・インタラクティブは売上約542億円、純利益-2億5900万円。ゲームセンターの経営は厳しいという現実が。

では、セガサミーホールディングスのほうの決算資料に目を移します。ざっと見ると……こちらでもeスポーツという言葉は見当たりませんでした。パッケージゲームの好調、デジタルゲームの不調とあり、しかし『ぷよぷよ!!クエスト』は依然として柱のタイトルの1つになっているようです(有価証券報告書、決算短信いずれも内容としてはやはりサミーのほうのパチンコ事業やカジノ・リゾート事業が中心です)。

2020年3月期 第1四半期決算説明・補足資料」より引用(PDF)。

「いやいや、eスポーツへの言及がないならどうして取り上げたのか」という疑問があるかもしれません。それは、この1年半でセガゲームスのeスポーツに対する取り組み方が劇的に変わってきたので、そのよい変化と将来性が何かしら書かれてあるかなと期待したからです。ただ、現状はまだ投資家に説明するほどのインパクトを持つ状態にはなっていないことが分かりました。

一方、「2019年3月期株主通信夏号」には今後国内で販売していたゲームの海外展開に注力するとあり、『ぷよぷよeスポーツ』の韓国リーグや台湾大会、Steamでの販売がその一要素となっているのは間違いないでしょう。おそらくセガサミーホールディングスはカジノとゲームの掛け算を目論んでいると思うので、特に韓国でのeスポーツの成功は重要視されていそうです(いまのところ、あまり視聴されていませんでしたが)。

興味があることだけに注目して決算資料を見る

ということで、ここまでeスポーツに取り組むゲーム会社3社の決算資料を眺めてきました。詳細な数字はほぼ無視しましたが、自分が興味のあるキーワードだけを拾う読み方をすれば、決算資料がより身近なものに感じられるのではないでしょうか。最初は決算資料のPDFを開いてゲームタイトルや「eスポーツ」と単語検索するだけでも充分です。

ただし、セガゲームスのように決算資料に記載がないからといってeスポーツに投資していないとは言えません。あくまでその時点で事業に大きな影響を与えている、あるいは与えそうな事柄について説明されているだけだと解釈しましょう。

株式投資を行なうのであればもっと具体的に情報を噛み砕かなければなりませんが、「どれくらいeスポーツに力を入れているのかな」ということを知りたいくらいなら、この記事のようにちょっと目を通すだけでもけっこういろいろな情報を知ることができます。確かなソースにもとづいた情報ですから、誰かに話すときの信頼性や説得力も「まとめブログやTwitterで誰かが言ってた」という情報とは段違いです。

今回取り上げた3社以外でも、国内には例えばガンホー・オンライン・エンターテイメント、ソニー、任天堂、ネクソン、バンダイナムコHLDGSなどのeスポーツタイトルを有する企業が上場しています。自分がプレイしているタイトルや気になるタイトルがあれば、ぜひその開発・運営企業の決算資料を見てみてください。もちろん海外の企業でも。

次回の【事業会社編】ではCygamesやCyberZ、CyberEなどeスポーツ事業を展開する企業を有するサイバーエージェント、ゲーム攻略サイトやプロチームの運営を行なうGameWith、大会の企画・制作・運営やタレントマネジメントなどを行なうウェルプレイドを子会社化したカヤックといった、eスポーツ事業に大きな投資をしている3社の決算資料を味わいます(公開しました↓)。

eスポーツを扱うようになったテレビ局や新聞社、ウェブメディアなどメディア系の企業も見てみると面白そうですね。

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