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桜の咲く頃、Rocket Leagueは日本でesportsとして花開くか

2015年の夏、僕は会社から帰ると毎日『Rocket League』をプレイしていた。最初はマウスとキーボードだったが、どうしても飛び上がってシュートを決めるまでの細かい操作が難しく、「もしかしてパッドのほうが楽なんじゃないか?」と思ってXbox 360のコントローラーを引っ張り出してきた。

当時、このゲームはリリースされたばかりだった。自分がどうやって知ったのか、あるいは購入したのかはもう忘れてしまったが、僕の周りでは誰でもプレイしていなかったし、それどころか日本にプレイヤーがいるのかすら分からない、よくあるSteamのマイナーゲームの1つだった(今の『Faeria』のように)。

そのうち日本人もこのゲームの魅力に気づき、大会が開催され、ゆくゆくは公式リーグが展開されるのではないかという期待もあった。けれど、本当に1人でプレイして、ときどき海外大会を観戦しているだけだったので、「日本じゃまだ広まらなそう」と思って遊ぶのをやめてしまった(『Fallout 4』が来てしまったのもある)。

※この記事の公開後、9月14日に毎日新聞とサードウェーブが主催する第1回全国高校eスポーツ選手権に『Rocket League』が採用された。

Red Bull 5Gが見せてくれた可能性

僕が再び『Rocket League』に出会ったのは約1年後、2016年末に開催されたRed Bull 5G でだった。国内ではおそらく初めてとなる企業主催の大会で、いろんな人が「なんだこのゲーム」と(いい意味で)言い合っていたような記憶がある。

僕は決勝会場に足を運び、目の前で日本のトッププレイヤーが繰り広げる妙技を味わった。ほかのタイトルもありながら、最も盛り上がっていたのは『Rocket League』だった。

その理由は複数あると思うが、初見でもルールが分かるというのが1つ(相手のゴールにボールをシュートすればいい)。それと、車が突如としてふわふわと飛び上がってボールを蹴る(弾く?)光景が愉快だというのもあるだろう。ゴールが決まると、拍手と歓声が沸き起こった。理解できなくて難しそうな顔をしている人はいなかった。

僕はプレイをやめて以降『Rocket League』をまったく追っていなかったので、日本にどんなプレイヤーがいて、どんなコミュニティがあるのかも知らなかった。でも、Red Bull 5Gが翼を与えたいと思うようなコミュニティは存在していたのだ。そして翼を与えられた彼らの羽ばたきは、1年以上経ってなおその力強さを増している(まあ『Rocket League』の車は翼なんてなくても飛べるのだが)。

Red Bull 5Gで優勝した1人であるYuhiがWekidsで活躍していて、いまも『Rocket League』の認知拡大に尽力していることを知ったのは本当に最近のことだ。実況を務めたkokkenは登竜門などの大会を主催している。いまoreRevoで大会を定期開催している合気、初心者向けのよちよち杯を開催しているペンちゃんといった人たちは毎日のように『Rocket League』を広めようと活動している。

あるいはnoteで攻略記事を書いているKanraはかねてトッププレイヤーとして君臨しているし(後述の1NE eSportsに所属)、esportsの仕事をしながらロケットリーグJAPAN Discordの管理人を務めるBana0もいる。個人的には『Rocket League』の記事を検索するとnoteでも記事を書いている現八のブロマガが出てくるのがツボだ(Red Bull 5Gは風邪で行けなかったらしい)。

チームとしては昨年アジア大会(APL)で優勝したGlory Stoneが総合ゲーミングチームの1NE eSportsに所属するなど、アジアや世界を見据える役者がいる。

あと、別の角度からはVtuberが主催・参加したバーチャルワールドカップが行なわれた。まだまだ水面下での動きかもしれないが、明らかに機運は高まっている。

Logicool G CUPの種目として採用された!

国内の『Rocket League』を取り巻くシーンが大きく変わりつつあるのは、間違いなく海外でのシーンによる影響も大きい(Rocket League Championship Seriesの賞金総額は当初5万5000ドルから25万ドル規模に。Season 6ではなんと100万ドル!)。Red Bullのサイトに状況を伝えてくれる記事があるので紹介したい。

『ロケットリーグ』:世界最大のスポーツへ

オリンピック会場でファイナルを開催するまで成長した大人気esportsタイトルを手掛けたPsyonixがトーナメントシーンの現在・過去・未来について語った。
関係者が語る『ロケットリーグ』の急成長

たった2年で会場規模がナイトクラブからオリンピックアリーナまで拡大した大人気ゲームのこれまでをプレイヤーやキャスターが振り返る。

僕が観戦していた頃の海外大会は数百人くらいしか観ていなかった気がするが、いまや数万人は当たり前、10万人をも超えるようになった。正直、こんな規模になるとはとても予想していなかった。次はぜひ日本での盛り上がりに期待がかかる。

そのための大きな二歩目となるのがLogicool G CUPだろう。これまで『LoL』だけで開催されてきたLogicool G CUPでは、今年から新種目として『Rocket League』が採用された。

その理由は、何か大きな目論見があったというよりは、フォロワーに訊いたらコメントが多かったからだったという。アンケート自体はシューティングが圧倒的1位だが、下記のツイートにぶら下がっているリプライを見てほしい(ロケリー勢のパワーについ笑ってしまう)。

Logicoolはマウスやキーボード、ヘッドセットなどPCに関するデバイスのメーカーだ。『Rocket League』がパッドでのプレイをベストとする以上、実は大会の開催による直接的な恩恵(つまり売上)は『LoL』より大きくないと思われる。

けれど、先のツイートを見れば明らかなように、ロケリー勢からの愛を一身に受けることができるようになると考えると、今回の新種目採用はブランドにとって充分に意義があるのではないだろうか(この取り組み方、姿勢にはこれからesportsなるものへの新規参入を考えている企業・団体にとっておおいに学ぶものがあると思う)。

『Rocket League』を開発・運営するPsyonixは、日本のesportsシーンをまだそこまで視野に入れていない。しかし、もしLogicool G CUPがかつてなく盛り上がり、日本にもシーンが立ち上がりつつあることを彼らが知ることになれば……?

かつての『LoL』に重なる光景

ここでふと僕の脳裏をよぎるのが、2013年の日本の『LoL』シーンだ。

その頃、日本にRiot Gamesの日本支社はなく、もちろん公式大会やリーグもないし、サーバーもなかった。けれど、プレイヤーはいた。コミュニティもあった。少しずつ企業主催や協賛の大会が行なわれるようになってきていた(いまはなき世界大会、WCGの日本予選が2013年の秋に開催されたことを覚えている人もいるだろう)。

コミュニティの熱をどうにかRiot Gamesに届け、彼らに日本にもシーンがあるのだと知ってもらいたいと考えて発足されたのがLJLだ。いま考えると、オーガナイザー単独でプロリーグを名乗って公式を呼び込むなんて無謀にもほどがある。しかし、それが功を奏した。

LJL発足後、早々に日本支社としてライアットゲームズが設立され、サーバーの開設が約束された。これまで何度もサーバー開設の時期が噂され、なかなか実現されずプレイヤーはやきもきしていたのだが、ついに2015年末にライアットゲームズからお告げがもたらされたのだ。

それがかの名言「桜の咲く頃に」。その後、2016年にLJLが公式リーグとなり、3月には日本サーバーのβテストが始まって、2017年2月に正式リリースとなった。

僕はこの神話が大好きだ。いまの『Rocket League』はまさに2013年の日本の『LoL』シーンと酷似していないだろうか?

まずはプレイして観戦する

そこでいま、シーンをもっと盛り上げるために僕たちにできることは何か。なによりも、このゲームをプレイすることに尽きる。PC(Steam)、PS4、Xbox One、Nintendo Switchと遊べるハードは幅広い。そして価格も約2000円とお手頃。

しかも一部ハードでクロスプラットフォームが実装されていて、PC版とXbox版とSwitch版は相互にマッチングされ、PS4版はPC版とだけ相互にマッチングできる。いずれもパッドで操作するので操作性に差はない(PS4版プレイヤーがマウサーと揶揄される心配もない)。

PS4版のクロスプラットフォームが特殊なのは、SIEのスタンスが現れているからだろう(こちらを参考に)。プレイヤーにとってはハードの違いなんてどうでもいいことなので、今後何か進展があると嬉しいところだ。『Rocket League』としてはハード間でパーティが組める機能も実装予定だそうだ(こちらを参考に)。

また、少しでも関心があればLogicool G CUPをぜひとも観戦してほしい。詳細は公式サイトに譲るが、これから予選が行なわれ、オフラインでの決勝戦が12月22日(土)に開催される。プレイしたことのない人も、とにかくこの大会の観戦を!

もちろん大会への参加、大会の告知協力など、プレイヤーにできることはたくさんある。とにかく、多くのゲーマーや興味を持ってくれそうな企業担当者の目に触れるような情報発信が必要だ(この記事でいくばくかの貢献ができんことを)。

※ちなみにLogicool G CUPへの参加については、募集期間が9月9日(日)いっぱいに延期された。この記事の公開タイミングからだと2日しかないが、すでにプレイしている人は急いで確認してみてほしい。

※大会の視聴者数を増やすための施策については「esportsシーンの発展に欠かせない大会観戦者を増やすための戦略と施策」にまとめてある。

プレイヤーやコミュニティをサポートするのも一手

弊誌の読者には新規参入を考えている企業や新しい取り組みを検討している企業の方もいると思うので、ぜひ『Rocket League』のシーンに注目することをお勧めしたい。

まだほかのほとんどの企業が振り向いていないタイトルなので抵抗があるかもしれないが、いまこの日本にプレイヤーがいて、コミュニティもある。彼らをサポートすることは、『Rocket League』のみならず、今後のesportsシーン全体にとって巨大な原動力になりうることは想像に難くない。

チームやコミュニティ大会に協賛する、大会やリーグを主催する(LJLのように?)、あるいはみずからチームを作る。成功が約束されているわけではないが、ほかのすべてのタイトルもその土壌を耕しながら発展してきたのだ。『Shadowverse』だって最初から順風満帆だったわけではなく、Cygamesを始めとする多くの企業によるプレイヤーやコミュニティへの多大なる貢献があった。

シーンを支えているのは1人1人のプレイヤーだ。まずはLogicool G CUPを観戦し、彼らの熱量を感じてもらいたい。大会を通して、どんなチームが活動しているのかも見えてくるだろう(もちろんコミュニティ大会も開催されると思うので、先に挙げた人たちの情報発信をチェックしてほしい)。

来年の桜が咲く頃に『Rocket League』のシーンはどうなっているだろうか。いまからとても楽しみだ。

※トップイメージは『Rocket League』のSteamページから。

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