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ゲーマーの狂気が生み出す価値こそ、いまesportsが注目される理由だ

esportsという言葉が持て囃され、ただゲームをプレイしているだけなのに過剰に持ち上げられている――ときどが『情熱大陸』で語り、藤村がインタビューで答え、ちょもすがブログで吐露した、トッププレイヤーたちの心情。ほかにも、SNSやインタビューで似たような感覚を抱いているトッププレイヤーの言葉を見た記憶がある。

ときどは、勝手に持ち上げられているだけだとブームがすぐに去ってしまうので、ゲームには奥深いものや歴史があり、真剣にゲームをプレイしてきた変な人たち(ちょもすの言う「狂人」)がいることを伝えたいと話す。戦いの相手は、ゲーマーに対して不当な評価を下す世間の目であると。

僕なりに意訳すると、「いまのesportsブームを一過性で終わらせないためにゲーマーという狂人がもたらす価値を世間にきちんと評価してもらいたい、そのために自分は活動している」という感じだろうか。

では、ゲーマーという狂人がもたらす価値とは何なのか? なぜその価値はいまのesportsブームを一過性で終わらせないことに役立つのか?

ということで、今回はゲーマーが持つ狂気がどういう価値を生み出す源泉となるのかを考察し、ゲーマーに対する世間の評価は容易に覆りうること、ゲーマーを持ち上げる企業が何に期待しているのかを議論する。

esportsに注目し始めた企業にとっては、ゲーマーがもたらしてくれる価値の一端を知ることができるだろう。ゲーマーにとっては、ふさわしい価値があってこそ持ち上げられているのだと知ってもらえれば幸いである。「持ち上げ」は期待の表れであり、けっして一概に過大評価や過剰なものとは言えないのだ。

【目次】
何がゲーマーを卑下させるのか
大多数の人は何事にも熱中しない
狂気なくして社会的価値は生まれず
トッププレイヤーが自信を持たないと後進も自信を持てない

何がゲーマーを卑下させるのか

ときどは「ゲーマーはマイノリティで、過剰に持ち上げられている」、藤村は「僕としてはただゲームをしているだけ」、ちょもすは「ゲームの大会で実績を残すことは確かに素晴らしいことなんだけれど、逆に言ってしまえばゲームの大会に優勝しただけ」と言うが、そもそも何がゲーマーをこんなにも卑下させるのだろうか。

トッププレイヤーに限らず、ゲームをプレイすることを否定された経験のある人は多い。そうした呪詛を投げかけてくるのは家族、学校、会社、それと世間だろう。いわく、ゲームなんてしてないで勉強しろ。いわく、いくらゲームを遊んだところで社会では役に立たない。いわく、ただ自己満足のために遊んでるだけ。

どれほど夢中になり、どれほど熱心に取り組んでも、その対象がゲームであるというだけでネガティブに受け止められる。好きな物事を否定されるほど辛いことはない。まったく生きづらい世の中である。

あるいは、目の前の難題から逃げるためにゲームを利用した人もいるだろう。人生をよりよいものにするために立ち向かわなければならない課題を放り出して、ゲームの世界に逃げ込む。そのことに後ろめたさを感じてしまう。

そうした経験が積もれば、ゲームをプレイすることに対して周囲の目が気になってしまい、真剣に取り組んでいてもどこか卑下してしまうのも頷ける。

そこには自分の行為が他者の幸せに貢献していないという認識がある。端的に言うと、ゲームをプレイすることはあくまで個人的価値のためで、社会的価値を生み出していると思えないから卑下してしまうのである。

※もちろん、誰かの役に立っていれば必ず自信を持てるというわけではないが、一般的には自己満足だけの状態よりは自信を持ちうる可能性が高い。結論を先取りすれば、トッププレイヤーが社会的価値を生み出しているからこそ企業は持ち上げるのだ。

※個人的価値と社会的価値については「ゲームをプレイすることで社会的価値を生み出せないなら、お金をもらうにあたわない」を参照。本記事はこの記事を反対方向から見たものだ。

大多数の人は何事にも熱中しない

しかし、世の中の大多数の人は狂気と呼ばれるほど1つの物事に熱中することはない。その狂気を理解できないし、しようともしない。「なんでそんなことに真剣なのか」とすら言う。特に、自分がまったく興味がない分野に関しては。ときどが言うように、この意味では狂人的ゲーマーはマイノリティだ。

僕はゲーマーに限らずそういう狂気を持つ人に畏敬の念を感じるし、たぶんこれを読んでいる人もそうだろう。それは自分自身が何らかの狂気を持ったことがあるからだ。なので、どうやら世間なるもの(大多数の人)は、残念なことにあまり狂気に共感しないらしい。よくて見世物的な接し方だろう――プロゲーマーに目隠しプレイをさせるような。

だが、大多数の人が狂気を持てないということは、そこに希少性が宿る。いまesportsが過熱気味に注目されているのは、まさにその希少性が社会的価値(他者の幸せへの貢献)を生み出すからだ。

※ゲーマーの狂気自体が持つ価値ではない。それ自体も尊いが、あくまで個人的価値で、生まれるのは自分自身のための楽しさや喜びといったものだ。その個人的価値から社会的価値が生み出されるのがポイントである。

狂気なくして社会的価値は生まれず

では、なにゆえゲーマーの狂気が生み出す社会的価値が必要とされているのか? その中身は具体的に何なのか?

いま、多くの企業が自社商品を選んでもらうためにブランディングに注力し始めている。ブランドに長く愛してもらうことで継続的に購入・利用してもらおうとしているのだ。そこで重要視されているのが、ファンやコミュニティを作ること。ユーザーと密接にコミュニケーションし、ファンやコミュニティを通して潜在顧客に自社商品を紹介してもらおうとしている。

しかし、企業がファンやコミュニティを作るのは簡単なことではない。ところが、ゲーマー、特にトッププレイヤーはその強さを最初の契機としてファンができ、コミュニティが作られる。ここに、企業がゲーマーを持ち上げる理由がある。そもそも企業がブランディングに過熱気味だから、esportsにも過熱した注目が集まっているのだ。

ゲーム会社であれゲーム業界外の企業であれ、それは変わらない。ゲーマーが狂気を持ってゲームに取り組んだ結果、何度も大会で活躍したとしよう。そのゲーマーは人気が出て、大会の観戦者が増え、フォロワーやファンも増える。大会を観戦したユーザーやファンの満足度は向上し、ゲームを継続して遊ぶ。新規プレイヤー獲得の施策にも活かせるかもしれない。

ゲーム会社にはこれほどありがたいことはないから、そういうゲーマーを増やすためにお金を出している。また、ゲーム業界外の企業にとっても、人気のあるゲーマーはブランディングに一役買ってくれるだろう(具体的な議論は「これからesportsシーンに参入したい企業に知ってほしいこと」を参照)。

この流れはゲーマーの狂気――ただひたすらゲームをプレイすること、大会で優勝すること――が発端にある。狂気それ自体には個人的価値しかないが、そこから何らかの形で社会的価値が生まれるのだ(例えば、大会で人目に触れるなど)。

ちょもすが指摘するように、狂気を持つゲーマーはどうしようもない人間だと言われる節もある。ただ、それはトレードオフであってブランドセーフティにどう向き合うかという問題でしかないし、盛り上げようとしている人たちがそこを無視して持ち上げているようには思えない(確証はないので個人的な懐疑である)。

ただ、狂気について表立って言いにくい雰囲気になっているのはたしかで、その点でちょもすの「そのことを、結果を残している人がしっかりと言葉にしてることに、僕は嬉しくなったのである」という言葉は鋭い。

※あと、ちょもすはesports大会で優勝したことを一流企業に提出する履歴書に書けるかどうかという点を問題視しているが、優勝することで社会的価値を生み出したなら評価されるだろう。また、その企業にゲームとの関連がないなら評価されないのは当然だ、どんな資格でも同じように(大会優勝はゲーム会社なら評価の対象になると思われる)。

トッププレイヤーが自信を持たないと後進も自信を持てない

僕が不安なのはゲーマーが社会的価値を生み出せるかどうかではなく、トッププレイヤーを含め多くのゲーマーがゲームをプレイすることを「戦うべき世間」と同様に卑下している現状だ。彼らが堂々と胸を張らないで、どうして彼らを追いかけるプレイヤーたちが自信を持てるだろうか。

特にプロゲーマーには、自分が社会的価値を生み出している、生み出せるのだと自信を持って言ってほしい。言い様はいろいろあるだろう。例えば、けんつめしは生放送で「ゲームを通して人の役に立ちたい」と話した。ときどもSENSORSで「esportsへの注目に対して、ゲーマー側が中身を伴わせないといけない」と語っている。

そしてどんどんお金を稼いでほしい。いまのesportsブームを一過性にしないためには、トッププレイヤーが余るほどのお金を稼ぐことが必要である。つまり、持ち上げてくれる企業に対して期待される以上の価値を提供するのだ。

esportsが社会的価値を生み出すと認知され、ゲーマーがお金をたっぷり稼げるようになれば、世間の目は変わっていくだろう。そうなった暁にこそゲームをプレイすることがリスペクトされるようになり、必要か否かはさておき、ゲーマーの社会的地位が向上する。まさに「狂った情熱が世界を変える」のだ。

※ときどの考えをじっくり知りたい人は下記の番組がお勧め。4回分ある。


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