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入場料を取る本屋

本屋が減っている。
2023年までの20年でおよそ20,000店から11,000店にほぼ半減しているようである。

電子書籍やAmazonをはじめとしたネットショップに押されており、単に本を売る役割は奪われている。
しかし本屋は単に本を売る役割のみを担っているわけではない。


本屋の役割

本屋の利点、本屋の担っている役割とは何か。

ひとつはもちろん、本を売る役割である。
そしてもうひとつ、本との、偶然の出会いを提供することである。

本屋では、様々な本を一度に眺められる。目的の本があってもなくても様々な本が目に入って興味をかき立てる。興味のある本はもちろん、これまで知らなかった分野と出会うこともある。
狙っている本を一冊買うだけならネットショップでよい。しかし本屋では様々な出会いがある。興味のないジャンル、未知の出会いがあること。これこそが本屋の最大の利点である(この点は新聞やテレビ、美術展などにも共通する。

例えばAmazonでは「この商品を買った人はこんな商品も購入しています」と関連する商品をお勧めしてくれる。興味のある人に興味のあるものを紹介するのだから効率はよいし、確かに読んでみたいと思う本も多い。しかし本屋で得られる偶然の出会いはほとんどない。
このような新たな本との出会わせる役割をここでは紹介機能と呼ぶ。

こうした紹介機能について、本屋は既に発揮している。
大抵は入り口辺りに特集コーナーがある。大河ドラマや朝ドラ関連の本、話題になっている出来事に関連する本を並べている。「書店員のおすすめ」はもちろん、その書店における売上ランキングや出版社による「夏の100冊」のような企画も紹介機能だと言える。

いつでも発注可能、自宅まで届けてくれる、マイナーな本も購入可能など、単に本を売る機能はネットショップの方が有利な点が多い。
だから単に本を売るだけの本屋は無くなり、紹介機能を活かした本屋が生き残りやすい。
紹介機能を活かすには売り場面積が多い方が有利である。主に雑誌と新刊漫画を売るような、紹介機能がほとんどない、町の個人経営の本屋はなくなってしまう。

最大の売りを無料にしている

しかし2023年現在、紹介機能は無料である。誰でも無料で本屋に行って並べられた本を眺め、一冊も買わずに帰り、家でAmazonで注文することができる。しかしそうされたら本屋には1円も入らない。

最大の売りを無料で提供しているのは損である。だからいずれ、入場料を取る書店が出てくると考えている。
現に、既にそうした書店はある。

しかしレビューを、見ると紹介機能特化というわけでは無さそう。

もっと、紹介機能を活かした本屋が出てくるだろう。
多くは既にある紹介機能をよりマニアックに、より高度にしたもので、例えば次のような。

○○の本棚

有名人の本棚を再現する。作家や編集者、思想家、芸能人まで、頭の中を覗くことができる。 既に個人がお金を払って好きな本を展示できる本屋は存在する。有名人もおもしろいが個人のものもおもしろい。その人の価値観が反映される。我こそは、と思う客は自身の本棚を再現してもおもしろそう。

樹形図展示

ひとつのテーマにまつわる本を樹形図上に展示する。特に学術テーマに有効である。議論の大元となった必読の本、それに対する賛成意見、反対意見、現時点で最先端の意見などを樹形図上に並べる。

客が意見を言えるしくみ

現在の本屋は紹介機能に対して基本的に受け身である(せいぜい売上で影響を与えるくらい)。そうではなく、積極的に意見を言えるようなしくみとする。例えばこのテーマならこの本を置いた方がよい、タイトルからはわかりづらいがこの本がよくまとめられている、本には明記されていないがインタビュー記事によればこの作品はこの本から強く影響を受けている、など。コメント付きで展示し、他の客がまたそれに対して意見を言うことができるようにする。新しいコメントが付いていないか、度々通う人も出てくるだろう。

例えば定期的に「ミステリ100冊」のようなイベントを実施する。多くの客が意見を言い、結果として100冊以上となってもよい。コメント付きで展示すること。

○○について学ぶ

この分野を学ぶならレベル別でこうした本がある、と紹介する。自身の専門、慣れ親しんだ分野ならある程度レベルがわかるが、全く新規の分野では難易度やその本の重要性がわからない。これを展示して示す。まずは何から読めば良いのか。順番や難易度をわかりやすく提示する。
この職業を目指すならこの本がおすすめ、このジャンルはこのような体系になっている、など。

おもしろい小説を探す

本の売り上げで儲けをあげる場合、多くの人に受ける本が中心となる。しかし入場料で儲けるのであれば、マニアックな本を紹介することができる。また、客から情報を得る。本屋大賞は本屋が選ぶ賞だが、店舗ごとに「この店の客のおすすめ」を決めても面白い。


入場料を払って客が得られるのは本ではなく、見識と発想のきっかけ。
教養を得るための道筋、未知のジャンルへの地図である。

実現可能か?

上手にやれば実現可能である、と信ずる。
ポイントは次のとおり。

価格プラン

学割やサブスク、グループ割や回数券など様々なプランを用意すること。
適切な価格とすること。
最初の二ヶ月は会員登録をすれば無料など、利用しやすいしくみにすること。

広告

大学や企業など、ターゲットを絞ること。多くの人から高評価を貰う必要はない。本好き、学ぶことが好きな人が多そうな界隈を狙うこと。
企業に対しては研修の一環として提携することも可能かもしれない。ただしその場合やる気のある人は少ないので収入を得るためor利用者数を増やすためと割切ること。
昨今の「教養としての○○」という本の多さを見るに、『教養に飛び込む』のような「教養」という言葉を使ったキャッチコピーは響きやすいと考える。

コミュニティを育てること

ある程度賑わいコミュニティを築ければ軌道に乗る。それまでは積極的に利用者を集める工夫が必要。コアとなる人を招待したり、足が遠のかない工夫をしたりすること。MMO(大規模オンラインゲーム)を参考に、カムバック者は三回まで無料、継続特典のようなしくみを用意する。

おしゃれでプライドをくすぐる会員グッズなど、外で出会ったとき仲間意識が生まれるような工夫を用意すること。オリジナルブックカバーは必須である。

客が意見を言いやすい雰囲気、客はみな仲間であると感じられる心地よい空間を用意すること。

初めから有料とすること

実施するとしたら大手書店が売り場の一角を改装するパターンが多いのではないかと思う。その際まずは無料でそのコーナーを作って試してみるべきでは、という意見が出るだろうが初めから有料にした方が良い。

有料にすることで、本屋側の本気度が変わるからである。有料なのにこの程度か、と思われては続かない。本屋のプライドをかけ、高品質な紹介機能を提供するには有料の方が良い。さすが○○書店、知恵が集まっていると思われなくてはいけない。
また、有料にすることで動機の低い人を入れない効果もある。真剣な人だけをフィルタリングできる。

利用する側からしても、お金を払ったからにはしっかり味わって帰ろうという動機が生まれる。せっかくなので何か一冊でも買って帰りたい、とも思うだろう。

有料とした上で目的で無料体験を用意する。

妄想ではあるが

以上大半は単なる妄想ではあるが、2023年現在、本屋が一番の売りを無料で提供しているのは常に感じている。もしそこに価値を見出し有料とするならこんな本屋がいい、という気持ちである。

本好きは想像して欲しい。
自分が強くおすすめした本が本屋に平積みされ、おもしろかったとコメントが付く様子を。この本が好きならこちらの本もおすすめとリプライが付き、見知らぬおもしろそうな本が並んでいる光景を。知らないジャンルの「地図」を眺めながら最初の一冊を手にする高揚を。

本屋がこれからも、楽しい場所として続きますように。

名角こま

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