縦覧の方針決定経緯と署名簿の個人情報開示請求に応じることの歪さ

この件について書くのは3回目ですが、愛知県大村知事のリコールに関して名古屋市が【署名簿の個人情報開示請求】を認める方針としていることについて、縦覧の方針変更の経緯からそのおかしさを述べます。

縦覧の運用の方針変更の経緯

まず、愛知県は「縦覧」の手続について、当初は

1:署名をした人でその効力を確かめたいにはその署名簿の綴りの部分だけを見せる(他の者の情報を隠すよう配慮するのかは不明)
2:署名をしていない人で氏名の冒用が行われていないかを確かめたい人には、職員がその人の氏名住所を探して有る無しを伝える

こういう方針でした。

しかし、リコール反対派は「職員が確認するだけというのは信用できない」「自分で署名簿を見ないと本当にチェックできない」という主張をしていました。

これに対して、「署名簿には他の人の氏名住所が記載されているので、署名簿全体を見れるということになると、誰が賛成したのかが漏れてしまい、署名者に対する妨害を助長しかねない」と考えられていました。

実際、縦覧が悪用されて署名者に対する威迫が行われた事案があります。
宇都宮市陳情第61号「署名簿縦覧の目的外を防止する条例等の制定を求める陳情」
署名縦覧を盾に議員らがビラで暗黙の圧力?町長リコール運動をめぐる川島町住民の狼狽 | 相川俊英の地方自治“腰砕け”通信記 | ダイヤモンド・オンライン

また、私は「投票の秘密」という憲法上の権利の観点からも、縦覧の運用方法によっては違憲の疑義があると指摘しました。

結局、愛知県選管は、総務省との相談の結果、「縦覧」という法律上の文言からは先述のような運用だけでは違法の可能性があるとして、以下の運用に方針変更しました

1:署名をした人でその効力を確かめたいにはその署名簿の綴りの部分だけを見せる(他の者の情報を隠すよう配慮するのかは不明)
2:署名をしていない人で氏名の冒用が行われていないかを確かめたい人には、職員がその人の氏名住所を探して有る無しを伝える
3:どうしても署名簿全体(当該自治体に限るのが大前提)を見たいと希望している者には署名簿を渡して役所内の特定の場所で探すことについて拒否しない

個人的な見解

私としては、上記記事でまとめているように、運用によっては署名簿全体を見せたとしても投票の秘密を保護できるし、縦覧制度自体も違憲ではないと考えていました。

たとえば、署名簿の管理に工夫をして、最初は氏名欄は伏せて住所欄だけ見れるようにするとかであれば、縦覧者はまず住所で自分の居所を検索、該当住所があればその部分の氏名欄だけ見れるようにするなど。

結局、そのような方針だったのかは不明ですが。

いずれにしても、リコール反対派は「職員が確認するだけというのは信用できない」「自分で署名簿を見ないと本当にチェックできない」という主張だったということを再掲します。

署名簿の個人情報開示請求は「職員が確認するだけ」

リコール反対派は、縦覧という手続があるにもかかわらず、自分の名前が勝手に使われて署名が偽造されていないかを調べるために「個人情報開示請求」という手段が使えるべきだ、と主張し始めました。

個人情報開示請求と署名簿2

しかし、これは奇妙です。

なぜなら、個人情報開示請求によって署名簿上に自分の氏名があるかどうかを確認できるとしても、それは自治体の職員が確認しただけに過ぎず、自分の眼でチェックしたことにはならないのですから、従前の彼らの主張からすれば、無意味なことなんですから。

無効となる署名が為されるのは防ぎようがない

こういう報告があります。

これは、「リコール運動の主催者側に不正を働いた者が居た証拠」なのでしょうか?

ちょっと考えれば分かりますが、こういうことはリコール反対派もできるのです。

リコール運動そのものを腐すために妨害・悪戯の目的で、わざと存在しない氏名住所を用いたり、他人に指示して自己の氏名住所を書かせて後で「偽造だ!」と騒ぐなど。

両者の違いをどうやって判別すれば良いのでしょうか?

ということで、署名簿の記載にまったく問題が無いようにする、そのためのチェック体制を整える、ということは、実施の限界もありますが、その効用の限界もあるということです。

海外で縦覧制度を設けているのは私が調べた限りでは韓国くらいしかありませんし。

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