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なぜ当事者に「セカンドレイプ」と言ってはいけないのか?

冒頭画像の魚拓

セカンドレイプ」という言葉の使い方が不適切な人が多いと思う。

セカンドレイプの定義・用法

「セカンドレイプ」(性的二次被害)とは、性犯罪・性暴力(性的嫌がらせなど含む)の被害者に対して、その被害経験に関する心無い言動によって更なるダメージを与えること、という意味がなんとなくの公約数的理解。
公的な定義があるわけではありません。

具体的には、性被害の苦痛を思い出させるような言葉を投げたり、被害を受けた原因の一端が被害者自身にもある、というような発言など。

この原義の転用で、性被害の場面以外でも、何らかの被害を受けた者に対して被害事実が無いことや不当な責任を押し付ける行為について「セカンドレイプ」と比喩的に使われることがあります。

他、たとえば伊藤詩織vs山口紀之の事件は刑事では不起訴、民事では伊藤氏勝訴でしたが、性行為の事実は争っておらず、伊藤氏泥酔時の同意の有無が争点という事案でした。この件に関しては「セカンドレイプ」という言葉が、被害事実に関するものではない、無関係な別の事柄についての伊藤氏に対する誹謗中傷(本名は〇〇で外国人だのなんだのという嘘や、報道されてからの彼女の種々の言動に対するもの)についても使われていました。が、このような【何らかの被害を訴えた者に対して、その被害事件とは無関係な事柄も含む全ての話題に対する誹謗中傷=セカンドレイプ】とする用法は、原義でも転用された用法でもありません。単に言葉の意味をインフレさせてお手軽に批判者に対してレッテル張りする行為であり、こうした意味を持たせるべきではないでしょう。

さて、相手方当事者が性犯罪・性暴力の事実を争っている場合、典型的には「同意の有無」が問題になるので、真実は同意していないのに「同意していただろう」「もともとワンちゃんあると思っていただろう」「同意してたのに嘘を付き始めただろう」といったような言葉を浴びせた場合もセカンドレイプです。

最も先鋭的なのが性的行為の存在自体を相手方当事者が争っている場合。
この場合にはセカンドレイプという言葉を使ってはならない状況が多い、ということを言いたいです。

セカンドレイプと言える場面

セカンドレイプと言える場面
「時」と「相手」で分けられます。

【時】:「ファースト」が確定したとき。

この場合、被害者であることが確定しているので誰でも「セカンド」に言及することが可能。

しかし、多くの場合は訴訟で判決が出るまでは客観的には真偽不明の状態。神の目の視点を持っている者はいないし、主張が破綻している場合は限られている。

ただ、ファーストが未確定の場合でも、セカンドに言及することが妥当な場合があります。

【相手】:被害を訴える者である本人が、相手方や第三者に対して。

本人であれば、この資格がある。
親族や内縁者など特に親しい者なども同様(代理人的立場と便宜的に書く)

もちろん、第三者から見れば「本当なのだろうか?」という真偽不明状態であることが多いのだけれども、その主張まで封じてしまっては、真実の被害者に対する誹謗中傷が抑えられなくなる。

他方で、被害者本人とその代理人的立場ではない第三者、つまりは支援者や同調する者らが「セカンドレイプ」という言葉を使うと、どうだろうか?

相手方が事実を争っている場合、もしもその後に被害事実が存在しなかったら、その「セカンドレイプ」という言葉自体が、即座に相手方への誹謗中傷になります。この場合、「被害を受けた!」という主張そのものが相手方にとっては「ファースト」(名誉毀損や侮辱)なのであって、その立場の者に「セカンドレイプするな!」と言うことそれ自体が転用された意味での「セカンドレイプ」になる。

したがって、このような場合、第三者はそんな言葉は使ってはならないわけです。事実関係を精査してほぼ間違いないだろう、という判断が一応できる者など限られています。

草津町新井祥子事件での「セカンドレイプ」乱用

最近の事例で言えば、群馬県草津町の新井祥子事件。
新井議員(当時)が2015年に黒岩町長から性被害を受けたとする別のライターによる2019年の電子書籍の記述を発端に、議会やその他の場面で新井氏が性被害を主張。黒岩氏は真っ向から否定した事案。

この件は、当初から新井氏の主張が二転三転し、明確な虚偽の内容が多いため2020年に黒岩氏から民事刑事で訴えられ、議会で除名処分(後に無効)、住民投票によってリコールされ、2022年10月30日に在宅起訴されるに至っています。
(新井は2021年12月に黒岩を告訴するも数日で不起訴処分)

まとめとして以下を載せておきます。

この事件では新井氏の支援者らが「セカンドレイプ」という言葉を黒岩町長や黒岩氏を支持する論調の者たちに対して使っていました。

のみならず、「セカンドレイプの町 草津」などと、新井氏を支援する目的を容易に飛び越えて、地域社会全体を貶める発言まで、支援者の多くが、公職者ですら行っていました。それに新井氏も加担・放置していました。

本人を支援する意味でもない、単に何かを貶めるために「セカンドレイプ」という言葉が乱用されたわけですが、自治体にも名誉はあるので、新井支援者の2名に対して、町が原告となって損害賠償請求が為され、審理中です。

すると、都合が悪いのか、以下のような事例が出てきました。

「ファーストが嘘だからセカンドレイプもないなどという詭弁」

魚拓

ファーストが嘘だからセカンドレイプもないなどという詭弁

この主張の異常さ。

しかも『「セカンドレイプ」という用語も考え直す必要があるのだろうか』などと語っており、これは従来のセカンドレイプの意味を超えて…

【何らかの被害を訴えた者に対して、(申告された被害が嘘であっても)その被害事件とは無関係な事柄も含む全ての話題に対する否定的言動=セカンドレイプ】

という用語法を創り出そうと企図しているようにしか見えない。

これは草津町の事案に関しての言及で、少し異なるが同様の主張は何も匿名アカウントだけではなく、北原みのりもアエラドットで行っています。

まるで現代の魔女狩り? 性被害を訴えた草津町議会女性議員へのリコール
連載「おんなの話はありがたい」 北原みのり 2020.11.25 16:00 AERA dot.

  町長にたとえ加害の事実がなかったとしても、この議会そのものが十分に性暴力でミソジニーだった。「この議会の様子はYouTubeで世界に配信される!」と町長自身が動画内で言っていたので、自身の正しさを証明する機会として、新井議員をおとしめる発言を繰り返したのだろうが、「世界的」には完全にアウトなのは草津町議会そのものではないか。男性ばかりの歪な議会で、性被害を訴えた女性を「嘘つき」とののしる姿を世界にさらしてしまった。

「ファースト」がなくとも、どうあっても「女性が追及されること自体がダメだ」とかいう論理。

彼女は湯畑のフラワーデモに参加し、他の参加者が「セカンドレイプの町 草津」と書かれたプラカードを掲げて写真を撮っている中心に居ました。

なぜ「セカンドレイプ」と言ってはいけないのか

もうおわかりですね?

以上みてきたように、「セカンドレイプ」という言葉は、申告された被害が嘘であっても、その被害事件とは無関係な事柄も含む全ての話題に対する否定的言動に対してセカンドレイプというレッテル貼りをして主張を封殺する目的で使われているからです。

それどころか、被害申告者本人とは無関係に、地域社会全体を貶めるためにも使われた。それは第三者が気軽にその用語を用いたためです。

本人や代理人的立場の者は別と言いましたが、本人であれば自己弁護しないことへの期待可能性が無く、親族等であれば本人を擁護しないということに期待可能性が低く責任が無いため、その行為につき咎めるべき悪質性は無いという類型的実態を考慮しています。

これは刑法の犯人蔵匿及び証拠隠滅の罪における考え方の援用です。

第七章 犯人蔵匿及び証拠隠滅の罪
(犯人蔵匿等)
第百三条 罰金以上の刑に当たる罪を犯した者又は拘禁中に逃走した者を蔵匿し、又は隠避させた者は、三年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。
(証拠隠滅等)
第百四条 他人の刑事事件に関する証拠を隠滅し、偽造し、若しくは変造し、又は偽造若しくは変造の証拠を使用した者は、三年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。
(親族による犯罪に関する特例)
第百五条 前二条の罪については、犯人又は逃走した者の親族がこれらの者の利益のために犯したときは、その刑を免除することができる

「証拠隠滅は悪だ」「犯人蔵匿は悪だ」というのは一般論であり、標準的な価値観です。「セカンドレイプという言葉を使ってはならない」という言及は、それと同様の言い回し。

ただし、例外的な場合があるよね、ということ。

ましてや公職者やジャーナリストを名乗る者が真偽不明の状況で使っていいものではないでしょう。

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