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イルカになれない僕らは

名前を失くした僕達が向かう先は小さな島にある魚の国で、どんな風にどんな一日を過ごすのかは想像もつかない。
波音で洗われて新たな形が現れたりしないかな、なんて淡い期待をしてみるけれど、きっとそれも波にさらわれて消えてしまう。
僕達は、僕は、何になれるかな。

■ □ ■

魚の国から帰ってきたのは一人と一人だった。
何にもなれなかったね、と笑うようにイルカが尾ひれで水面を弾く。
目は逸らさないけれど手を伸ばさない君と、手を伸ばすことに疲れて目を伏せた僕、ただなりたい姿が違っただけ。
イルカになれない僕らは、僕のまま君のまま泳いでいく。

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