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サナギ

止んだはずの雨がまたぽつりと落ちてきた。
緩やかな足取りで帰路を辿る。
アルコールを含んだ頭はふやけるどころか冴え渡っていて、瞬きするたび一つひらめく、と言えば大袈裟に聞こえるだろうが、あながち誇張でもない。

マンホールは脳内の雑音さえ飲み込んでいく。
朝起きてから今に至るまでの出来事が早送りで巡り、その振り幅に思わず笑いがこぼれる。
つまらない一日が楽しい一日へと変化を遂げるそれはサナギの羽化を思わせた。

そうか、と思う。
自分は今、サナギなのかもしれない。
身を溶かしながら風雨に耐え、知恵を蓄え、その日が来るのを待ちながら、その先を思い描く。
朝起きてから眠りにつくまで、早送りのように止まらない一日を楽しむ毎日へと形成するために、今がある。
そう思えば、悪くない。
こんな夜も、こんな空も憎からず思えてくる。
そうしてまた、思っていたよりも長い道のりを一歩、また一歩と進んでいく。
気がつけば雨は止んでいた。


#小説
#4月某日の夜をイメージ

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