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【小説】 帰り道

仕事が終わり、自転車に乗って駅から自宅まで走るのが日課の私は、今日もまたいつもと変わらない帰り道を会社から駅に向かって歩いていた。

各々に携帯を片手に、足だけは正直に踊るような軽い足取りで、それこそ浮かれているような速さで進む。改札を越えて階段を登っている時も、降りている時でさえも。

目的の駅にたどり着くと、その都度雪崩のようにホームを埋め尽くす。出入りする人が一人もぶつかったりせずに進む様はやはり日本ならではなのだろう。誰も文句を言わず、静かに待つし目的地に向かって粛々と進む。私もその一人に含まれるけど、文句なんてないのだ。そういうものだ、と割り切ってしまえばどうってことない。そう思ってしまう「変に物分かりのいい性分」がそうさせているようにも思う。

最寄駅に着いた私は改札を出て定期駐輪場に足を進める。駐輪場の少し手前でカバンから鍵を取り出すと、鈴の音がちりりっと鳴る。友達と一緒に行った神社で買ったおみくじについていたキーホルダーが10年経ってもそのまま音を鳴らす。私の帰りを待っていてくれた自転車を前にカチャリと鍵を通すと誰もいない駐輪場に音が響いて夜が更けたことを感じた。

今日も疲れたなーって思っていたけれど、自転車に乗っている時に少し鼻を出して夜の空気をいっぱいに吸い込むと、夏の足音が近づいているようなひんやりとしつつ懐かしい匂いがした。

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