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【映画レポ】"あの日"への鎮魂|新海誠監督「すずめの戸締まり」

11/11に封切りとなった、新海誠監督の最新作「すずめの戸締まり」。
「君の名は」の大ヒットから、賛否両論あった「天気の子」を経ての新作です。

早速見に行ってきたので、この興奮が冷めやらぬ内に文章にしておきます。
なお作品のあらすじには触れますが、核心部分のネタバレは一切ありませんのでご安心ください。



震災後の世界

まず始めに、これから当作品を観に行こうとしている方へ注意点があります。

この映画は東日本大震災がベースとなっている作品です。

そのため東北で被災者となった方が観た場合、当時の悲しみが甦ったり辛い思いをしてしまうかもしれません。
実際、私が行った映画館の入場口には「震災に関連する描写があるのでご注意ください」との張り紙がしてありました。

非常にデリケートな話題を取り扱うため、新海誠監督もかなりの配慮や工夫をしていることが作品から窺えます。

映画内に出てくる「緊急地震速報」のアラート音を、実際のものではなくオリジナルの音源にしたり。
津波の描写は一切描かなかったり。

それでも気分が悪くなったり「震災を扱う作品は一切目にしたくない」という方もいると思います。
ですから私はこの作品を「絶対観たほうが良いですよ!」などと安易にオススメはしません。

ただ、ひとつの物語フィクションとしての完成度はとても素晴らしいです。



スマホひとつでいつでも旅に出られる

本作は高校2年生の岩戸鈴芽すずめが主人公。
宮崎県に住む彼女は、とあるキッカケで思いがけず日本縦断の旅に出ることになります。

この旅の始まりの際、鈴芽の持ち物はスマホだけ。
財布も持っていません。

けれども彼女はスマホ一台で旅ができてしまうのです。

スマホのICカード(宮崎だからnimocaかな)でタッチ決済が出来るので、フェリーにも乗船できるし新幹線にも乗れます。
全く知らない土地に来てもマップのGPSで場所が把握できるし、行きたい場所への交通手段や所要時間も簡単に分かるのです。
更にSNSを活用すれば探しものを見つけたり、最新情報を得ることも可能。

あえて主人公に旅支度をさせない設定にしたのは、こうした現代のリアリティを描きたかった、という一面もあるのだと思います。
スマホさえあればどこへでも行けるのが現代の若者のリアルなのです。

新海誠監督はアニメーションにおいても常にリアリティを追求する人なので、こういう描き方にはある種の納得感がありました。



情景美だけではない

「君の名は」が大ヒットした要因のひとつが、非常に細やかな風景描写です。
それは山や木々といった大自然の描き方だけでなく、東京のビル群や電車が行き交う様子、雨や雪がコンクリートの地面に落ちる瞬間のリアリティさまでもが含まれています。

私も新海誠監督のそうしたこだわりが好きなのですが、中でも注目したいのが人間の動きです。

たとえば自転車に乗っているシーン。
通常のTVアニメはハンドルに手を置いて、足だけがペダルを漕ぐために動いている様子が描かれます。

しかし現実に自転車に乗っている時というのは、足の動きに合わせて上半身も上下左右に動くものです。
それをリアルに描写した上、風でたなびく服や髪の動き、重心の移動によって腕の筋肉に力が入る様子までをこと細かに描写する姿には頭が下がります。

もちろんこれらは「劇場用長編アニメーション」という、期間も予算もあるからこそ出来るこだわりではあるのですが。
だからこそ新海監督はTVアニメの世界には行かなかったのだろうなぁと思います。



あえてバンド・サウンドから離れたRADWIMPS

新海誠作品において主題歌は重要なファクターとなっています。

「秒速5センチメートル」の山崎まさよし「One more time, One more chance」。
「言の葉の庭」の秦基博「Rain」。

そして今作では新海監督と三度目のタッグを組むことになったRADWIMPSが担当しています。

「前前前世」を聴けば「君の名は」を思い出すし、「天気の子」の映像を見れば「愛にできることはまだあるかい」が自然と頭の中に流れてくる、そうした映像と音楽のマッチングも新海作品の魅力の一つなのですが。

今作において、RADWIMPSはキャッチーなメロディやバンド・サウンドと言えるような曲をほとんど作りませんでした

インタビュー記事の中でボーカルの野田洋次郎がその理由を語っています。

今回、バンド・サウンドはほぼ最初からまったくイメージしてなかったですね。たぶん新海さんも同じだったんじゃないかな。
(中略)
ロックバンドの音ではなく、もっともっとシンプルに削ぎ落として、人差し指一本で弾けるフレーズとか、なんか幼稚園児でも弾けるような、そういう楽曲にしたいなと。

一部抜粋

作品のテーマの大きさから、彼は普遍性のある楽曲でなければならないと考えたのです。
流行歌や話題性で終わってしまう曲ではなく、それこそ時代を超えても違和感なく聴いてもらえるような曲でなければならないと。

過去には「新海作品はアーティストのPV」などと揶揄されることもありました。
しかし今作は曲が前に出るのではなく、後ろからしっかりと支えることによって作品に重厚感が増しているのです。



遺された者の生き方

非常に重いテーマを扱う分、観客が息を詰めてしまわないようにとの工夫がしっかりとされています。

他愛のない日常のやり取りや、思わず笑ってしまうようなエピソード。
美しい自然の風景、住んでいる人ならすぐに場所が分かるほどリアルで詳細に描き込まれた背景。

主人公の少女・鈴芽は旅の最後に何を見つけ、何を知るのか
どうか彼女と一緒に旅に出てみてください。

重ねてご注意しますが、震災のトラウマがある方は決してご無理なさいませんよう。



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