夏生ミラノ

言の葉、言の羽を紡いでいます。

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最近の記事

[うたの素]『激しく同意』

『激しく同意』 チカラ任せの愛が 地図を切り裂いている 目指す新たな世界 犠牲やむなしですか 世界平和 公平無私  清く正しい言葉にひそんだ私利私欲 ああこの地で踊る 踊らされる 魂よ ああこの血は躍る 躍らされる 宿命で 激しく同意 激しく同意 あちらこちらで真逆の表明に手が挙がる それぞれ神が それぞれ降臨 投げたコインは答えをくらまして次世代へ どんな未来が見えて どんな使命を感じ 君はそこを発つのか 君の勝利はなんだ 気息奄々  喧々囂々 誰のせいでもない

    • [小説]『朔の日 歌う月の鳥』⑩

      <第十話 流星群のラララ>  「サクさん」と呼んでいたカフェ「朔(ついたち)」の店長を、 満月(みつき)さんと呼んだのはいつからだっけ。滝君に聞かれて、あらためて振り返る。 「それにしても」と、あれからちょくちょく泊まりに来るようになった滝君が、ノンアルコールサワーをグラスに注いで俺に手渡したあと「この間の林さんとモリエさんは、幼なじみとか友達というより、家族でしたよね」と言った。 「そうだな」  俺はにんじんをバーニャカウダソースに突っ込みながらうなずき、「籍を入れなくて

      • [小説]『朔の日 歌う月の鳥』⑨

        <第九話 ヨルから見えない世界>  心に大きなカナシミがある人にだけボクの言葉が届く。  カナタはそれを”神様からのギフト”だと言った。 突然の事故でパパとママがいなくなったカナタ。  そんなカナタに届いたボクの言葉が、カフェ「朔(ついたち)」の店主、 満月(みつき)さんに届かないことがずっと不思議だった。 だからニャーンと聞こえるだけだと思ってつぶやいたんだ。 「好きって言えばいいのに」って。 「満月さん、ひどいよ」  実はボクの言葉がわかることを六年も黙っていた満

        • [小説]『朔の日 歌う月の鳥』⑧

          <第八話 大潮の日の月>  カフェ「朔(ついたち)」を開店して六年。情報誌に「黒猫カフェ」とか「水槽に棲む猫カフェ」と、ヨルのことをメインに書かれるたびに、猫好きな客が来るけれど、当のヨルは話しかけられても知らんふりだ。とはいえファンは着実に増えている。 「無理もないよ。ヨルはただの黒猫じゃないからさ」  潮干狩りにやってきて、そのままゴールデンウイークの間泊まる予定のカナタが、大葉とサーモンのキッシュを手で持ち上げてかぶりつく。 「ただの黒猫じゃないの?」  レモン水を

        [うたの素]『激しく同意』

          [小説]『朔の日 歌う月の鳥』⑦

          <第七話 朔と共に生きる>  カフェ「朔(ついたち)」を経営する満月(みつき)は、その名の通り、満月に生まれた私の二女だ。 「じゃあその日の満月は、一生忘れられないでしょうね」なんて言われたことがあるけれど、出産した日に夜空を見上げることができる産婦はいるのだろうか。  予定日より早く、しかも陣痛が始まる前に破水してしまい、慌てて病院に連絡する私の傍らで、夫は月の満ち欠けを調べて「もし今日中に産まれたら満月だから、みつきだね。新月(しづく)と並べた時に、美しいな」と、長

          [小説]『朔の日 歌う月の鳥』⑦

          [小説]『朔の日 歌う月の鳥』⑥

          <第六話 胸のあたりの物語>  カフェ「朔(ついたち)」は、犬のような形をしたこの地方の前足にある、僕の叔母の満月ねえちゃんの店だ。  僕が「朔」に泊まりに行く日は、お正月にみんなで決めることになっている。おじいちゃんは黒いスケジュール帳を出して、おばあちゃんは大きなカレンダーを机にどんと広げ、満月ねえちゃんは携帯のスケジュールアプリ、僕は卓上カレンダーを持ってきて自分で書きこんでいく。春休みから始まって、ゴールデンウイーク、夏休みとページをめくっていくうちに、この一年も楽

          [小説]『朔の日 歌う月の鳥』⑥

          [小説]『朔の日 歌う月の鳥』⑤

          <第五話 六角形の中の三角>  カフェ「朔(ついたち)」は半島にある一軒家カフェだ。メインメニューは季節のキッシュ。今の時期なら白ねぎかな。春菊も面白そうだし、ゆり根とか?ほうれん草は定番すぎるか。ほうれん草と言えば、学園祭で満月が作ったマフィンはおいしかったな。  ドライフルーツを練り込んだパン生地を発酵させる間、こんなふうに思いを巡らせるのが、北海道に住む私、旧姓・澤田花苗(かなえ)の日課だ。  生まれた時から七年前まで住んでいた町はまだ秋。こちらでは初雪が降り、

          [小説]『朔の日 歌う月の鳥』⑤

          [小説]『朔の日 歌う月の鳥』④

          <第四話 晴れ渡る海>  カフェ「朔(ついたち)」の店主と話すと、いらいらする。だけど私、日々夏海(なつみ)は、開店時間の十時に「朔」のドアを開けた。 「おはようございま・・・ああ、夏海。いらっしゃい」 「今日のブランチキッシュ、なに?まあいいや、なんでも。飲み物はアイスコーヒーで」  ああ疲れた。今日も朝から本当に忙しかった。ただでさえ給食センターの都合で小学生は弁当持参になって慌ただしかったのに、息子のヤツ、弁当を玄関に忘れていきやがった。自転車で追いかけようにも、おば

          [小説]『朔の日 歌う月の鳥』④

          [うたの素]『命に別条ありません』

          『命に別条ありません』 からまわりの 遠回り 結果オーライ 目指して 全身全霊 満身創痍  嫌われてもかまわない そう見えますか だからか 土足のままで ようこそここへ いろんな人が いろんなコトを いろんな立場から 言うじゃないですか こんなに痛い こんなにツライ だけれどニュースなら こう言うだけです 『命に別条ありません』 こころがわり 様変わり 矛盾往来 過去から 引っ張り出した 情報削除 「こうあるべき」の呪いが ああ見えますか あなたも 共感しましょう 

          [うたの素]『命に別条ありません』

          [小説]『朔の日 歌う月の鳥』③

          <第三話 ヨルから見た世界>  カフェ「朔(ついたち)」の店主は、変わり者だ。でないと、お店のイメージに影響するインテリアの水槽を猫の住処にしようなんて、まず考えない。いくら、改装する前に猫が勝手口で、うずくまっていたとしても。 「ヨル、今日は下に降りるの早いねー」  仕込みを始めるために降りて来た店主、つまりボクの飼い主、満月(みつき)さんが、あくびをしながら、一階の冷房スイッチを入れた。 「今日からカナタが来るからよろしくね」  カナタとは満月さんの小学生三年生の甥だ。

          [小説]『朔の日 歌う月の鳥』③

          [小説]『朔の日 歌う月の鳥』②

          <第二話 チョコレート>  カフェ「朔(ついたち)」は、以前も飲食店だった居抜き物件で、壁に水槽がはめこまれていた。水槽の向こう側はメンテナンス用のスペースになっていて、二階のロフト付きワンルームへ続くらせん階段がある。 「まさかこんなことになるなんてねー」  この店舗兼住宅の大家である森さんは、ティーポットの横に置かれた砂時計をつまみ、さらさら落ちる青い砂を眺めながらつぶやく。砂時計をかざした向こうにあるのは水槽だ。 「これからも、大好きな熱帯魚が見られると思っていたのに

          [小説]『朔の日 歌う月の鳥』②

          [小説]『朔の日 歌う月の鳥』①

          <あらすじ> 半島にあるキッシュ専門店「朔」は水槽に猫が棲んでいるカフェ。でもその猫にはヒミツがあって・・・?そこに訪れる人達の日常のひとコマを描くオムニバスストーリー。 <第一話 カフェ朔(ついたち)>  まずタルト生地を作る。 卵、溶かしバター、砂糖を入れながら混ぜて、最後に小麦粉を入れて、手でこねる。ヘルシーにするならバターではなくサラダ油のほうがいいのだろうが、毎週土曜日に来る客に「これ好きだな」と言われた時はバターを使っていたので、以来なんとなく週末ブランチのキ

          [小説]『朔の日 歌う月の鳥』①

          [エッセイ]『境界の草原』

          「境界の草原」 死んだはずの母が生きていた。 正確には、いつのまにか部屋で寝ている。 母が死んだのはいつだったか。 生きている方がつらそうな母が、 動けない体から解放されたあの日、 悲しみとは違う涙が出たように思う。 眠る母を見下ろしていると、 姉がやってきて「かわいそうに。洗ってあげなくちゃ」と 母を抱き起こした。 乾いた泥にまみれた体は、ところどころヒビが入っている。 姉は母をそのまま湯船に入れると栓を抜き、 お湯を出しながら撫でるように泥を落とし始めた。 どれだけそ

          [エッセイ]『境界の草原』

          [うたの素]『土曜日のきりん』

          『土曜日のきりん』 週末たずねてしまうのは あなたの泣き顔見てからよ 仕事を理由に無茶ばかり さみしさかくすスケジュール Cheer Up  ほんとに弱い人なら待つこともできないよ? 土曜日のきりん  彼の帰りを 日めくりのハートで待っている 真夜中のきりん 息をつくたび まんまるの月がぼやけてく 約束できないまっしろな 未来は誠実すぎるから あなたは自由が檻になる ただただ好きでそれだけで Believe You だれでもラクな恋へとつまさきを向けるけど 待ちぼ

          [うたの素]『土曜日のきりん』

          [うたの素]『ドレッシング・ドレッシング』

          『ドレッシング・ドレッシング』 真実だけがいいんだとあなたが わたしのすみずみまで  こんなところにまで入り込む  たとえば今夜はレタスのベッドで  ふわふわのアルファルファ   くたくたになるまでやめてくれない かきまぜて かきまぜて わたしたち とろとろになれるまで ふりそそぐ ふりそそぐ わたしたち 闇も光も スパイスにして オイルなあなたビネガーなわたしは 触れ合うひとときだけ 夢中だけどあとは冷めてるの  たとえば明日はポテトなまくらに  ベタベタな夢をみ

          [うたの素]『ドレッシング・ドレッシング』

          [うたの素]『カミサマの言うとおり』

          『カミサマの言うとおり』 正しい声は 自信に満ちて まっすぐ切り込んでくる 正しい人よ 目をそらしてよ しばらく考えたいんだ 記憶と経験と想像と 悲観と楽観が 駆け巡る 駆け巡る カミサマの言うとおり あの時やめときゃよかったんだよ だけど カミサマの言うとおりにしたら あの時やっときゃよかったと ずっと思い続けるんだろうな  ずっと 心の声は 自由が過ぎて 知らない 願いの宝庫 言葉を選び 嘘もつかずに このまま生きてゆくのかな 時間の逆算に意味はない 俯瞰と仰望

          [うたの素]『カミサマの言うとおり』