四十日目 キャンディー
昔から、女子といる方が気が楽だった。
外で泥に塗れてサッカーをするよりも、内でシール交換をしている方が楽しかったし、下世話な話で盛り上がるより、恋バナをしたかった。
でも、好きになるのはいつだって。
「わぁ、今日も玲央のお弁当可愛いね」
香澄は、私のお弁当を見て、目を輝かせて言った。
「ふふっ、今日も朝早起きして、頑張っちゃった」
「唐揚げ、ちょーだい」
志穂は、表情を変えずに真顔で言った。でも、ずっと一緒に過ごしていると、志穂のこの表情はテンションが高い時だと分かる。
「いいわよ、どうぞ」
「その筑前煮も欲しい……」
「もう、志穂ちゃん、ダメだよ。玲央の食べる分なくなっちゃう」
香澄はそう言うと、代わりに自分のおかずを志穂のお弁当に入れてあげていた。
私はそんな二人のやりとりを見て微笑んだ。
香澄と志穂は、高校に入って、初めてできた私の大切なお友達。
二人とも優しくてマイペースで、私は彼女たちと過ごしている時間が居心地が良くて好きだった。
でも、最近気になっていることがある。
「ねぇ、玲央?」
「へ? あぁ、何かしら」
「……また綿貫さんを見てた」
私は志穂の言葉にドキッとした。
「いやだ、そんなことないわよ」
慌てて否定するも、二人はもう気がついているのかもしれない。
__綿貫透さん
最初は、艶やかな髪が綺麗だと、その後ろ姿に惹かれているだけだった。
(ヘアケアのメーカーどこかしら)
でも、あの日。
「玲央くん」
私は、綿貫さんに名前を覚えられていることに驚いた。私の戸惑いを感じとったのが彼女は「すまない、みんながそう呼んでいるからつい」と言った。
「あぁ、いいのよ。好きに呼んでちょうだい。それで何か用かしら?」
私が尋ねると、綿貫さんは、手をつき出した。私が首を傾げると、綿貫さんは続けた。
「君、風邪気味だろう。国語の時間、朗読がいつもより辛そうだったから。これを舐めると良い。私も喉が痛い時は、いつも舐めている」
「あら、ありがとう」
「あぁ」
「……!」
私は彼女のその笑顔に、心を奪われたの。
結局飴はもったいなくて舐められなかったんだけどね。
この想いはもう少しだけ、私の中に秘めさせて。
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