水の少女6

予備校に通い、時々耕太と2人で図書館に集まり勉強をする。
そんな毎日を続けていたある日の昼、ふいに祥子さんの事を思い出し、
あのいつもの秘密基地へと向かった。

外に出ると夏の日差しはきつく、僕の肌をじりじりと焼いた。コンクリートも焼き窯のように熱せられ、陽炎がゆらゆらと僕の視界をゆがめている。町を歩く人々はそんなことはお構いなしとまっすぐ前を向いてどこかへと忙しなく歩いている。そんな人々の合間を縫うようにして、路地裏へと逃げ込んだ。

空き地は相変わらず人の手が入っておらず、強い日差しと高層ビルの陰で、強いコントラストを描いていた。車の走る音や何かの音楽が遠くで聞こえ、こっちではかえって風の音や靴が砂利を踏む音のほうが大きく聞こえる。そこはまるで都会の喧騒から切り取られた箱庭のようだった。

いつも座っている建築資材に腰を下ろし空を見上げるとどこまでも青々とした果てしない空間が広がっていた。そんなふうにぼんやりとした時間を過ごしていると、ふと心の中にどこかよそよそしい空虚な気持ちがあることに気づいた。なぜそんなことを思うのか考えていると、ふと彼女の姿が目に浮かんだ。祥子さんだ。

思い返せば空き地に来ると必ず彼女がいて、僕の話を聞いてくれていた。いまや祥子さんは僕の中でこの空き地の一部と化し、そして大きな、重要な位置を占めていた。そんな祥子さんが今日は居ない。
なんとなく物悲しい気持ちになり、空き地を後にしようと考えた。しかし、もしかすると祥子さんが来るかもしれない、という希望を捨てることが出来ず、その空間から出ることが出来なかった。
数分経ち、数十分経ち、あんなに強かった太陽もビルの陰に隠れ、空き地も影一色になったころ、僕に諦めの気持ちが生まれた。
(そうだよな、祥子さんはいつもここにいていつでも会えるような気がしていたけど、そうじゃない日もあるよな。実は会えていた日々のほうが奇跡的で、実はぎりぎりの確率で僕たちの関係は成り立っていたのかもしれない。)
そう思うと、当たり前だった日常がどこか遠く、希少なものであるもののように感じた。そして次に会ったときは連絡先とか、住所とか聞かなくてはいけないな、と思い空き地を後にした。

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