natsumi

都内在住の28歳。小説を書いてます。意見など下さると嬉しいです。

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最近の記事

水の少女10

空き地に着くとやはり誰もおらず、しかし様相は大きく変わっていた。 空き地の入り口には建築看板が立ち、黄色と黒のロープが腰のあたりまではってある。空き地内の雑草は全て取り払われ、土が掘り返されており、以前僕と祥子さんで座った古い建築資材はもうすっかりなくなり、全て新しいものに変わっていた。 以前漂っていた閑散とした空気はなく、そこには明らかに何かが動いている気配があった。しかし幸いにも今日は工事が休みらしく、人は誰もおらず辺りは静まり返っている。 僕はロープをまたぎ、中に入った

    • 水の少女9

      それから何か月かが過ぎていった。 周りはすっかり受験モードとなり、僕もそれに違わず毎日受験勉強に明け暮れた。奈緒美とは週に何度か一緒に昼食をとり、互いの事について話しあった。 奈緒美は周りも自分も受験受験で気が狂いそうだ、と愚痴を漏らしていた。 また、耕太とも月に1・2度会って、市内の図書館で勉強などをした。 耕太は夏休みから随分と成績が上がったらしく、成績を母親に褒められた、と喜んで話をしてくれた。 僕はあの後何度かあの空き地に訪れたことがあった。 しかしやはり祥子の姿

      • 由無し事 1

        家について考える。家とは、家とは一体何なのだろうか。一般論な自分が答える。 「安らげる場所、安心できる場所、必要な場所」 もう一方の自分が答える。 「だがしかし、家の存在に悩んでいる人は多い。自分自身、学生時代はここに居るべきではない、と考えていた。必ずしもそうとはいえない。」 では一体、家とは? 長い時間を過ごす場所、とはいえそうである。見覚えのある場所、知ってる場所、懐かしい場所。 考えてみると悩んだり、嫌だと思うのはそこに居る人、つまり人間関係の問題であり、場所や風景に

        • 水の少女8

          「あ、久しぶり。元気だった?」 ある日の放課後、ふいに祥子さんの事を思い出し、うっすらと暖色に変化しつつある街を抜けて、あの空き地に足を運んだ。するといつものように建築資材に腰を下ろして祥子さんがぼんやりと空を眺めていた。 「うん、久しぶり。最初にあった時よりかは元気だよ。」 「そうなんだ、確かに顔つきもしっかりしているように思うよ。」 「そうなの?自分じゃよくわからないけど…。」 僕は彼女の隣に腰を下ろして、同じように空を見上げた。 日もすっかり短くなり、辺りは暗くなり

        水の少女10

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        • 水の少女
          10本

        記事

          水の少女7

          「あなたってイジメられてるって聞いたけど、ホント?」 唐突な言葉。頭の中を色々な言葉が駆け巡る。急になんなんだ、そういう君はだれなんだ、こんな所を見られて恥ずかしい。しかしどのセリフも僕の口からは出ず、目の前に立っている女の子の顔を只見つめることしかできなかった。 あの茹だるような夏休みも終わり、どの学校でも2学期が始まっていた。耕太と僕は最終日に受験勉強と夏休みの宿題を終わらせて、各々の検討を祈りあい、そして週末にはまた会って一緒に勉強しようと約束してお互いの日常に帰って

          水の少女7

          水の少女6

          予備校に通い、時々耕太と2人で図書館に集まり勉強をする。 そんな毎日を続けていたある日の昼、ふいに祥子さんの事を思い出し、 あのいつもの秘密基地へと向かった。 外に出ると夏の日差しはきつく、僕の肌をじりじりと焼いた。コンクリートも焼き窯のように熱せられ、陽炎がゆらゆらと僕の視界をゆがめている。町を歩く人々はそんなことはお構いなしとまっすぐ前を向いてどこかへと忙しなく歩いている。そんな人々の合間を縫うようにして、路地裏へと逃げ込んだ。 空き地は相変わらず人の手が入っておらず

          水の少女6

          水の少女5

          照りつけるような太陽。 それを受けて揺らめくコンクリート。 夏も真っ盛りな8月の頭、僕は近くの予備校の夏期講習に通っていた。 予備校に行くまでは町の大通りを通らねばならず、そのたびに汗だくになりながら熱せられたアスファルトの上を、とぼとぼと歩いて通った。 しかし、そうやって通った予備校の先生は活気があり、教え方がうまかった。 おかげでいじめられていた間受けられなかった授業の内容を取り戻すことが出来た。そして中間で受けた模試の結果はまずまずの判定で、僕はほっと、胸をなでおろし

          水の少女5

          水の少女4

          「そっか、話せたんだ。よかったね。私も少し安心だよ」 「うん…母親に心配かけて申し訳ないよ、僕は。」 次の日の夕方、空き地の土管の上。 母親にイジメの事を伝えた、というと祥子さんは少しほっとしたようだった。 「はぁ…、君も、なんていうか、強情というか、気を使いすぎるというか…。きっとお母さんだってそのことを知らないよりかは 知ることが出来てうれしかったと思うよ。」 「そうかな」 「そうだよ。あのね、自分が好きな人についてはたとえどんな事実であったって知って共有したいと思う

          水の少女4

          水の少女3

          それから数日が過ぎた。 高岡君や吉岡君は相変わらず色々ないたずらを僕に仕掛け、そのたびに僕は周囲の人に怪しまれないよう取り繕わなくてはいけなかった。 どうしても嫌な事があった日はあの空き地に行き、祥子さんと話をした。 僕は自分の対処を決めかね、とくに何もできずに只その日常を流すことしかできなかった。 「あなた、これどうしたの!?」 夏休みを間近に控えたある日の夜。 居間に水を飲みに来た僕は、母のヒステリックな声で呼びつけられた。 母の手によって目の前に広げられたノート。そ

          水の少女3

          水の少女2

          キーンコーンカーンコーン…とチャイムの音が鳴る。今の僕にとって一番聞きたくない音だ。 「おい、サッカーしようぜ」 「いいぜ。でもボールはどうする?」 「そこにちょうどいいのがあるじゃねえか、なあ」 高岡君のあざ笑うかのような視線が突き刺さる。 祥子さんに会った翌日、憂鬱な学校での日常に全くの変化は見られず、相変わらず高岡君と吉岡君は僕を憂さ晴らしの道具か何かだと考えているようだった。 「おい、シカトこいてんじゃねぇ…よっ!!」 僕の椅子が大きな音を立ててガタン、と横に揺れた。

          水の少女2

          水の少女1

           その日は小雨が降っていた。  ぼくはその日2か月前にクラスメイトになったばかりの高岡君と吉川君に暴力をうけ、痛む手足抱えて帰り道を歩いていた。4月に父親の転勤で田舎から東京に転校してきた僕をヨソ者として認識した彼らは、来年に控えた高校受験のプレッシャーからくるストレスのはけ口として僕を利用する事に決めたらしい。最初は小さないたずらやちょっとしたイジり程度だったものが、日に日にエスカレートし、あからさまな「イジメ」行為となっていった。  活気に満ちた商業施設の隙間を歩きながら

          水の少女1