水の少女4

「そっか、話せたんだ。よかったね。私も少し安心だよ」
「うん…母親に心配かけて申し訳ないよ、僕は。」

次の日の夕方、空き地の土管の上。
母親にイジメの事を伝えた、というと祥子さんは少しほっとしたようだった。

「はぁ…、君も、なんていうか、強情というか、気を使いすぎるというか…。きっとお母さんだってそのことを知らないよりかは
知ることが出来てうれしかったと思うよ。」
「そうかな」
「そうだよ。あのね、自分が好きな人についてはたとえどんな事実であったって知って共有したいと思うよ。君はちょっと抱え込みすぎる。」
「うん、むずかしいね」
「まあ、話しづらいけどね、実際。」
「うん、多分ノートが見つからなかったら僕は話せなかったと思う。」
「緊張した?」
「とても。」
「そっか、それはお疲れ様。」
「うん」
「私にはよくわからないけど、そういう強さを積み重ねていけば、君はきっとうまく行くと思うよ。」
「…そうかな」

僕は空を見上げてぼんやりと昨晩の事を思い返していた。
空は夕暮れも終わりだんだんと暗くなりつつあった。
空き地の木ではヒグラシがカナカナカナ…とないている。

「もうすぐ夏休みだね」
「夏休みの間、祥子さんはここに来る?」
「どうだろう。旅行とか行くし」
「旅先で水になったらどうするの」
「そうだな…トイレにでも行こうかな」
「…混ざっちゃわない?」
「トイレが広いことを祈るよ。
君はどこか行くの?」
「僕は受験生だからなぁ。予備校にでも通うよ」
「新しい友達が出来るといいね。」
「そうだね。でも勉強しに行く場所だからな、どうだろう。」

祥子さんは あ、とつぶやいて、指先を見つめた。
また水になりつつあるようだ。

「それじゃ、またね。」
「うん。」

祥子さんが気を失うと、辺りはすっかり夕闇に包まれていた。
辺りはしん、と静まり返り、大通りの人の行き交うざわざわした音が聞こえてきた。

夏休みが始まる。

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