煙る風にも意味があるなら

 昨日初めてタバコを吸った。ニコチンもタールも入っていないからタバコと言えるのかもわからない。ただ空気以外のものを吸い、空気以外のものを吐いた。それだけだ。だが、なぜか満たされた。吸い心地の悪い空気もこれと共になら吸える気がした。
 元々肺や気管支が悪い。早死にできるかな〜という下心はなかったといえば嘘になる。なぜ害のあるものを吸わなかったのか。それは、少し怖かった。戻れなくなる気がした。今の私には贅沢すぎる快楽だと思った。妥協をしたわけではない。ただ、吸うならこれがいいと思った。美味しかった。確かに私はどうしようもないほどクズだ。お酒も美味しく無くなって、いつか何も感じなくなるのではないかと思った。何も感じなくなる前に何がしたいかと考えた時、タバコと宗教だった。薬は昔、市販薬をやっていたが楽になれなかった。有ればしたい気持ちになり、なければそれなりにストレスを抱えた。だがタバコは違う。しっかりと「喫煙所」という息をしてもいい場所がある。薬よりも理解されると思った。同じ人が近くにいる。それだけで何か救われるかもしれない。何か変わるかもしれない。死ぬ前、逃げようという気持ちが働いた。こんなことよくないのかもしれない。でも、私は、一瞬、ひと時、できれば5分。何かに逃げてみたかった。これだけは、これをしていたら。手軽にできるものをしてみたかった。

 何もかも面倒臭かった。集団で話している時、ふとした瞬間に一人になりたくなる。二人とかなら大丈夫。でも、人が多いと疲れてしまうのだ。その時に逃げられる何かも欲しかった。本当に堕ちている。綺麗に綺麗に堕ちていく。死ぬ前には本物を吸ってみたい。そういう楽しみがあってもいいじゃないか。

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