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アマ・ダブラム紀行 第11話

10月25日、いよいよ最後の挑戦がはじまった。泣いても笑ってもあと4日で全てが終わる。そう思うと、自然に気持ちが高まってくる。

午前9時、もう何度登ったのか分からない取り付きの丘をゆっくりと登っていく。いつも通り2時間かけてハイキャンプまで歩き、いつもと同じ岩に座って熱いお茶を飲みながら南西稜の先にそびえるアマ・ダブラムを眺めた。多少の雲はあるが、風はなく、頂もよく見えている。これから行くルートを目で追い、キャンプ1まで高度を上げていく。

尾根まで上がってキャンプ1、そして、翌日、キャンプ2へと登っていた。激しいロッククライミングに呼吸は乱れ、肋骨も痛むが、黙々と先に進む。キャンプ2もすでに三度目、高度障害はほとんどなく、難所のイエロータワーもそれほど苦労はしなかったが、それでもやはり空気は薄くなっているのがよく分かる。

前回から設置されたままのテントに入るとすぐに氷を溶かして大量の水を作り、時間をかけて紅茶を1リットル飲んだ。午後になると次第に雲が増え始め、雪が降りだしてきた。少しだけ不安がよぎるが、気にしても仕方ない。シュラフに潜り込むと疲れていたのかすぐに意識が遠くなっていった。

息が苦しくて目が覚めた。明らかに体に酸素が足りていない。1時間ほど眠ってしまい、呼吸が浅くなってしまっていたようだ。再び標高6000mの世界に戻ってきたな、そんなことを考えながらゆっくりと深呼吸を繰り返し、意識を回復させていく。

夕方、テントの外に出て、明日上がっていくアマ・ダブラムを眺める。改めて見るとものすごいルートだ。頂上までほとんど座れる場所もなく、そのまま垂直の壁が続いている。

ここまでも十分険しい道のりだったが、さらに厳しくなっていく。まるでキャンプ2は別世界との境界線のように思えた。ここから先はアマ・ダブラムの懐の中に入って行く。


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