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アマ・ダブラム紀行 第6話

朝、太陽が昇るのと同時に目が覚めた。2時間以上続けて眠ることは出来なかったが体調は悪くない。一度、標高の低いベースキャンプまで戻り、休養日をもうけて体を回復させた。

2日後、再度、ハイキャンプ、キャンプ1、そして今度はキャンプ2まで進んでいく。キャンプ1から上は切り立った稜線を歩き、いくつもの岩壁をロッククライミングしながら登っていかなくてはならない。

キャンプ2の直下までやってくるとイエロータワーと呼ばれる壁が現れた。イエロータワーはアマ・ダブラム登山においていくつかある難所のひとつで、これまでよりもさらに厳しい絶壁を標高5800mの高さでクライミング。僕の前を行くシェルパでさえ何度も止まりながらゆっくりと登っている。

イエロータワーを見上げ、比較的登りやすそうなルートを確認し、壁に取り付いた。足を数センチもないくぼみに引っ掛け、右手の登高器を頼りに腕力を頼りに登っていく。激しい運動にすぐ腕に乳酸が溜まり、息が苦しくなる。

足を滑らせ、何度も落ちそうになりながら少しずつ高度を稼ぎ、なんとかイエロータワーの上に辿り着いた時、立っていられないほどの疲労感に襲われた。いくら深く呼吸を繰り返しても上手く酸素を取り込めない。倒れこむようにキャンプ2のテントに入り、横になりながら時間をかけて2リットルの紅茶をゆっくりと飲んでいった。

この日、朝からほとんど水分を取らず、標高5600mから400m近く激しいクライミングを繰り返してきた。重たい頭痛や吐き気などあきらかに高度障害の初期症状が現れている。夕食に食べたインスタントヌードルやさっき飲んだ水も全部吐いてしまった。

少しでも寝ようとしたが、眠りに落ちそうになると息が苦しくて目が覚める。このまま寝たらもうずっと目覚めないのではないかという錯覚に何度も襲われた。結局、ほとんど眠ることが出来ずに朝を迎え、ボロボロの体を引きずりながらベースキャンプへと戻っていった。

今まで頭が重いといった程度の高度障害は経験したことはあったが、ここまで重度のものは初めてだった。ここからさらに1000mも登っていく、しかも、さらに厳しい垂直の氷の壁を。

本当に自分にそんな事が出来るのか、不安ばかりが頭の中をぐるぐると回り、ベースキャンプに降りても気持ちが上がって来ない。それと同調するように体調も悪く、食べたものや飲んだものを吐き続けた。

こんな状況でも登らならければならない、逃げることは出来ない。誰のためでもない、自分の為に。気持ちさえ戻れば、体も付いてくるはずだ。アタックに向けてベースキャンプのテントにこもりながら必死に心を鼓舞し続けた。

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