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マーカーを引くように”帯る” 私のnoteシェアのかたち

【帯る(おび る)】
noteをシェアする際、本の帯をつけるように紹介文やコメントを添えること。「Twitterで─。」
(※間違っていたら教えてください)

noteでたまに見かける”帯る”という言葉、当初はハテ?と見守っていたのですが、ハッと意味を理解してからはそのセンスに唸りました。なんて粋な言い回し。

”帯る”ことに注目すると、同時にいくつかハードルがあることにも気づきました。


・どんな紹介文をつけていいかわからない。
・(Twitter連携されている方がほとんどのため)相手に通知が届くことに気おくれする。
・そもそも、シェア自体が迷惑にならないか。

どれも正解のない悩みです。
シェアされる方がどう思うか、なんてケースバイケース。非常に難しい問題ですからひとまず脇に置いて、
どんな紹介文をつけるか、について私のやり方を紹介したいと思います。

と言っても、タイトル通りシンプルです。マーカーを引くように”帯る”。
紹介文、というとハードルが上がりますが、気に入ったフレーズ、気に入ったセンテンスを抜き出して、一言、二言、添えるだけ。

つい全体的な感想をまとめようとしがちですが、私の語彙力ではなんとなくぼんやりしてしまって、こねくりまわした挙句、なにか違う、という残念な結果になることも。
例えば、島崎藤村『力餅』を140文字以内でご紹介するとき。

「島崎藤村が木曽で過ごした少年時代を語り聞かせてくれるような自伝的短編童話集。セミや牛など身近に暮らす動物たち、豊かで厳しい自然のこと、母やのどかな村人たちのこと。少年らしいまなざしで描かれるふるさとのスケッチ。」

総括すればこのような作品ですが、少年らしいまなざし、という表現に幅がありすぎるように感じます。
この作品は、1940年、島崎藤村68歳のときに発表されたもので、
若者のような血気盛んさ、荒々しさはそぎ落とされ、凪いだ湖面のような穏やかな筆致で
思い出が綴られていきます。
そこで、次のように直しました。

「『わたしの母はわが家の庭にあるほおの木の葉をとって来まして、それに塩のおむすびを包んでよくわたしにくれました。
(中略)あのほお葉のにおいをかぎながら食べられる熱い塩のおむすびはわたしが好きなものの一つでした。』
島崎藤村が少年時代をやわらかく描く、ふるさとのスケッチ。」

ほお葉のにおいのする塩おむすび。爽やかな香りのするほお葉の香りと、炊き立てでふっくら湯気のたつ白米の甘さ、うまみを引き立てるひとつまみの塩。ああ、実においしそうです。

さて、ヨダレを拭いて解説すると、ほお葉は抗菌作用があり、また比較的熱に強く、
子供の顔ほど大きなサイズであることからもよく料理の皿に使用されています。
特に木曽では、郷土料理として乾燥させたほお葉の上に味噌と食材を乗せ、網焼きにするほお葉焼きというご馳走があり、ほおの木は生活になじみ深い樹木のようです。
ほおの木についての予備知識がなくたって、庭からほおの葉をとってくる、という一文から、日常がうかがえると思いませんか?
また、熱いおむすびでやけどしないよう、ほお葉にくるんでくれるひと手間にも愛情を感じます。

強い感情の揺れはなく、しみじみと語る思い出の数々。しかしエピソードの端々には熟練された技巧が満ちて、まるで懐かしいふるさとを訪れたような郷愁へいざなわれます。

言葉は微妙で繊細なものですから、心震えた部分を切り出してシェアするほうが、
私が拙い言葉を尽くすより、作品の魅力を余すところなく伝えられるように思えます。
紹介して読んでくれた人にも、読後にこのフレーズが響くのか、また別の一文が気に入るのか。帯を書いたこちらもドキドキします。

また、作者にとっては、心に響いたフレーズを知ることができます。
「スキ」や「シェア」だけでも嬉しいのに、この一文、この描写が好きです、というコメント付き。
なんとも作者冥利に尽きる賛辞ではないですか。

そして、シェアした投稿は自分自身の備忘録にもなるのです。
noteアイコンのかたちもあり、各作品は"note"という大きな書店の に並ぶ一冊の本のようです。
本棚に並べるように自分の「スキ」を一覧にするだけでなく、
読書メモのように”帯る”ことで、より一層作品に親しむことができるのではないかと思います。
そして、読み直した時には、また違った部分に心惹かれるかもしれません。


ちなみに、島崎藤村『力餅』は青空文庫に収載されています。
気になった方はぜひご覧ください。
最後に、私の好きなエピソードをもう一つ。

五 いもやきもち
うちじゅうのものはいろりばたに集まりまして、鉄の渡しの上に並べたのがこんがりといい色に焼けるのを待つのです。
あの新そばのにおいのする焼きたてのいもやきもちに大根おろしを添えて食べるのもまた、わたしが好きなものの一つでした。
(島崎藤村 『力餅』 https://www.aozora.gr.jp/cards/000158/files/45121_70191.html

うちじゅうのもの、という言い回しに親しみがあふれ、仲の良さを感じます。
焼きたてのいもやきもち、そしてみんなで囲むいろりばた。
誰と、どこで、なにを、どんなふうに食べるのか。
おいしさ、の本質が、この短い文章に詰まっています。