チームで「しなやかマインドセット」を獲得する
はじめに
こんにちは、メタルは全てを解決するです。ナビタイムジャパンでVPoEを担当しています。
今回は、自分たちが成長できることを信じ前向きに行動していくために必要な「しなやかマインドセット」をチームで獲得するための方法について書いていきます。スクラムマスター、マネージャーなどチームづくりにコミットメントしている方がしなやかなチームを作り上げる一助になれば幸いです。
しなやかマインドセット
しなやかマインドセットとは、成長するために好ましいマインドセットとしてキャロル・S・ドゥエックが著作 ”マインドセット「やればできる!」の研究”で提唱している概念です。
しなやかマインドセットは、「自分の能力はどんどん伸ばしていける」と信じている、文字通りしなやかなマインドセットです。対照的に「自分の能力は固定的で変わらないものだ」と信じているマインドセットを「硬直マインドセット」といいます。
しなやかマインドセットが成長を促す
目標設定理論では、目標を明確に定義することの重要性とともに、難易度の高いチャレンジングな目標を設定することもまた、高いパフォーマンスを発揮するうえで重要であるとしています。
チャレンジングな目標は、今の自分たちが今と同じ働き方をしていては達成できないような背伸びしたものです。自分たちの能力は伸ばしていけると信じられること、つまりしなやかマインドセットを持つことは、チャレンジングな目標に向き合うための必須条件です。そして、チャレンジングな目標と向き合うからこそ、私達は成長していくことができます。
しなやかマインドセットが変化を後押しする
新しいことに取り組もうとした時、まずは失敗を経験することが少なくありません。何か新しいことに取り組むときには「その取り組みによって何を得たいか」、という期待が存在します。
しかし、自分たちはその取り組みを実施するのは初めてなので思うように遂行できず、期待とギャップのある結果を得ることになります。これが失敗という経験です。
初めて取り組むものがうまくできないのは当たり前のことです(学習の5段階レベルではそれが表現されています)。
このとき、硬直マインドセットだと失敗の体験が烙印となり、「自分たちはこれができない/むいていない」という判断になってしまいます。
一方、しなやかマインドセットであれば、「どうやれば熟達していけるか」という視点で再度取り組んでいくことになります。
硬直マインドセットを生む構図
しなやかなマインドセットは特定の才能に宿るものではなく、誰でも獲得できるものです。そのために個人が取り組むとよいことについては、こちらのnoteをご覧ください。
では、チームにおいては一人ひとりがしなやかマインドセットを獲得すれば、自動的にチームとしてもしなやかマインドセットに基づき行動ができるでしょうか。
組織には様々な力学が働きます。
例えば目標設定。
目標達成が個人の評価に直結し、100%達成が求められる場合、自分の目標を「達成することが想像できる目標」にしたくなります。
変化に関してもそうです。
「その方法、うまくいくんだよね?」「失敗したらどうするの?」など成功以外を許容しないような反応があれば、よほど確信や信念がない限り変化を起こすことは怖いことです。
想像がつく範囲で目標を立てる。失敗しないため変化を避ける。そのような行動様式はチームを硬直マインドセットへといざないます。
では、逆にしなやかマインドセットを育む土壌をつくるには?
達成ではなく努力と成長を求めること、失敗を許容することが大切になります。
当社でアジャイル開発の実践を広げていくときには、まさにこの転換が鍵となっていました。失敗を歓迎し変化しつづけるアジャイルの考え方を、価値観の中心に据える。それをガイドラインとして示し、浸透を後押ししていきました。
マインドは急には変わらない
では、チームとして新しい価値観を明確に打ち出すことができれば、そこにいるメンバーのマインドセットも一緒に転換するものなのでしょうか。
いいえ、人の心は一夜にして変わるものではありません。
頭で新しい価値観を理解していても、行動は古い価値観に引きずられます。昨日まで失敗が許されなかった組織で「失敗していいよ」と言われて信じられるかというと、なかなか難しいのではないでしょうか。
ここに、チームのマインドセットをしなやかに転換することの難しさがあります。
「言葉」でなく「心」で理解するための仕組みづくり
じゃあどうするか。自分たちが成長できること、失敗を歓迎することを言葉ではなく心で理解できるようにするしかありません。
1on1で理解を促す
失敗というものがチームにとって受け入れがたいものであるならば、まず1on1で個別にアプローチしていくことをおすすめします。
失敗は受け入れられない、というマインドであれば、他のメンバーの前で失敗について語ることを避けたくなります。
そのためチームで失敗について話し合うより前に、1on1を通して失敗を共に見つめ、そこから学んだことについて話し合います。そうすることで失敗の中にも学びがあることを知り、また失敗が責められるものではないということを理解し、チーム内で開示してもよいという気持ちを醸成していけます。
1on1をやっていてままあるのは、失敗は開示してくれるけれども、「自分のせいです」「至らないところがあるからです」と自責の念にかられているケースです。こうなってしまうと気が滅入ってしまいますし、目が向いているのが「どうやったらうまくいくか」ではなく「なぜうまくいかなかったか」なので前進するきっかけを得づらい状況になります。
そういったときに有効なのが「失敗体験の共有」、「リフレーミング」です。
失敗体験の共有
あなた自身が過去に失敗したこと、それをどう乗り越えたか、今の自分ならどう取り組むか、など共有してみましょう。できなかったところからできるようになったという経験の共有は、能力は固定的なものであるという硬直マインドセットの信念を揺さぶり、しなやかマインドセットへ転換する誘引となります。
リフレーミング
ネガティブワードが渦巻いている中では、うまくいくためのアイデアはなかなか生まれづらくなっています。そういったときはネガティブの中の肯定的意図を捉え、リフレーミングしましょう。
リフレーミング例:
◯◯だからうまくいかなかった→次はうまくやりたいですね。一緒にうまくいく方法を考えてみましょう!
チームで理解を促す
チームとして成長を促し、失敗を歓迎する文化を醸成するには、それを行動で示すことが大切です。起こった出来事にとって、チームとしてはこういう見解ですよという共通認識をもつ。自分たちのプロセスを定期的に見つめ、よりよくなるための方法を考える「ふりかえり」はそういった共通認識を形成する場としてうってつけです。
世の中には様々なふりかえり手法があります。チームがどのような実験を行ったかという観点でふりかえる「Celebration Grids」は、失敗を歓迎する風土を形成することを後押ししてくれる手法です。
詳しい実施方法についてはこちらをご確認ください。
一喜一憂せずメッセージし続ける
1on1で不安をとりのぞく。ふりかえりなどチームが集まる場で共通認識を作る。こういった取り組みは一度やって終わりではないし、なんなら一度では効果を実感できないことさえあります。なので、しなやかマインドセットをチームにもたらしたいと先陣を切ったその人が、忍耐強くメッセージし続けるということもまた大切です。
インド映画「RRR」において、以下の印象的なセリフが登場します。
このセリフの背景にあるのはヒンドゥー教の聖典のひとつである「ヴァガヴァッド・ギーター」で示される「あなたの職務は行為そのものにある」という精神性です。
しなやかマインドセットに転換するための試みがうまくいかなかったとき、そのうまくいかなかったという結果に執着するのではなく「これはうまくいかなかった。では、うまくいくための別の方法を探る」という、責務を果たすための行為の継続に邁進することが大切です。
しなやかさが宿るとき
行為を継続していくと、いつしかチームが変化していることに気づきます。
以下のような言葉が自然と出てくるようであれば、チームはしなやかマインドセットを獲得した、と判断してよいでしょう。
失敗しながら学ぶものだから、失敗は怖がらなくていいよ
この方法だとうまくいかない、とわかったことがこのスプリントの成果です
前回よりうまくできた!
(うまくいっていないことに対して)どうやったらもっとうまくできるか
私事ですが、当社でマネジメントを担当するようになってかれこれ10年ほどになります。その短くない時間の中で、硬直マインドセットだったチームがしなやかマインドセットへと転換していく姿を何度も見てきました。
そのベースには失敗してもよいという心理的安全性と、もっと成長したいという内発的動機がありました。このnoteで紹介した1on1やふりかえりの取り組みは、そういったチームのしなやかさを解き放つ部分的な要素です。本稿が、あなたのチームがしなやかマインドセットになる助けになれば幸いです。