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ウルトラセブン推し①ウルトラ「マン」セブンという誤解

二〇一三年、拙著の第一弾となる『ウルトラセブンが「音楽」を教えてくれた』が発売になってほどないタイミングで、友人夫妻が拙宅に遊びに来てくれた。積もる話が一段落したあと、友人の配偶者が言った。

「そういえば、青山さん、本出されたんですよね! ウルトラ「マン」セブンの」

すると友人は、「青山さんの前でそれ言っちゃいかん!」と、笑顔抜きで即座に訂正したのだった。私はたいへん恐縮しながらも、あらためて一般の方へのウルトラ「マン」セブンの浸透度合いを確認するに至った。

その後も、多くの方に私が本を出版した件について、声をかけていただいた。ざっくり体感的な内訳は、下記のような感じだった。

「ウルトラセブンの本」と言う人:40%
「ウルトラマンの本」と言う人:40%
「ウルトラ「マン」セブンの本」と言う人:20%

2013年~2022年の体感

それに対し私は、「ウルトラマンの本」と言われた場合は、相手が一般の方で時節のご挨拶程度なら「はい、そうなんです」と答えた。広義に「ウルトラマン関連の本」という意味合いで捉えるならば、誤りではないとも言えるからである。いっぽう、相手が出版業界の方であるとか、つまり日常から表現や表記に携わっているような方には、「すみません、「ウルトラマン」ではなく、「ウルトラセブン」です…」と恐縮しながら訂正していた。

・ウルトラ「マン」セブンには黙ってはいられないのである

さてさて。では「ウルトラ「マン」セブンの本」と言われたら、どうしたか。非常に悩みどころであった。もちろんそのように言う時点で、その方は「ウルトラセブン」についても「ウルトラシリーズ」についても、こだわりを持っていないことは明白である。(嫌がらせなら、むしろ高度であっぱれなのだが)。

そんな一般の方がせっかく挨拶代わりに声をかけてくださっているのに、それに対して気色ばんで「いや、「マン」セブンは誤りです。セブンにマンは入りません。そもそもウルトラは『ウルトラQ』から始まってですね…」と訂正しねちねちと説明モードに入るのは、きわめて大人気ない。
せっかくのご厚意なのに「あ〜、おたくの面倒くさいスイッチ入れちゃったよ…」とうんざりされては元も子もない。

とはいえ、ウルトラ「マン」セブンには黙ってはいられないのである。世の中がどんどんそっちの方向に行ってしまうのを、忸怩たる想いのまま看過してはいかん。

そこで私は、胸の前で両手の掌をあわせ、こうべを垂れてめいっぱいの申し訳なさを表すべく苦渋の表情を浮かべ、「ごめんなさい…ウルトラ「マン」セブンではなく、ウルトラセブンなんです…」とだけ、頭を下げながら消え入るような声でお伝えすることにしたのである。

・「マン」セブンは、どう広まっていくのか?

さて、そもそもこのウルトラ「マン」セブンという誤解は、どこでどう広まっていってしまったのだろうか? もっともシンプルに思い至ることとしては、「ウルトラセブン」以外のウルトラヒーローには「マン」が付いているからだと推測される。すべて「ウルトラマン〇〇」であるはずという無意識のうちの思い込みから、「セブン」もこれに自動的にあてはめてウルトラ「マン」セブンと思ってしまうという図式である。

若い世代の方で、平成以降のシリーズをなんとなく知っている程度の人は、大昔のこの作品だけ「マン」が付いていないということなど知らないし、そもそもどうでも良い話だろう。
また中高年世代においても、一般的な興味しかない人であったら、昔の記憶も曖昧なままシリーズすべてに「マン」が付いていると思っているのかもしれない。

もともと、円谷プロダクションの空想特撮シリーズ第一作は「ウルトラQ」であり、そこに「マン」は付いていなかった。この作品にはウルトラヒーローは登場しないので、この名前には何の問題もなく今日まで来ている。
空想特撮シリーズ第二作は、「ウルトラマン」。そして次の「キャプテンウルトラ」もまたウルトラヒーローは登場しなく、さらにこの作品は円谷プロではなくTBSとしてのウルトラシリーズ第三作であったため、全く俎上には上がって来ない。
そして空想特撮シリーズ第三作(TBSの第四作)が「ウルトラセブン」、そして「帰ってきたウルトラマン」と続き、次の作品がある種の分岐点となる。

東京・小田急線 祖師ヶ谷大蔵駅にて自分で撮影

それは、当初「ウルトラA(エース)」という名前だった。ところが、商標権の問題から放送直前になって、「ウルトラマンA(エース)」と変更された。そしてこれ以降のウルトラヒーローは「ウルトラマン〇〇」と冠されるようになり、「ウルトラセブン」だけが例外となってしまった(誤りなどあればご指摘ください)。

さて、「ウルトラセブン」が凡庸で人気のない作品ならば、この件がこれほどの物議をかもすテーマにはならなかったのかもしれない。しかし、「ウルトラセブン」はシリーズ屈指の名作で金字塔とも言われ、こんにちに至っても熱狂的なファンやマニアを持ち続けている作品である。ファンの熱さとこだわりは(私も含め)尋常ではない。

・ついにキー局のテレビ番組でお詫びと訂正!

そんななか、昨今のインターネットの発達により、この件へのファンのテンションが「見える化」される出来事があった。二〇二一年八月、テレビ朝日がなんと番組のテロップに「ウルトラマンセブン」と出してしまったのだ。
瞬く間に、抗議の書き込みが殺到したのだろう。「ウルトラマンセブン」という言葉がネットのトレンドワードのベスト一〇入りを果たし、番組の最後でアナウンサーの方がお詫びと訂正をするに至ったのだ。


残念ながら私はその番組を観ておらず、パソコンの画面上に表示されたトレンドワードの上位に「ウルトラマンセブン」という九文字を見つけて驚愕し、事の顛末を知ったのである。

この話の結びとして、「ウルトラセブン」音楽監督・作曲の冬木透先生のお嬢様で、俳優の岡本舞さんのエピソードを。私がSNSで実施したウルトラ「マン」セブンについてのアンケートを見て爆笑され、その後お電話で「私、五〇年訂正し続けているんですよ」とのこと。さすがそのご苦労は筋金入りで、私があれこれ言う次元ではありませんでした。

と締めくくるつもりだったが、その後当時四歳前の孫と初めて「ウルトラセブン」を視聴した後のこと。私はウルトラセブンを名乗ってスマホから家電に電話をかけ、孫と電話で話すという遊びを考えた。

私:「もしもしウルトラセブンですが、〇〇君ですか?」
孫:「はい〇〇です」
私:「今、何のテレビ番組観ていましたか?」
孫:「ウルトラ「マン」セブン」

2021年秋頃

なんと、「ウルトラセブン」に初めて接したばかりの三歳児の口から、ウルトラ「マン」セブンが発されたのだ。彼もすでに保育園の友だちから「ウルトラマン〇〇」という言葉を聞いていたのだろう。そしてそこに「セブン」を当てはめたのだと推測される。先の仮説は合っているようだ。そしてこうなってしまう回路、かなり強力かもしれない…。


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