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【インタビュー】ドイツ・バイエルン放送が仕掛ける「デジタル・オンリー」という新たな試み

ドイツ・バイエルン放送(Bayerischer Rundfunk、通称:BR)がクラシック音楽レーベル「BR-KLASSIK」を設立したのは2009年のこと。以降10年に渡り、放送局傘下のオーケストラのライブ録音を中心に100を超えるアルバムをCDとしてリリースしてきました。音楽監督マリス・ヤンソンス指揮によるバイエルン放送交響楽団の「ベートーヴェン:交響曲全集」は、今でも同レーベルのベストセラーです。

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レーベル発足から10周年という節目の年、BR-KLASSIKが新たに仕掛けるのが「デジタル・オンリー」という試み。CDとしては販売せず、オンラインの配信サービスのみを対象とし、過去にリリースされたことのない初出音源を中心にデジタルだけで配信していくとのこと。2019年9月にこの「デジタル・オンリー」で配信開始となったのが、ヤンソンス指揮による下記の2作品。ストラヴィンスキーの1919年版「火の鳥」組曲(録音:2013年3月)と、チャイコフスキーの幻想的序曲「ロメオとジュリエット」(録音:2015年10月)。

「デジタル・オンリーは新しいチャンス」

なぜ今「デジタル・オンリー」という発売形態をスタートさせたのか。その狙いはどこにあるのか。ドイツ・ミュンヘンに本拠を置くBR-KLASSIKのレーベル・マネージャー、トーマス・ベッカー氏(以下:TB)にお話を伺ってみると、こんな答えが返ってきました。

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TB「他のジャンルのリスナーは以前からそうでしたが、最近はクラシック音楽においても、愛好家たちのリスニング・スタイルが劇的に変化してきているのです。CDというフィジカル(物理)メディアから再生することは今はもう稀で、デジタル(特にストリーミング配信)で音楽を聴取するというスタイルが主流になってきました。」

と語るベッカー氏。さらに続けて、

TB「加えて、デジタル・オンリーはクラシック音楽にとって新しいチャンスだと思っています。以前は、CDとしてリリースするために、70分前後に収まるよう複数の作品を組み合わせて1枚のアルバムを作っていました。しかしデジタルではその限りではありません。この9月にデジタル・オンリーで配信を開始したストラヴィンスキーの火の鳥(上記)が良い例だと思いますが、この作品の演奏時間は20分程度です。『CDアルバムを制作する』というこれまでの考え方にとらわれる必要がないので、様々な可能性が広がると思いますよ。」

『1曲の演奏時間が短すぎた、『カップリングにふさわしい録音が見つからなかった』といった理由から「CDとしてのリリース」が叶わなかった作品も、これからはデジタル・ストリーミング配信で聴くことが出来るようになるとのこと。しかし、これらの素晴らしい演奏の録音、本当に今後CDとしてはリリースされないのでしょうか?

TB「機会があれば、改めてCDというフォーマットにして発売することを検討することがあるかもしれませんし、その可能性は否定しません。ただし、今現在の段階でそのような予定はありませんね。」

今後BR-KLASSIKレーベルは、この「デジタル・オンリー」という発売形態をどのように活用していくのでしょうか?今後どのような作品のリリースを予定しているのでしょうか?

TB「BR-KLASSIKレーベルとしては、これからこのチャンスを利用し、演奏時間の短い作品の過去のライブ録音も順次リリースしていきます。また、放送局のアーカイブから過去の貴重な録音を発掘し、デジタル・オンリーでリリースしていく計画もあります。現在年内のリリースが決まっているものでは、マリス・ヤンソンス&バイエルン放送交響楽団のブルックナー交響曲第4番のシングル版(注:今春にリリースされたブルックナー9枚組CDBOXに収録されたもの)。それに続いて、ミュンヘン放送管弦楽団による弦楽作品集や、クロアチアの作曲家ヤコヴ・ゴトヴァツの作品もリリース予定です。もちろん、2020年もヤンソンスの演奏を継続して録音していくので、デジタル・オンリーで配信されるものも出てくるはずです。」

レーベルとしてはデジタル・オンリーにすべて移行するわけではなく、CDも引き続き発売していくとのこと。とはいえ、埋もれている過去の素晴らしい名演たちに出会える機会が今後増えるのは、「デジタル・オンリー」ならではの魅力かもしれません。

BR-KLASSIKの公式サイトはこちら