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#3-6 北海道名寄市あったかICT物語【シーズン3(運用編)】

エピソード6「薬剤師だから創り出せる、在宅でのあたたかい連携のカタチ~後編」


執筆・インタビューを担当するのは・・・
こんにちは!
「名寄市医療介護連携ICT導入・運用アドバイザー(令和2&3年度)」の大曽根 衛(地域包括ケア研究所)です。

インタビュアー:大曽根衛(地域包括ケア研究所)

前回(エピソード4&5)に引き続き、名寄で先がけて在宅患者さんに訪問薬剤サービスを行ってきた名寄調剤薬局の町田忠相さん(副薬局長)に全3編に渡ってお話を伺います。
 

名寄調剤薬局の町田忠相さん(副薬局長)

★どんどん薬剤師が外に出ていく時代


―大曽根
町田先生、後編もよろしくお願いいたします。
ここまで、在宅での訪問薬剤師の背景や現状をお聞きしてきましたが、「これから」について町田先生が感じていらっしゃることがあればお聞かせいただけますか?
 
―町田
薬剤師という業界で言えば、求められていることが明確に2025年で変わってくるわけです。
 
機械化がどんどん進み、残念ながら薬剤師の調剤業務も機械に取って代わっていくと思われます。
 
薬剤師不要論という話もあるくらいです。
今の自分たちの動きで、これからの薬剤師の運命や評価が変わってくる大事な時期だと思っています。
 
そういう意味でも、積極的に外に出て患者さんを診るという風にしていくことが大切だと感じています。
 

薬局内で進む自動化や実際の業務オペレーションについて説明する町田忠相さん

薬を作ることは二の次三の次になってきて、これからは飲んだ後の世界が大事ではないかと。
薬を飲んでから後のフォローをいかにするか
そのためには現場に出ていくこと。
病院の薬剤師にとっての現場は病棟ですが、薬局の薬剤師はどんどん外に出て、医療介護の連携の中で価値を出していくことですね。
 
変化に対して戦々恐々としている業界の人も多いですけど、僕は変化を楽しみにしながら、新たな動きに対し、自分たちも参考になることがあるのではないかという捉え方をしていきたいと思います。
 
都市部と違って地方だからできる細かい動きを大切にしていきたい。
マンパワーは決して多くないけど、ケアマネさんと密にやりとりしたり、地域ケア会議に出たりなどきめ細かい対応し、距離を近くやっていきたいと思います。 

★名寄の地域医療は日本一を目指せる


―大曽根
ありがとうございます。
話は変わりますが、名寄の医療介護の連携の特徴など感じることありますか?
 
―町田
そうですね、他の地域より名寄市はかなりイケてるんじゃないかなと思いますよ。
 
他の地域の方と話すと、けっこうびっくりされることも多いんです。
これだけ、在宅での薬剤師の動きに苦労している地域も多いので、薬剤師が在宅で認められて動いている状況そのものが違うみたいです。
 
―大曽根
これまでに、リアルにいろんなことを試行錯誤してきてますからね。
 
―町田
そうなんですよ。
まさに積み重ねじゃないですか。
この8年、何回も同じことを繰り返し繰り返しやってきて、ようやく最近「薬のことで何かあったら町田先生ところに相談したらなんとかなるんじゃないか」と思ってもらえるようになってきた感覚です。
勉強会をただ1回だけやったら連携が明日からすぐにうまくいく、とかそういうのではないと思います。
患者さんへの説明やレクチャーについても同様です。
 
―大曽根
そういうことですね。
 
―町田
深井先生は、そのようなことを病棟に最初に行った時からずーっとやってこられた方なんです。
いろいろな苦労話、昔話もたくさんあります(笑)。
 
そういう歴史や積み重ねてきたものを僕もしっかり継ぎながらこれからもやっていきたいです。
 
―大曽根
信頼関係づくりですね。
 
―町田
そうそう。
その積み重ねがあるからこそだと思うのですが、ケアマネジャーさんから指名で電話来るわけですよね。
「町田先生いますか?お願いしたい患者さんいるんですけど、今大丈夫ですか?」と。
 
依頼があったら、すぐに一緒に現地行くんです。
 
―大曽根
やはり、すばらしい姿勢ですね。
 
 
―町田
こうやってみんなで一生懸命やっているので、日本一になりたいなっていうのはありますよね。
日本一、地域医療が進んでいる地域になれたら良いなと思います。
 
―大曽根
その兆しや可能性として感じることはありますか? 

★ICTは人と人の情の繋がりを促進するものであること


―町田
名寄の医療介護連携ICTはかなり良い線いってるんじゃないかなと思います。
このICTが無かったら、こういう発想になっていなかったと思いますよ。
 
この取り組みやシステムは他の地域でも参考になるんではないかと思います。
密な連絡が取れ、連携性が高まっていることを日々、毎日感じます。
 
他地域のICT事例などを聞くと、連携という部分でハードルや課題もけっこうあるらしいです。
他の事例の課題から感じるのは、どちらかというと「人と人との繋がり」じゃなく、「単に機能的な情報共有」にとどまっている感じでしょうか。
「人と人との連携」をそのネットワークから感じないなって思うわけです。
名寄の場合は、「人と人との連携」をICTを通じて感じます。
 
―大曽根
わー深いですね。
ひとつひとつの繋がりを感じれる連携がそこにあるわけですね。
 
―町田
要するに「コミュニケーション」ですよね。
 
そこがやっぱ名寄の推しなのかなと。
地域ならではの細かいフットワークがあって、ケアマネさんも、病院も、デイケアの人も、ヘルパーさんもどの職種の人たちもみんな小回りが効くベースがある。
これがポラリスネットワーク上のTEAMがあることでさらに小回りが効いちゃってる
 
―大曽根
なるほど。
さらに繋がってますね。
 
―町田
繋がってる。
そこが大きいのかなって。
僕自身、人情的なことが好きなこともありますが、「人と人の繋がり」を感じることがメインの名寄のシステムって、本当に素晴らしいなって。
 
TEAMの中に書き込んでる人の性格も、読んでいる人の性格もお互い分かっていることもあるので、雰囲気で書いてもそれが伝わるんです。
 
―大曽根
伝わるんですね。
 
―町田
伝わってるのが伝わってくる。
 
―大曽根
おーすごい。
ちなみにですが、HIT(北海道総合研究調査会)さんというシンクタンクが、道内のICT導入地域の実態調査(※北海道の地域住民に関する医療・介護情報の共有システム構築に係る調査研究事業)を昨年度されたのですが、その中で今後医療介護に関するICTを導入する際にモデルとしていく地域として名寄を挙げてくださっているんです。
 
―町田
えーそうなんですか!
 
―大曽根
ICTの導入の目的やプロセス、導入後の状況などから評価いただいているようです。
 
そのプロセスの前提として、私がHITさんにもお話させていただいていることなのですが、それがまさに町田先生のおっしゃっていることと同じなんです。
 

(社)地域包括ケア研究所が提唱する「地域包括ケアシステム×ICTで大切な両輪」

 
ほとんどの場合、この図の左側の「機能」を目指しているICTが多いんですが、おっしゃっていたように「人と人のつながり」を感じる「価値」の部分が大事なんですよね。
私たち(社)地域包括ケア研究所では、その「価値」として「物語の生産性が高まる」「より体温を感じる」ICTとなっているかどうかが大事である、と表現したりしています。
 
―町田
そうですよね。
いやぁ、上手いこと言いますね。
 
―大曽根
この観点と表現を見出すのにけっこう時間かかりました(笑)
 
―町田
体温を感じるってまさにそうですね。
名寄の場合は右側の方をメインにすることを大切にして進めていけば、他には無いすばらしいカタチになるんじゃないかなと思いますね。
 
―大曽根
守屋さんは最初から左側の「機能」としてのICTだけになってはいけないと危惧されていて、さらには名寄には右側の「価値」を生み出すベースがあるので、「大曽根さん、なんとかそういう機会や場を作っていって欲しい」って言われたんです。
なんだか、佐古先生を始め先見の目を持った人が名寄にはたくさんいますね。
 
―町田
あ、だからICTの体育館でやった会などもあったわけですね。

ICT導入後も多職種が集まり、ケースを通じICTや連携を磨き続ける(地域連携会議in名寄の様子。前テーブルに町田さん参加)

―大曽根
そうなんです。
体育館での体感型ワークショップや事例検討会を通したICT検討会、先行トライアルなど、みんなで肌感を感じれるプロセスを創って、ICTあるなし関係なくこの患者さんにはどういう連携が望ましいのか?と主語を患者さんにして、話し合いしてきたんです。
そしてICTの活用が始まってからも、どのようなグッドストーリーが生まれたかに焦点を当てるようにし、それを何度も共有し、みんなで連携の土壌をさらに良い土壌に改良していくわけです。
先日の「第3回地域連携会議in名寄」でも共有された消化器の終末期の患者さんのケースなども、ICTがあったから生まれた体温を感じる物語じゃないですよね。
 
―町田
まさに、そうですね。
そういう意味でいくと、ひとつ印象に残ってるエピソードがあるんです。
お話してもよいですか?
 
―大曽根
ぜひぜひ。

★薬剤師が在宅で出会ったストーリー


―町田
薬剤師がお薬だけでなく、見守りや在宅などを一介護者として、一医療者として行なっていかなければならないと強く思ったケースだったんです。
 
要介護2か3くらいの認知症の方で、私がお宅に伺ったとき低体温になってたんです。
その時はね、ドキっとしましたね。
すぐに救急車を呼びました。
 
運命的といいますか、本当はその方のお宅には夕方に伺う予定だったんですよ。
何かの都合で午前中に行かざるを得なくなったんですが、行ってみたらソファの下で倒れていたんです。
 
ストーブ消えてるんです、2月の名寄ですよ。
 
―大曽根
え、、それは大変。
 
―町田
外と同じくらい家の中が冷えていましたが、すぐ体を触って、意識もあったので、すぐ救急要請したんです
 
別に薬を持っていってなくたって「どうだーい?」ってちょっと寄るだけでも「価値」があるんじゃないかって思いましたね。
元気?ちょっと近く寄ったんだわって。
 
―大曽根
なるほど、僕の中でひとつ繋がったのは、前半のお話で、午前中は調剤業務で午後は「フリー」って言葉を使っていたじゃないですか。
そういうことですね。
 
―町田
そう、そうなんですよ。
会社的にはね、ちゃんと仕事しなさいよ、というのはもちろんのことなのできちんとしたうえでです。
 
例えば、その日に算定する用事がなかったとしても、そういえば最近あの方ちゃんと居れてるべか?、ちょっと行ってみっかなって。
それで寄ってみて、「あー先生!ちょっと上がるかーい?上がってきなさーい」っていう感じで元気を確認して帰ってくる。
 
―大曽根
すてきですね。
それに近いことって書いても別に問題ないですか?
 
―町田
良いです良いです。
でも、そういう関わりの中で偶然にも、僕が第一発見者になれて本当に良かったです。
 
―大曽根
本当ですね。 

★薬剤師に必要なこれからの知識と姿勢


―町田
独居で認知症の方は、食事でさえも難しくなる場合もあったりするので、ストーブの点け方なども以前のようにできなくなって、危険なことが突然やってくることなどもあるんです。
退院された後はすぐには家に戻ることはできないと思ったので、ショートステイを一度利用する検討の必要性なども伝えたりしました。
その後、実際にショートステイに入ったわけですが、薬剤師といっても薬の知識はもちろん持ったうえで「地域包括ケアシステムの知識」を持っておくことも必要だと感じましたね。
 
―大曽根
そうですね。
 
―町田
ケアマネの資格は持っていませんが、勉強した時期があって、よく分かっていなかったサービスや事業所の違いなど、そういう基礎を知っていることは本当に大事だと感じています。
どこでどういうことをサポートできるのか、どのようなことをメインに行っているのか、ある程度分かっていた方がいいですね。
 
 
―大曽根
なるほど、お互いを知る・違いを知るという一歩は、信頼関係やコミュニケーションの上でとても大事なことですね。
町田先生からのお話からは、大事だけど労力がかかってどうしても後回しになってしまうことを丁寧に扱われてきた様子が伝わってきます。
もっともっとお聞きしたいことがたくさんありますが、また機会をつくってください。
 
今日は本当にありがとうございました。
 
―町田
こちらこそありがとうございました。
 
シーズン3エピソード6は町田先生の後編パートでした。
※内容はインタビュー実施時点(2022年11月17日)のものになります。

名寄調剤薬局の町田忠相さん(副薬局長)

シーズン3は全6エピソードで終了です。
シーズン4もお楽しみに!

 ★★名寄市あったかICT物語の構成★★

【シーズン1(導入前夜編)】

·        エピソード0:「名寄ICT物語、始めるにあたって」

·        エピソード1:「つながったら動いてみる」

·        エピソード2:「焦りとICT」

 【シーズン2(導入編)】

·        エピソード1:「想いをカタチへ①」

·        エピソード2:「想いをカタチへ②」

·        エピソード3:「名寄医療介護連携ICTの概要」

·        エピソード4:「ケアマネジャーから見たICT①」

·        エピソード5:「ケアマネジャーから見たICT②」

·        エピソード6:「医師としての紆余曲折の全てが今につながる」

·        エピソード7:「孤独に陥らないあたたかいシステム」

  【シーズン3(運用編)】

·        エピソード1:「名寄ならではの訪問看護を探究し続ける」

·        エピソード2:「訪問歯科がある安心感と連携のこれから」

·        エピソード3:「利用者さんの笑顔のために」

·        エピソード4「前編:薬剤師だから創り出せる、在宅でのあたたかい連携のカタチ」

·        エピソード5「中編:薬剤師だから創り出せる、在宅でのあたたかい連携のカタチ」

·        エピソード6「後編:薬剤師だから創り出せる、在宅でのあたたかい連携のカタチ」

 【シーズン4(運用編②_医療機関編)】

·        エピソード1:「道具の使い方と生身の情報~風連国保診療所」

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