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文化系の謎キャリア・インタビュー⑧ 金原隆生さん ガバメントクラウドファンディングから始まったゲストハウスの挑戦

(記事担当:黒田つむぎ)

はじめに

私は大学で地方創生や地域活性化について学び、これから就職した後も地域にかかわる仕事したいと考えている。しかし、一口に地域活性化といっても観光PRによる活性化や商品開発による活性化など方法は様々ある。その中でも今回私が注目したのはふるさと納税による地域活性化である。私がふるさと納税制度に興味を持った理由は成功事例が多いからである。自分たちの魅力をアピールし、収益につなげたいと思ってもその機会がない、アピールの仕方がわからない地域は多く存在する。ふるさと納税ではそういった地域間のPR力の差をある程度フラットにすることで今まで伸び悩んでいた地域が注目されるケースや、新たな売り方を確立させたケースもある。このインタビュー企画を聞いたときに私は、「ふるさと納税制度を使って地域で面白いことをしている人にインタビューしてみたい!」と感じ、インターネットで様々な地域を調べ、高知県越知町でゲストハウスを運営する金原隆生さんのことを知りお話を伺いたいと思った。

金原さんはもともと地域おこし協力隊(以下、「協力隊」)として越知町にやってきた。そして協力隊の任期を終えた後越知町での定住を決めるとともに、新しい事業として「ゲストハウス縁-en-」を立ち上げたそうだ。このゲストハウスの立上げの際に使ったのがふるさと納税制度だったという記事[1]を読み、早速金原さんに連絡してみた。すると驚くことに、私が知るふるさと納税と金原さんが使ったふるさと納税制度が少し違うことを、金原さん自身から教えてもらうこととなった。詳しいことはこの後説明するが、金原さんはガバメントクラウドファンディング(以下、「GCF」)という制度を使ってゲストハウスを立ち上げたそうだ。そして、私はこのインタビューを通してふるさと納税とGCFの違いや地域おこし協力隊のことなど、金原さんの多くの経験と思いを学ぶことになった。

ゲストハウス縁-en-

ゲストハウス縁-en-(以下、「縁」)は金原さんが2016年に立ち上げたゲストハウス[2]だ。築70年の古い民家を自分たちの手で改修し、田舎暮らしを体験できる宿泊施設としてオープンした。当時越知町には宿泊施設が一軒しかなかったという。観光客が来ても泊まるところがないため日帰り旅行が多かったそうだ。金原さんはその状況に目を付け、宿泊も含めて越知町を楽しんでもらいたいという思いから縁を立ち上げた。縁は標高400mの山の中にあり、自然に囲まれた中でゆっくりとした一日を過ごすことができる。山を下りると仁淀川という川があり、金原さん自身がラフティングのインストラクターでもあるので、縁に宿泊してラフティングを楽しむこともできる。縁は宿泊とラフティングどちらも楽しんでもらえることを理想に運営しているそうだ。

縁の玄関
縁の外観

その、縁の立上げに一役買ったのがGCFである。先ほども少し話した通り、GCFはガバメントクラウドファンディングの略称であり、ふるさと納税のシステムを利用したクラウドファンディングの仕組みのことを指す。ふるさと納税と同じように寄付者は寄付金の全額に寄付控除が適用される。ふるさと納税との違いは自治体が抱える問題を解決するため、ふるさと納税の寄付金の使い道をより明確にし、その使い道に共感した方からの寄付を募るという点である。例えば災害支援や教育支援、地域活性化プロジェクトなどに使用されている。

BBQも楽しめる

縁の立上げ  一度目のガバメントクラウドファンディング

立上げ資金を集めるためにGCFを使うことは、地域おこし協力隊の所属先でもある越知町役場企画課からの提案により決まったそうだ。GCFの活用を検討する会議の場で、当時の課長が手を挙げ、その話を金原さんに持ち掛けたことから縁を立ち上げる企画が始まった。金原さんは「最初は軽い気持ちだった。越知町が主体となってGCFをした面も大きい。」と語る。縁立上げのためのGCFはトラストバンク、越知町役場、金原さんの三者が絡んだGCFだったそう。ちなみに、トラストバンクとは「ふるさとチョイス」というふるさと納税総合サイトの運営やGCFをしたい自治体の支援などをしている会社である[3]。今回はGCFを活用してみたい越知町役場と金原さんの支援をする形で企画に参加した。GCFをしてみようといっても簡単なことではない。まずは自分のプロジェクトを寄付者に伝えるためにGCFのページを作らなければならない。それにはトラストバンクと越知町役場がかなり協力してくれたそうだ。トラストバンクはページを作るために金原さんにアンケートを実施した。質問内容は「縁を始めようと思った理由」や「金原さん自身の熱い思い」「GCFを使うことを決めた経緯」など、ページ制作のために必要な情報を引き出すものだった。そしてアンケートの回答をもとに、よりサイト向けの文章に組み替えて大まかなサイトの骨組みを作ってくれた。これから事業を始める段階、つまりまだ顧客がいない金原さんにとっては、越知町の出身者やご自身の知り合いの方、はたまた全く知らない人たちにどうアプローチするかがこのGCFの鍵となった。そして、全国から寄付者が300人集まり、300万の目標額を達成した。

一度目のGCFサイトページ

縁の改修

改修工事は金原さんと金原さんのお父様、協力隊のメンバー、それと町民の方々で行われた。基本的にGCFで寄付していただいたお金で作ったものはすべて自分たちで改修し、ゲストハウスの母屋とトイレだけプロに改修工事を依頼した。一年の改修工事ののち、縁が出来上がった。ほとんどすべて自分たちの手で改修しているので「遠目から見るとそれっぽい仕上がり、近くで見たら素人仕事っぽいものが出来上がった。ただ、台風では飛んでないのでちゃんとできている!」と金原さんは笑いながら話す。

共用スペースの様子
改装したトイレ

縁の経営

こうしてオープンした縁だったが、最初の1、2年目は赤字経営が続いたそうだ。それでもコツコツと泊ってくれるお客さんのために仕事をしているうち、3年がたったころから少し顧客が増え経営も安定してきた。縁は宿泊と一緒に仁淀川でラフティングもできることを売りにしている。その仁淀川は今でこそ越知町の観光資源として有名な川だが金原さんが越知町に来た当時は名前の売れた川ではなかった。しかし、高知県や越知町が仁淀川の魅力を伝えようと精力的に動いていたこともあり、金原さんは「これから売れていく川なんだろう」と予想したそうだ。縁のHPを作る際には「仁淀川 宿」で検索するとゲストハウス縁-en-が一番上に出てくるように考えたり、ラフティングのHPと縁のHPは相互に行き来できるようにURLを貼るなどの工夫もしている。こうした成果も実り、仁淀川はより一層、高知県、越知町、縁のどの観点から見ても重要な観光資源となっていく。前述したとおり、金原さんは「縁とラフティングをどちらも楽しんでもらうこと」を理想にしており、最近では約半分くらいの方が両方楽しんでくれているそうだ。

コロナ禍

そうしてどんどん経営が波に乗り始めた縁だったが、2020年に世界中に大打撃を与えた新型コロナウイルスの発生により、縁もまた苦しい経営を余儀なくされる。いわゆるコロナ禍と呼ばれる期間、縁に宿泊に来るお客さんは完全に0人になってしまった。やむなく休業することを決め、金原さん自身の収入も0になった。「縁を続けるために、それでもなにかやらなければならない」。事業主としてそう考えた金原さんは自らの手で二度目のクラウドファンディングを行うことにした。前回とは違い一人ですべてやらなければならない状況の中、今度は縁に宿泊に来たことがあるリピーターさんが応援してくれるようになった。クラウドファンディングのリターンは縁の宿泊券。「また今度遊びに行くからね。」と応援してくれた方々のおかげでコロナ禍の困難を乗り切ることができた。今ではコロナの影響もなくなり通常営業している縁で金原さんは「今は自分がやった分だけお客さんが返ってきてくれる。コロナ禍はそれすらできない状況だった。やった分しか返ってこない。だからちゃんとやらないと」と語る。

2度目のクラウドファンディングに挑戦

地域おこし協力隊について  協力隊になった経緯

ところで、先ほどからたびたび登場する地域おこし協力隊という制度について少し説明させてほしい。そもそも地域おこし協力隊とは総務省が主導となって作り上げた制度で、都市に住んでいる人を過疎化が進んでいる地方に送り、1~3年の任期の中で「地域協力活動」を通して、任期を終えた後もその地域に定住してもらうことを図った制度[4]である。最初に説明した通り、金原さんは2013年に地域おこし協力隊として越知町にやってきた。それまで東京でサラリーマンをしていた金原さんはあるドラマに出会って協力隊の制度を知ったそうだ。それは2012年に放送されていた「遅咲きのヒマワリ~ボクの人生、リニューアル」というタイトルのドラマだ。派遣社員だった主人公が契約を切られてしまい、転職を考えているときに地域おこし協力隊を知り、高知県四万十で活動を始めるという物語である。東京でサラリーマンをしていた金原さんも同じように考え、その一年後高知県越知町にやってくることになった。

金原さんは当時のことを「最初は越知町に興味があったわけではなかった。サラリーマンを辞めたいという気持ちと田舎暮らしへの興味が協力隊になった理由だった」と語る。そして、協力隊の志望を決めた金原さんは越知町で協力隊をすることになった。越知町での活動を選んだのも最初は「何となく」だったそう。金原さんが協力隊になったころ、越知町では協力隊の活用がまだ始まったばかりで、金原さんが越知町での協力隊第二期にあたる。そうして協力隊として何でも屋をするうち、観光協会からラフティングとカヌーガイドのお手伝いを頼まれた金原さんはそこで初めて川の事業を学ぶことになった。

協力隊時代(ラフティングについて)

もともと体を動かすことが好きだった金原さんにとってラフティングのスキルを身に着けることはとても楽しいことだったそうだ。まず、船のコントロールができるようになり、次にお客さんを楽しませるトーク力を身に着けた。そのあとは自己流でお客さんを楽しませる方法を探し、実際に楽しませられるようになった時には「この仕事を続けていきたい」と感じたそうだ。観光協会でラフティング事業を行っていた時は4人のガイド仲間たちと年間1000人くらいのお客さんを相手にしていた。そのころ仁淀川の知名度が上がったのもあり、ピーク時の7月には4人で毎日ガイドをするくらいお客さんが多かった。仁淀川のラフティングは3歳からできる緩いラフティングを売りにしており、夏休みには家族連れが多く訪れる。ほとんど人工物のないコースをゆっくりと景色を楽しみながら下ることができるのが特徴である。金原さんは協力隊時代に身につけた知識とスキル、トーク力を駆使して縁の経営者となった今でもラフティング事業でお客さんを楽しませている。

ラフティングガイド中の金原さん
ラフティングの様子

金原さんの現在

ここまで話した通り、様々な経験を通して現在縁を経営している金原さんだが、今現在の縁の経営や金原さん自身の思いについて書いていきたい。現在縁は3月~12月まで通常営業をし、1.2月は宿泊予約は行っていないそうだ。理由は、寒さによるものだ。まず、この時期は道中の山道が凍るので、お客さんの安全を確保できない。さらに、暖房をつけても温度が上がらず、お客さんに十分満足してもらえる環境を整えられないためだ。代わりに冬の期間は山を下りて屋台を出しているそうだ。川の近くで焼き芋とサーターアンダギーを販売している。その場所での出店を選んだのは屋台で買ってくれた人に川を眺めながらゆっくり食べてもらいたいという思いがあったからだ。また、屋台をすることを決めたのは普段山で暮らしている金原さんは友人や町の人と会う機会が少ないのでその機会を増やそうと考えたことが理由だった。焼き芋は金原さんのお父様からの提案で決まり、かなり人気を集めている。購入数が多く、手が回らないので焼き芋を焼くためのつぼを追加購入するほど大忙しだそうだ。サーターアンダギーは金原さんのお母様が沖縄出身で、小さいころに作ってもらった思い出と「何か変わったものを出したい」という思いからメニューに採用したそうだ。サーターアンダギーはプレーン、チョコココア、ゆずの3種類の味付けで販売している。焼き芋で使うさつまいもとサーターアンダギーの味付けで使うゆずは地元で採れたものを使っている。地元に寄り添った金原さんの屋台は初めてからもうすぐ3年目が終わる。現在は縁の経営者と屋台の店長を両立し、奥さん、お子さんと一緒に越知町で暮らしている。

冬季限定「金ちゃんの屋台」
冬の山道
ご家族と縁の前で

インタビューを終えて

今回金原さんの話を聞いて印象的だったことは、金原さんがやりたいと感じ行動したことに対して多くの人がそれに関わろうと行動していることだった。それは、親族の方や友だちに始まり、役場の方やトラストバンクだったりもする。金原さんを応援したいと思って支援をしてくださっている人もいれば、利害や目的の一致で支援をしてくださった方もいる。様々な人がそれぞれの思いをもって金原さんに協力したということがとても面白いと感じた。私は自分の行動や将来について、「やりたいかどうか・面白いかどうか」で決めることがよくある。私自身将来どんな風に生きているか、何を楽しいと感じどんなことをしているのか全く想像がつかない。しかし、私と似たような考えを持つ人だけでなく、違った考えを持つ人とも出会い、影響されたいと感じた。世界中にはいろいろな人がいるのだから自分とは違った考えを持った人がいることも当然だ。考えも価値観も違う人たちが何かをきっかけに目的や思いが一致し同じ目標をもって活動することは、初めから同じ思いをもって活動するより面白く、わくわくすると思う。私はこれからも自分がしたいこと、面白いと感じたことを軸に行動し、その結果出会う新しい価値観や考え方をたくさん知りたいと感じた。


[1] 金原さんを知るきっかけになった記事 https://www.furusato-tax.jp/feature/a/katsuryoku_column-vol25
[2] ゲストハウス-縁― https://guesthouse-en.sakura.ne.jp/
[3] トラストバンク 株式会社トラストバンク (trustbank.co.jp)
[4] 地域おこし協力隊 総務省|地域力の創造・地方の再生|地域おこし協力隊 (soumu.go.jp)


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