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文化系の謎キャリア・インタビュー⑥ 下地一路さん(AkuBi) 文化芸術のすゝめ

(記事担当:井手桃海)

下地一路(しもぢいちろ)さんは、作詞作曲、映像など幅広く手掛ける文化人。大阪発の2人組ユニット「AkuBi」 としての活動も行っている。高校時代は演劇活動に尽力し、大学生時代から独学で映像を学び始める。現在はユニット活動の傍らでバー「PINK FLAMINGO」のカウンターに立つ、謎多き人物。お手伝いとして参加した公演で偶然出会った「愉快で優しいお兄さん」の文化芸術への関わり方を知りたい一心で今回のインタビューに挑む。彼の文化人としての生態、思考を探るべく大阪市内のコーヒーショップへと向かった。

「手当たり次第自分で試してみるしかなかった」

井手 ドキドキしますね(笑) 大学のゼミで「文化系の謎キャリアの人を見つけてきなさい」と言われまして。私は、なんでもやってる人が好きなんですよ。それで下地さんが気になるなぁと思っていて! それでこの度は取材をさせていただきました。よろしくお願いします。

下地 よろしくお願いします。

井手 初めにAkuBiを始めた理由が知りたいです、音楽を始めた理由。

下地 AkuBiを始めた理由かぁ……。真面目に答えなあかんから考えるわ……。実のところそんなに真面目な話じゃなくてすごい遡るんやけど。音楽自体はすごい好きで詳しいわけじゃないんやけど、RADWIMPSとかクリープハイプとか米津玄師とかが好きで聞いてたのは中学の時、始めたのは2020年から2021年頃かな? 2021年やわ(笑) 自分の結成年すら覚えてない(笑) 2021年の3月結成の4月がファースト(シングル) かな。まぁずっと音楽は好きでいつかはできたらいいなと思ってたけど、特段絶対しなきゃいけないとも思ってなくて。高校から舞台やってて舞台芸術(学科) に入って映像を始めて。それで大学を辞めてバンドのMVを撮って。2021年ごろにAkuBiの相方の発芽と知り合って彼女がギター弾きながら歌えるっていうから「俺作るから歌ってよ、映像ミュージックビデオ撮れるし」みたいな。コスト安くバンド活動できるから始めた。人件費いらんから、やってみてええんちゃうんかなと。

井手 映像を始めたきっかけは楽しそうとかですか?

下地 映像始めるきっかけは高校の頃から写真を元々やっとったんよ。カメラを持ってて、バンドのライブ撮影とかアー写(アーティストのプロフィール写真)を撮ったりしとって。ある日バンドから「MVを撮ってほしい」って言われて、でもやったことないし。「やったことなくてもいいのであれば」から始まったのが映像のきっかけかな。大学時代に映像の授業は取ったけど映画を観て絵コンテを描くくらいのしかやってなかったから基本的に独学になるんかな。

井手 独学なんですね、すごい。映像は難しそうという偏見が勝手にあって、機械とか扱う音響照明に苦手意識があるから余計に……。難しくないですか?

下地 僕はそんなに難しいと思う事はないかな、いや、難しいと思ったことはあるけど特段すごく大変とか思ったことはあんまりなくて。やればできるから、やろうとするための過程を結構ちゃんと踏んで勉強すればできるもんかなと勝手に思ってます。あの、世の中のほとんどのものは。

井手 なるほど、それは真理でした。映像の勉強ってどうやってされたんですか?

下地 本かな。まあまあ本を読むし基本的にもう映像を観まくる。例えばあいみょんのビデオとかを見て「この映像いいな。どういう風に撮ってるんやろう?」って考えて想像して実験して、「あっ、この方法じゃなかったわ」ってなって、同じ構造でまた撮って実験して「違う、違うわ」って。Googleとかで調べたり、本を読んだりしながらすり合わせていく。実際プロがやっているようなことを自分で実験してすり合わせて、覚えていく感じ。

井手 演劇では独学で学んできましたっていう人が結構いらっしゃるので、ああいう人たちはどこで覚えたんだろうなってすごい不思議に思いました。下地さんの場合はどんな感じなんですか?

下地 それは人脈であり、経験であり、コミュニケーション能力で……。この3つぐらいが大事になってくると思うんですけど、まあコミュニケーション能力から始まって、じゃあペーペーでもなんかすごい技術がある先輩とか後輩でも良いし仲良くなって。で、一緒に仕事させてもらって経験を積むことを繰り返してたら、なんか周りから教えてもらえることができる。舞台とかは特に横のつながりが広いと思うんですよ。だから、その数も多いじゃないですか、一つの公演に対して。その現場とか言ったら、ワンチャンいけるかなって目をして「すごいですね!」「教えてください!」ってやってたかな(笑) 映像を撮り始めてからそうでもないねんけど。映像は周りに誰もいなかったから。やっぱりバンドマンはね、お金無いから僕に飛んできてるわけだから。バンドマンに映像の知り合いがいるわけじゃないから。だから、まあ手当たり次第自分で試してみるしかなかったってところかな。

井手 なるほど……。(インタビューの)カンペ見ます。

下地 見て下さい(笑)

「表現することをやめたら何をしていたらいいのかわからない」

井手 では、カメラのお仕事とか作詞作曲のお仕事とかをされる時に意識する事ってありますか?

下地 方向性かな、全体の構成。不都合が生じない文章とか、違和感っていうか整合性を保つことを意識してるかな。あとはまあ真似をする。パクるというと言い方が悪いかもしれないけど、要は上手に参考にすること。見栄とプライドは持たないように意識してるかな。だから、ちょっとこれは全部一から自分の手で作らなきゃいけないんだっていう部分は正直あんまりなくて。これはもうあの誰に対しても言ってるんだけど「上手くなりたきゃぱくれ」と。0から1を生み出したければまず1を理解するところから、その他人の1を理解するところから始めなきゃねっていうのはあります。今のこのご時世で0から作り上げるのは無理だね。結局誰かの影響であったりするから。でも1をAにすることができると思う。要は、人が作った誰かの曲が10やとしたらその10の要素をいろんなところから繋げて、継ぎはぎして自分の感性とか技術とか想像力でこうまとめ上げたものが新しくAになることもあるんじゃないかな。一応これは「作ってる」ということとニアリーイコールかなと。

井手 なるほど。舞台とか音楽とか映像を続けるときの原動力って何ですか?

下地 原動力か。ベースは楽しいからやってるんやけども。あとは、どっかにちやほやされたいっていうのがあると思うんですけど、承認欲求というか。全くひとつじゃないね。なんか後はあれやな、このなんか作ること、音楽とか、映像、舞台、小説とか書いたり作ったり撮ったりすることをやめたら、俺は何をして生きていけばいいのかわかれへんな。なんかソワソワするだろうし、本当にただのアル中に成り下がって終わってしまうと思うんだよな。まともに仕事が出来ないから。同じ時間に出社して同じ時間に帰るとか、書類整理とかもできないだろうし、領収書もすぐなくすし(笑) これがないと生きる術がないというところと、あとは今やっぱ一緒にやってくれてる人たちがいるから。なぜかもの好きが集まって付いて来てくれる人たちが普通におるから。もう、その人たちに恩返しせんとあかんなあっていうのはどっかにあります。あとは、タバコ吸いながら仕事したいんよな。だから自分でタバコ吸いながら仕事できる環境を作りたくて。自分でトップになってしまえば最高。タバコのタイミングとか自分で決めれるし、ちょっと疲れたら休憩できるし。他の人に気を遣うことなく吸える環境が欲しかったら!

井手 表現することをやめたら何をしていたらいいのかわからないっていうの、ものすごく原動力。それはめちゃめちゃ素敵ですね。

下地 めっちゃ恥ずかしい。

井手 でも本当にそのとおりじゃないですか。なんか演劇とかもちょっとセーブしないとなあと思うんですけど、やめるのはしんどいよなと思ったので。今こうしてめちゃめちゃ話を聞いて、やめたら何したらいいか。めっちゃ穴が開くじゃないですか。今埋まってるところが。

下地 割と大きめの穴がね。

井手 風通しが良くなるし。

下地 そう寒いぞー。

井手 絶対「ウワー!」ってなります。確かにそうですよね……。始める時は割と私は軽い気持ちなんですよ。まあ何かを新しく始める時、「楽しそう!」とかそれこそ承認欲求とか、「やってみたーい」とか。

下地 俺もそうよ。

井手 そんな感じで始めたのがありえないぐらいでかくなったので。

下地 大体そんなもんやと思うよ。だって、どんな物事も興味から始まると思う。例えば、自分で例えるとタバコを吸うってなったのも、ちょっと「ONE PIECEのサンジかっこいいな」でタバコ第一の生活になってるし。なんか映画観てウィスキー傾けながら飲んでるのかっこいいなって酒浸りになってるから。興味から始まったものがだんだん大きくなっていくのはもうその通りだと思う。それはその趣味でも、嗜好品でも、仕事でも、自分の中で大事ななんかでも、誰でもそうじゃないですか。最初っから結婚しようと思って付き合うやつなんかそうそうおらんやろという話です。

「言葉は難しい」

井手 「楽しいな!」って思う瞬間ってありますか? 映像とか携わって、楽しいなって思う瞬間。

下地 ありきたりやけどいいもんできた時とかね。あと、これ作りたい、書きたいって動画とかの構成が頭の中で出来上がった時は超楽しい。

井手 あー楽しいです。一個やりたいことが見つかって、それをどうやって実現させようって考えてる時は

下地 まあ楽しい笑 その後がたまらない。そこからまた脚本書く作業とか、絵コンテとか書く作業が一番しんどい。

井手 でもいざ実現させるってなったら、あれが必要、これが必要、これもいるってなったら、ちょっとダメ……。私だけじゃなかったんですね!これは。

下地 そりゃそうです。クリエイターって言葉が好きじゃないけど、なんかものを作る人は全員そうやと思う。考えてる時は一番楽しいなと思うけど。

井手 クリエイターという言葉が好きじゃない?

下地 クリエイターというか、なんだろうな、なんか安く使われすぎてるのがあんまり好きじゃないんだけど、クリエイターという言葉が広く使われることは良いと思う。ただ安く使われるとなんか違うなあって。なんとなく自分の中でずっと引っかかってて。今の日本でクリエイターって言ったらTikTokが想起されるのが……。TikTokが嫌いってわけじゃなくてなんかそういうクリエイターって言葉に偏見がついてるのがいやなんだと思う。些細な物のこだわりを付けた時に周りから急に「クリエイター気質やな」って言われるような。それは別にクリエイターでない人でも持ってることもあるし。もちろん、そうじゃないけどクリエイターと呼ばれる人もおるわけやん。すっごい真面目で酒も煙草もやらなくて、パソコンの前で働けるような人だって何かを作ってることもあるから、仕事としてちゃんとそういうクリエイティブな仕事ができてる人もいる中で、なんか「クリエイター」と言えばこうみたいな偏見が付きまとってるのが嫌だったのかもしれない。

井手 他にも最近の言葉で「あ、この言葉嫌いだなあ」っていうのが結構ありません?

下地 「エモい」とか。

井手 なんかいいものを見た時に「エモい」で片付けてしまうのもなんか……。もっと他に表現がある気がする……。だけど、「エモい」でしか表現できない瞬間が悔しいんですよ。

下地 「尊い」とかね。

井手 そうですね、「尊い」もありますね。本当に圧倒的な語感が生まれるたび、「もっと他に表現の仕方がある気がする!苦しい!」ってなります。

下地 言葉は難しいね。

「自分が生きる上でのコンセプトは変えないで生きていこう」

井手 これまでで辛かったなとか辛いなあって思ってることってありますか?

下地 人生で? ゼロ歳から?

井手 人生で。ゼロ歳からでも。

下地 大体のこと辛いけどな。辛さに強くない人間やからやけど。まあ、まず病気を二つ三つ抱えてるっていうのは、それそのものがしんどいし。薬を毎日飲まなあかんのもしんどいし。生きてるのもしんどいし。死ぬのも面倒くさいし。服着るのも嫌、風呂入るのも嫌、歯磨くのも嫌、ごはん食うのも面倒くさい。究極の生命体みたいになれたらいいな……。タバコで栄養摂取して生きたいなと思います。物事がうまくいかないのも辛いし、お金がない状況も辛い。でも、いやこれは「辛い」じゃないな、「面倒くさい」やな。そう考えると辛いこと、あんまりないかも。でも子どもの頃は辛かったなってのはある。小中の時にいじめられとったから。小学校の時なんかは毎日牛乳ぶっかけ給食を食べてたから。それぐらいかな……。

井手 想像しただけで……「いやだ~!ウワアー!」って。

下地 なるほど(笑)

井手 さて気を取り直して最後の質問です。生きる上で大切にしていること、意識していることについてしょうもないことから壮大なことまで……。

下地 意識することか……。絶対あるのは基本的に誰の前でも態度を変えないこと。自然体でいることは意識しようと思ってます。それは気を遣う遣わないとか、敬語を使う使わないとか、尊敬するしないの話じゃなくて。あくまで尊敬とか気遣いは持った上で、コンセプトは変えない。この意見は変えないぞってところは意識してる。それは昔からの生き方で、変わらない。でも、頑なに変えないとかじゃなくて、その場でいいと思ったものをちゃんと取り入れてはいきたいなって思うし、逆に「ん?」って思ったことはまあ聞き流すなり、その場で戦うなり、そのときの状況に応じて柔軟には生きていきつつ、そういう自分が生きる上でのコンセプトは変えないで生きていこうと思ってる。一歳の赤ちゃんの前だろうが、総理大臣の前だろうがそのコンセプトを変えたくないなと。で、一方でしょうもないことか……。しょうもないこと……。

井手 私一個言っていいですか?

下地 どうぞ?

井手 横断歩道を渡るとき、白い線めちゃめちゃ意識してます。

下地 今度見とこ。

井手 そんなちっちゃいこだわりとか……。

下地 基本的に……、好きなように生きてる……。

井手 良かったです!一番大切です!ありがとうございます。こちらですべての質問が終わりました。

下地 こんな感じでよかったんですか?

井手 良かったです!ありがとうございました 。

インタビューを終えて

モノづくりに関わっている人は皆、身を削って表現をしているのだと感じた。今回インタビューをさせていただいた下地さんの創作活動がより新鮮で、充実したものになることを願いつつ最後とさせていただきたい。

最後までご覧いただきありがとうございました。


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