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記事を紹介していただいたお礼と、誕生日の出来事

まず、とても嬉しかったこと。
虎吉さんが「スキを5つ押したい!」の記事の中で、わたしの文章を紹介してくださいました。なんと光栄な!

「たったひとつのスキでは足りない」と感じてくださるなんて、だれかの気持ちのとても近いところまで辿り着くことができたような気がして、とても嬉しかった。思いを素直に、慎重に、丁寧に、ああでもないこうでもないと錯誤しながら言葉を選んで綴っていくことの醍醐味みたいな感じがした。大袈裟に聞こえるかもしれないけれど。

一緒に紹介してくださった他のnoterさんの作品も、どれも素敵です。ゆっくり読みに伺いたいなと思います。
虎吉さん、読んでくださったみなさま、ありがとうございます。

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誕生日だった。
蒸し暑い一日だった。梅雨も明けてないのにもうこんなに暑いなんてね、と、会社のひとやお客様と言葉を交わした。
毎年、誕生日は、梅雨らしい雨だったりきょうのような晴れ間だったり、父の日が近かったりする。そうか、昨日は父の日だったんだ。

夜、仕事を終えて携帯電話を開くと何件かLINEの通知が来ていた。いくつかの通知の中、とある地元の友人からのメッセージを見つけた。彼女とはこの数年、互いの誕生日やお正月などしか連絡を取っていない。でも(かろうじて)途切れることはなくやり取りしている相手だった。
うさみみからや。
メッセージを開く。ごく簡単なお祝いの文が二行、ごてごてした絵文字とともに記されていた。嬉しかった。
「うさみみ~! 覚えててくれたんやね、ありがとう!!」
簡単に送信して、すぐ、でも急に彼女の声が聴きたくなって通話ボタンを押した。
「ユウちゃんひさしぶり。お誕生日おめでとう」
「ありがとう~。連絡めちゃくちゃ嬉しかったよ。うさみみ元気?」
「元気よ。ユウちゃんは? 仕事帰り?」
「うん。いま会社出て歩いてる。なんとかやっとうよ。わー、うさみみと話すのひさしぶり。どう? いろいろ」
聞くと、彼女は「先日九年つきあった彼と大喧嘩して、彼の家に置いていた荷物を持って帰った」と息荒く言った。一緒に住んでいたわけではないので住まいの問題等はなさそうだが、たぶん誰かに話したかったのだろう、最近の彼とのあれこれをまくしててるように続けた。
「そういう感じよ、もう。他に女なんかおらんとか、ぬけぬけと嘘つくけんさ。わたしがまったく気づいてないとでも思ってるんかな。もー無理。無理無理」
「そうなん、大変やったね。大丈夫? 別れて寂しくない?」
「あ、別れんよ。わたしからは別れん」
「え?」
「わたしからはアクション起こさんもん。あいつがどう出るか見とく。わたしが別れ話をちらつかせたら、下手に出てなんやかんや言うのわかっとうもん」
「うん」
「わたし十二キロ痩せたっちゃん」
「え。あ、そういえば彼氏くんがめちゃくちゃ健康的な料理作ってくれるって言いよったね、それで?」
「そうかもって思いよったけど、いや絶対これストレスやけん」
「そうかー。つらかったね」
「うん、もうね、大変よ」
「うんうん」
ひさしぶりのうさみみとの会話が楽しくて、わたしは最寄り駅をとうに越して歩き続けていた。方向感覚がやや怪しくなる。それでも、ちらちら標識を見たり、会話の隙間にグーグルマップを開いたりして、わたしは歩き続けた。
「で、誕生日にひとりで寂しくなって、わたしに電話してきたと?」
「そんなんじゃないけど。ずっと連絡しようって思いよったしさ」
「ありがと。はー、なんかもう、いろいろ考えるけどどうしようもないね」
「そうだよ。どうしようもないことってあるんよ。
ひとりの人間のできることっていうのは限界があって、もうどうしようもないって思ったら、あとはゆだねて、祈るしかないんだって。自分を守ってくれている存在っていうのか、そういうなにか大きなものに身をゆだねて、任せるしかないみたいよ。それで、もうこれ以上できません、あとはお願いします、って祈るんだって。そしたらなるようになるっていうか、うまくいくんだよ」
「ふうん」
「だけん、彼とうさみみも、抗わないでゆだねていたら行くべきところへ行くよ。大丈夫だよ」
「なんか良いこと言うね。ユウちゃん大人になったね」
「あー、さっきのくだりは受け売りやけどね、へへへ」
「なあんだあ。でもありがとう」
「へへへ」
駅が見え、そろそろ電車乗るね、とわたしは言って電話を切った。初めての駅の改札。いつもより乗り換えが多くなったけれど、余韻に浸る時間を与えてくれたみたいで苦痛ではなかった。
「電車の中だっていいんだよ、祈るのは。どこでも、静かな気持ちでいればできるんだよ」と、そのひとは言った。
揺りかごみたいな電車の中で、ゆっくり目を閉じ清めるような気持ちで祈る。ありがとう、わたしの誕生日。まぶたを開くと、見たことのない夜景がどんどん流れていくのだった。

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